第20話 初めてのダンジョン

ダンジョンの入り口を抜けると、そこには今までG型の映像で見てきた世界が目の前に広がっていた。

長い廊下が続いており、足音を立てるたびに石畳が微かに鳴る。

壁には不自然な光が漂い、僕たちを奥へと誘うような雰囲気を醸し出していた。


「うわ、思ったよりリアルだな。こんなに空気が冷たいなんて…」


僕は周囲を見回しながら、ダンジョン独特の冷たい空気を感じていた。

これが、今から戦う世界だと思うと、自然と身が引き締まる。


「G型の映像じゃ分からなかったけど、空気が重いですぞ…」


洋介が慎重に周りを見渡しながら言った。

普段の軽い口調がどこか緊張に満ちているのを感じた。

やっぱり、映像で見るのと実際に体験するのでは全然違う。


「それに匂いも、土や石の匂いが…なんだか変な感じだね」


拓也が鼻をひくつかせながら呟いた。

僕たちが想像していた以上に、ダンジョンは生々しく、現実そのもののように感じられた。


「せっかくだから、今日はマリにはサポートに回ってもらって、僕たちができる限り戦闘を経験しよう。まずは、体で覚えないといけないから」


僕はそう言って、マリに指示を出した。

彼女は静かに頷き、背後で控えながらサポート態勢に入る。


「了解です、健太さん。私は後方でサポートします」


マリの冷静な声が心強い。

僕たちは互いに目を合わせて深呼吸し、ゆっくりと歩みを進めた。




しばらく進んだ先で、僕たちはついに最初の魔物と出会うことになった。

壁際から突如現れたのは、黒い毛並みを持つダークウルフ。

予想していたよりも大きく、鋭い目つきで僕たちを見つめている。


「来たか…ダークウルフだ!」


僕は瞬時に身構え、シールドを構えた。

僕たちが準備してきた連携を試す時が来た。


「健太!シールドで正面を抑えろ。俺はスモークを使って後ろから攻撃しますぞ!」


洋介がスモークボムを投げ、ダークウルフの視界を少しでも妨害しようとするが、ダークウルフは目の前に広がった煙を全く意に介さず、猛スピードで僕たちに向かって突進してきた。


「早い!」


あまりのスピードに、僕は慌ててシールドを構えるものの、ダークウルフは巧みに身をかわし、僕の横を通り過ぎる。


「しまった…!全然捕らえられない!」


洋介がスリングショットを構えるが、ダークウルフは次の瞬間には拓也に向かって飛びかかっていた。


「うわっ…!」


拓也が慌ててナイフを構えるも、動きが追いつかず、ダークウルフに倒されかける。

予想していた戦略とは全く違い、現実の戦闘の厳しさを実感した。


僕たちの動きは連携どころかバラバラで、誰も思うように動けていなかった。

普段は頭脳を使って策を練ることが得意な僕たちだが、戦闘では全く役に立たない。


「くそ…足が…追いつかない!」


僕は足元がおぼつかず、シールドを構えたものの、ダークウルフの素早さには対応できなかった。


「拓也!大丈夫か?」


洋介が駆け寄ろうとするが、ダークウルフは彼の前に立ちふさがるように構えた。


「まずい、全員が危ない…マリ、援護を!」


僕が叫ぶと、マリは素早く動き出した。

彼女の体が空中を滑るように移動し、ダークウルフに向かってブレードアームを振るう。


「私に任せてください」


彼女の声と共にダークウルフは攻撃をかわされ、数歩後退する。

マリは冷静に次の一手を待ち、ダークウルフの動きを読みながら、的確に攻撃を繰り返していく。

彼女の動きは鋭く、僕たちがどうにか体勢を整えている間に、ダークウルフは徐々に追い詰められていった。


「助かった…。やっぱりマリがいてくれてよかった」


僕は安堵のため息をつき、マリの背中を見つめた。


マリがダークウルフを完全に撃退すると、僕たちは改めてその実力を痛感しつつ、助けられたことに感謝した。

お互いの顔を見合わせると、服には傷と砂埃が付き、全員が軽い怪我を負っていた。



「僕たちの連携がこんなにも簡単に崩されるなんて…」


拓也が悔しそうに地面を見つめている。


「くそ、まったく思ったように動けなかった。鍛えていないと本当に動けないんだな」


僕は拳を握りしめ、自分の力不足を痛感した。


「でも、マリがいてくれたおかげで助かった。これが現実なんだな…ダンジョンの厳しさってやつを思い知らされたぜ」


洋介も悔しそうに呟いた。


「一度撤退しよう」


僕の言葉でダンジョンからの撤退が決まる。


ダンジョンの入り口を出ると、僕たちはそれぞれがダンジョンの恐ろしさを思い知り、もっと鍛えなければならないと強く感じた。

初めての挑戦は失敗に終わったが、これもまた一歩前進。

僕たちはこの経験を糧に、再挑戦の準備をしようと誓った。

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