第19話 装備と魔物

初めてのダンジョン挑戦を前に、僕たちは取引所で装備を揃えることにした。

マリの準備は整っているが、僕たち自身の装備はまだ心もとない。

ダンジョン攻略にはそれなりの備えが必要だと考え、少しでも安心できる装備を手に入れるため、慎重に選ぶことにした。


取引所は以前にも来たことがあったが、今回は自分たちの装備を手に入れるために、いろいろな売り場を回り、比較検討する必要があった。

僕たちは、手持ちの資金を考えながら、コスパ良く実用性の高いものを探していた。


「ここにあるのが、初心者向けの軽装アーマーってところか」


僕は並んでいるジャケットやパッド類を見ながら、洋介と拓也に話しかけた。

店員が勧めてくれた装備には、軽い防具と簡単な武器が多く、低層のダンジョンであれば十分に役立ちそうだ。


「おれは、このタクティカルベストにしようかな。軽いし、何よりポケットが多いですな」


洋介が手に取ったのは、複数のポケットが付いたタクティカルベストだった。

軍事オタクらしい選択で、小型の道具やポーションを携行するのに適している。


「確かに、それは便利そうだね。僕も同じようなベストを買おうかな」


拓也も似たようなベストを手に取り、内蔵されたポケットの数や素材を確認している。

彼は分析やサポートを担うことが多いため、小物や簡易ツールを携行しやすいベストを選ぶのは良さそうだ。


しばらくすると、僕たちはそれぞれの特徴に合わせて装備を選び始めた。

店内を歩き回り、使い勝手や防御力を考えながら、最適な装備を見つけていく。


「健太くんにはこれがいいかもよ」


拓也が指差したのは、簡易的なシールドとクラブだった。

見た目は少し重そうだが、体重を活かして攻撃するのにぴったりだ。


「そうだな。これなら魔物が近づいてきても、一撃で押し返せそうだし、シールドで防御もできる」


僕はシールドを手に取り、少し振り回してみた。

手にしっくりと馴染む重さで、クラブも簡単に扱えそうだ。

低層であれば、この組み合わせで十分に対応できるだろう。


「よし、これで決まりだな。俺はこのスリングショットとスモークボムでいくぜ!」


洋介は得意気にスリングショットを手にして、店員に使用方法を尋ねていた。

スリングショットは威力が高くないが、低層の魔物相手には牽制として役立つはずだ。

そして、スモークボムはパーティー全体のサポートとしても便利そうだ。


「僕も、シンプルな投擲用ナイフを持っていくことにするよ。もしもの時の護身用にはこれで十分だ」


拓也は、小型のナイフを数本手に入れた。

彼はサポート役だが、いざという時に自分を守るための手段は必要だ。

ナイフは手軽で持ち運びやすく、ダンジョン内で予想外の事態に対応するために持っておくのに適している。


装備を決めた僕たちは、店員に支払いを済ませ、選んだ防具と武器を持って店を後にした。

手にした装備はシンプルで決して派手ではないが、それぞれの個性や役割に合わせた選択ができた。

最初の挑戦にはこれで十分だと思う。

気が引き締まり、ダンジョンへの期待と不安が混ざり合った気持ちになった。


「これで準備万端だな。ついにダンジョン攻略に向けて、第一歩を踏み出す時が来た」



僕たちはダンジョンに潜る前に、まず第一層に出現する魔物について確認することにした。

各魔物の特徴や戦い方を共有し、注意点や連携方法について話し合うことで、ダンジョン攻略を安全に進められるようにしたいからだ。




「まずは、スライムだな」


僕が最初に話を切り出すと、洋介が資料を見ながら説明を始めた。


「スライムはとにかく体が柔らかくて、ちょっとした攻撃でも分裂することが多いですな。気を抜くと粘液で動きを封じられてしまうかもしれませんぞ」


彼が見せてくれた資料には、スライムがゼリー状の体を揺らしながら移動する様子が描かれている。


「それなら、直接触れないように距離を保ちながら、打撃で分裂させて倒すのが良さそうだね」


拓也が頷きながら同意する。


僕もそれに続けて


「スライムは粘液で動きを鈍らせるから、僕がシールドで守りつつクラブで分裂させるよ。洋介、スリングショットでサポートしてくれる?」


と提案した。


「お任せあれ。接近される前に、目を狙ってやりますぞ」


洋介はスリングショットを手に取り、どこか自信に満ちた表情を見せた。



次に、僕たちはブラッドバットについて話し始めた。

コウモリ型の魔物で、素早く飛び回る厄介な敵だ。


「ブラッドバットは飛行しながら攻撃してくるし、吸血して体力を回復する能力も持ってる。簡単に言えば、どんどん倒さないと厄介だよね」


拓也が冷静に指摘する。


「音や光に弱いなら、煙幕を使って動きを制限できるかもしれませんな。スモークボムが上手く効けば、あいつらの動きが鈍るでしょう」


洋介がスモークボムを手にし、軽く振って見せる。


「それなら、ブラッドバットが飛び回り始めたら洋介が煙幕で動きを鈍らせて、その隙に拓也がナイフで攻撃する感じかな?僕はシールドで守りに徹するから、みんなが集中して攻撃できるようにサポートする」


僕は2人の顔を見ながら提案し、細かい連携について確認した。


「なるほど。では、煙幕を使ってブラッドバットの動きを封じて、近距離で仕留める戦法ですな」


洋介が作戦を頭の中でシミュレーションするように頷いた。



そして、最後にダークウルフについて話すことにした。

この魔物は他の2種類に比べて格段に攻撃力が高い。


「ダークウルフは集団で行動することがあるし、素早い動きで背後に回り込んでくることも多いから、油断できない相手だね」


拓也が指摘しながら、シリアスな表情を浮かべた。


「そのため、僕がシールドを使って正面から引きつける。奴らが僕に気を取られている隙に、洋介と拓也が側面から攻撃する感じでいこうか」


僕は自分の役割を考えながら、2人に説明を続けた。


「いいですな。じゃあ、僕はスリングショットでダークウルフの目を狙います。これで視界を奪えば、少しは動きを封じられるはず」


洋介が意気込んで、スリングショットを構える仕草をしてみせる。


「その間に僕は、ナイフで後ろから攻撃する。スピードが速いから一度で仕留められないかもしれないけど、二人で連携すればなんとか対応できると思う」


拓也も戦略に賛成し、彼の手元には投擲用ナイフが数本並んでいる。




僕たちはそれぞれの役割を確認し、戦い方を頭に思い描いていた。

最初のダンジョンでありながら、これだけ準備が整えば少しは安心できそうだ。


「よし、これでいけるね。初めてのダンジョン攻略だけど、みんなでしっかり連携して進めば大丈夫さ」


僕は深呼吸し、改めて二人に目を向けた。


「おう!新しい装備も試したいし、俺たちの力がどこまで通じるか楽しみですぞ!」


洋介が笑顔で答えると、拓也も笑みを浮かべて頷いた。


「確かに、これからが本当の挑戦だね。みんなで無事に帰ろう」


拓也の言葉に、僕たちは互いに深く頷いた。

これから待ち受けるダンジョンの試練に備え、準備を万端にして第一層へと足を踏み入れる覚悟ができた。

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