第21話 レベルアップへの第一歩

僕たちはダンジョン初挑戦でダークウルフに翻弄され、全員が軽い怪我を負ってしまった。

普段運動不足の僕たちにとって、魔物との実戦は想像以上にハードで、気が抜けないものだった。

治療に一週間ほどを要し、その間に僕たちはこれからの戦い方を真剣に考えることになった。


「いやぁ、あのスピードで突っ込まれたら、今の俺たちじゃ全く太刀打ちできないですな」


洋介が頭を抱えながら言った。


「そうだね。正直言って、最初からマリがいなかったら、僕たちの初ダンジョン挑戦は完全に失敗に終わっていただろう」


拓也が悔しそうに呟き、僕たちも同じような気持ちだった。

ダンジョンの厳しさを身を持って知った今、次に進むためにどうするべきかを考え直す必要があった。




怪我の完治後、僕たちは再び集まり、次の挑戦に向けて話し合うことにした。僕たちの結論はシンプルだった――まず、マリにサポートしてもらいながら、僕たち自身が経験を積み、少しずつレベルアップしていくということだ。


「マリを主戦力にして、俺たちはしばらく彼女のサポートに徹しよう。自分たちが少しでも成長できるように、まずは経験を積むことが先決だ」


僕がそう提案すると、洋介も拓也もすぐに頷いてくれた。


「賛成ですな。自分で戦いながら少しずつコツをつかんでいかないと、次も同じ失敗を繰り返しそうですしね」


洋介は同意し、僕たちは再びダンジョンへの挑戦を決めた。


「マリ、今度は僕たちがサポートする側に回って、君が主に戦うという形でいこうと思う。最初は僕たちも守られっぱなしだったけど、今回はしっかり後ろから援護するから」


僕はマリにそう伝えると、彼女は柔らかく微笑みながら答えた。


「了解です、健太さん。皆さんが安心して戦えるように、全力でサポートします」


マリの落ち着いた声に、僕たちは気持ちが引き締まるのを感じた。



再びダンジョンの入り口に立った僕たちは、あの冷たい空気と独特の重々しい雰囲気を感じながら、慎重に足を踏み入れた。

今回はマリが先頭を進み、僕たちは少し離れて後ろからサポートする。


「今日はスライムやブラッドバットが出現するような場所で、手始めに行こう」


僕は周囲に目を光らせながら、戦いやすい広めのエリアを目指した。

しばらくすると、僕たちの前にスライムの群れが姿を現した。


「マリ、お願い!」


僕が声をかけると、マリは素早くスライムに向かって動き出した。

彼女の腕から展開されたブレードが一閃し、スライムが真っ二つに裂かれる。

マリは一度もこちらに振り向くことなく、確実に敵を排除していく。


「僕たちも援護するぞ!」


僕はシールドを構えながら、スライムがマリに近づかないよう、クラブで追い払う。

洋介もスリングショットで遠くのスライムを狙い、拓也は投擲ナイフを構えて、敵の動きを封じていた。



戦いが終わると、僕たちはようやく初めての達成感を味わった。

スライムはそれほど強敵ではなかったが、僕たちが協力し合いながら倒せたことは、確かな手ごたえとなっていた。


「やっぱりマリが先頭に立ってくれると、僕たちも少し余裕を持って動けるね。自分たちの動きも確認しながら、少しずつ慣れていこう」


拓也が満足げに微笑み、僕たちはこれからの成長に期待を寄せた。



次に出会ったのはブラッドバットだった。

天井の影から急降下してくる彼らは、スライムよりも厄介な敵だ。

だが、今回はスモークボムを使い、マリの動きをサポートする形で応戦する。


「行くぞ!スモークを展開!」


洋介が煙幕を撒くと、ブラッドバットが一瞬怯み、マリがその隙に切り込みを入れる。

彼女のブレードが連続で炸裂し、ブラッドバットを確実に仕留めていく。


僕たちはマリに頼りながらも、少しずつ戦い方のコツを掴み、彼女の援護に徹して戦うことで自信を取り戻していった。

僕たちが連携し、マリが確実に敵を倒す。

そうやって、僕たちは少しずつではあるが、成長の手応えを感じていた。


「これからも、こうやってマリと一緒に少しずつレベルアップしていこう。焦らず、自分たちの力を伸ばしていくんだ」


僕は二人にそう言いながら、次の戦いへの覚悟を新たにした。


「よし!俺たちも負けていられませんぞ!」


洋介が拳を握りしめ、拓也も笑顔で頷く。


「マリ、これからも一緒によろしく頼むよ」


僕の言葉に、マリは小さく頷き、僕たちを見守るように微笑んだ。


スライムやブラッドバットとの戦闘を繰り返すうちに、僕たちの中である一つの事実が確信に変わりつつあった。

それは、僕たちがマリの足を引っ張っているということ。

初めからわかってはいたが、マリがいなければ到底このダンジョンに挑むことなどできない。

僕たちの動きが未熟なせいで、彼女の戦闘力が十分に発揮されていないのではないかと感じ始めていた。


「正直、僕たちがマリの邪魔になってるよな」


僕が切り出すと、洋介と拓也も黙って頷いた。


「そうですな。俺たちが無駄に突っ込んでいくせいで、マリがサポートに徹しなきゃならないですぞ」


洋介が悔しそうに呟き、拓也も同じ気持ちであることを表情から読み取れた。


「試しに、僕たちのサポートをやめて、マリに自由に戦ってもらったらどうだろう?どれくらい本気を出せるのか、見てみたいんだ」


僕は提案し、2人もすぐに同意してくれた。

僕たちはマリに目を向け、意を決して声をかける。


「マリ、僕たちのことは気にせず、自由に戦ってみてほしい。僕たちは後ろで見ているから、全力でやってみて」


僕がそう告げると、マリは一瞬驚いたようにこちらを見つめ、次の瞬間には穏やかな笑みを浮かべた。


「わかりました、健太さん。それでは、全力を出します」


彼女の声には、自信と確信が感じられた。

そして、僕たちが見守る中、マリは先へと進み、待ち構えていたスライムとブラッドバットの群れに向かって、あっという間に駆け寄った。


マリの動きはまるで舞うようだった。

両腕から展開されたブレードが鋭く閃き、彼女の手によって次々と魔物が粉砕されていく。

まるで重力を感じさせないような軽やかなホバリングで、彼女は空中を自由に滑りながらブラッドバットの群れに突進した。


「な…なんだ、あの速さは…!」


洋介が呆然と呟く。

僕たちが手こずっていたブラッドバットが、マリの動きについていけず、次々と地面に落下していく。


「これがマリの本気か…想像以上だ」


拓也も目を見張り、彼女の一挙手一投足を見逃さないように凝視していた。


スライムの攻撃を受けることなく、巧みにかわしながら、その体を真っ二つに裂き、切り裂かれたスライムは一瞬で消滅していった。

さらに、ブラッドバットが接近すると、マリはリボンに隠されたバルカンを展開し、数発の弾丸を見事に命中させた。

まるで敵の動きを完全に読み切っているかのような動きだ。


次にダークウルフが姿を現し、マリに狙いを定めて突進してきた。

僕たちは以前、このダークウルフの速さに圧倒され、全く歯が立たなかったことを思い出し、思わず息を呑んだ。

しかし、マリはダークウルフの動きを正確に読み、あっという間にブレードを振り下ろしてダークウルフを真横に吹き飛ばす。


ダークウルフは再び立ち上がり、吠え声を上げて突進してきたが、マリは華麗に横へと回避し、今度は空中に舞い上がった。

ホバリングで上空から素早く接近し、ブレードを振りかざしてダークウルフに止めを刺した。

その動きは、まるでダンスを踊っているかのような美しさと洗練された戦闘技術が組み合わさったものだった。



僕たちはその場に立ち尽くし、息を呑んでマリの戦いぶりを見つめていた。

彼女の戦闘力は僕たちが想像していたものを遥かに超え、僕たちがレベルアップするためにダンジョンに挑むことが、どれほど無謀であったかを思い知らされた。


「すごい…。まるで別世界の生き物みたいだ」


僕は、ただ呆然とつぶやく。

普段はサポートに徹していたマリの、本当の力を目の当たりにして、全身が震えていた。


「俺たち、こんな凄いアンドロイドを手に入れたってのに、自分たちがどれだけ足を引っ張ってたか、よく分かったよ…」


洋介が苦笑いを浮かべながら、手に持っていたスリングショットを見つめる。


「僕たちが彼女の本当の力を引き出せてなかった。マリは、僕たちが目指しているレベルを既に遥かに超えているんだ」


拓也も同じように、悔しさと驚きの入り混じった表情を浮かべていた。


マリがこちらに戻ってくると、僕たちは思わず拍手を送ってしまった。

彼女は少し微笑み、僕たちの反応を見て柔らかく頭を下げた。


「ありがとうございます。私の力が少しでも皆さんの役に立てるのなら、光栄です」


その言葉に、僕たちは再び身の引き締まる思いを感じた。

僕たちがマリに見合う力を身につけ、共に戦うためにはまだまだ成長が必要だと強く感じたのだった。


「マリ、僕たちももっと強くなって、いつか君の戦闘に追いつけるように頑張るよ」


僕は彼女に誓いの言葉を伝え、仲間たちも決意の表情を浮かべていた。


「さぁ、マリに頼りきりじゃなく、自分たちの力で立ち向かえるようになるために、全力を尽くしていこう」


僕たちは互いに励まし合いながら、再び歩みを進めた。

マリと共に、僕たちは新たな目標を胸に、成長への第一歩を踏み出したのだった。


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