第18話 マリ
僕たちは試行錯誤の末、ついに完成させた。
ダンジョンでの戦闘と探索を担う、最新のAI搭載型アンドロイド。
その名も「マリ」。
僕たちは彼女に人間のような外見を持たせ、ダンジョンの過酷な環境でも耐えられるよう細心の注意を払って作り上げた。
マリは、か弱く見える少女の姿をしているが、その見た目に惑わされてはいけない。
長いストレートの黒髪に見えるのは、ホバーユニットの排気口で、ホバー機能を使う際には髪がまるで生き物のように風に揺れる。
そして、その髪の間からは、さりげなくエネルギーが漏れ出しており、ダンジョン内での安定した飛行を可能にしている。
「こいつは、見た目の可愛さとは裏腹に、僕たちが求めていた戦闘力を全て詰め込んでいる」
僕は、完成したマリを眺めながら、思わず満足げに言った。彼女はただのロボットではない。
僕たちが持てる技術の全てをつぎ込んだ、ダンジョン攻略のための最強のアンドロイドだ。
「さすがですな!この薄い装甲が、実は魔物の硬い装甲素材で作られているとは、敵も夢にも思うまい」
洋介が誇らしげに、マリのボディを見つめる。
確かに、見た目はスリムでか弱そうだが、軽量化と耐久性を極限まで追求した設計で、魔物の強力な攻撃にも耐えられる仕様だ。
素材にはダンジョンで得た高耐久の装甲を使用し、そのおかげで軽量化と強度を両立させることができた。
「それに、この両手の腕には可変型ランチャーが仕込まれている。遠距離からの攻撃にも対応できるし、武器の切り替えも自動で行えるんだ」
僕はマリの両腕を指差しながら説明する。
ランチャーは魔石を弾薬として利用し、通常の弾丸では通用しない敵にも効果的に攻撃できる。
魔石の属性に応じて攻撃のタイプも変わり、火、氷、雷など、さまざまな属性攻撃が可能だ。
「そして、見た目には可愛らしいリボンだが、この中にはバルカン砲が隠されている。頭の両サイドに仕込んだバルカン砲で、近距離の敵を圧倒することができるように設計した。まさに、見た目と戦闘力のギャップが、敵に油断を誘うに違いないですな!」
洋介が自信たっぷりに解説し、さらに自慢げにマリの頭部を指し示した。
リボンの形状は単なる装飾ではなく、戦闘時には自動的に展開してバルカン砲が発射される。
そして、マリの最大の特徴は、彼女のスカートのように膨らんだ下部装甲にある。
この中には動力源、エネルギー変換装置、センサー、さらにはバックアップシステムまでが詰め込まれている。
魔石のエネルギーで動くこの部分は、ダンジョン内でも自ら補給が可能で、動力が尽きる心配がほとんどない。
「これで、僕たちがダンジョンで見たどんな魔物相手でも、対応できるはずだ」
僕は、ついに完成したマリを見つめながら、強い決意を感じていた。
彼女は僕たちがダンジョンの深層で戦うための希望であり、咲良を救うための最終兵器だ。
僕たちは完成したアンドロイド「マリ」の戦闘テストを行うため、人目につかない河川敷にやってきた。
教室や家の中ではテストが難しいと判断し、少しでも広い場所で彼女の能力を試すことにしたのだ。
僕たちは緊張しつつも、期待と興奮が入り交じった気持ちでマリのパワーを確認する準備を整えた。
「ここなら周りも静かだし、誰にも見られずにマリの性能を確認できるな」
僕が辺りを見渡しながら言うと、洋介がニヤリと笑い、手元のタブレットでマリの起動システムを確認し始めた。
「よし、準備完了ですぞ。マリ、準備はいいか?」
洋介が指示を出すと、マリはそのか弱い少女の姿で静かに立っていた。
しかし、その目は鋭い光を宿し、すでに指示に応える態勢になっている。
「今回のテストでは、まずはホバー機能と基本的な武器の動作を確認する。ランチャーの射程とバルカンの威力、それからホバーの安定性もチェックして、問題がないか確認しよう」
拓也が冷静に説明を進めた。僕たちはそれぞれタブレットでマリの動きをモニタリングしながら、テストの開始を見守った。
「まずはホバー機能から確認だ」
僕が指示を出すと、マリの長い黒髪がゆっくりと風に舞い上がり、彼女の体がふわりと宙に浮いた。
髪に見える部分はホバーユニットの排気口であり、地面から少しずつ離れると、まるで生き物のように髪が流れる。
「すごい…!まるで浮かんでいるかのように、スムーズに動いているな」
僕は感動しながら彼女の動きを見つめた。
マリはホバーユニットを使い、地面から数メートルの高さを保ちつつ、滑るように進み始めた。
その動きはとても滑らかで、バランスも完璧だ。
設計した通りに、彼女はスムーズに河川敷の上を移動していた。
「次に、ランチャーのテストだ。ターゲットはあそこの空き缶だ」
洋介が指示を出し、目標としていくつかの空き缶を並べた。
マリは両腕を構え、内部に仕込まれた可変型ランチャーがゆっくりと展開する。
その動作はまるで武器を構える戦士のようで、僕たちの心を引き締めるような迫力があった。
「マリ、ランチャー発射!」
僕が指示を出すと、彼女の腕から光が放たれ、魔石のエネルギーが弾丸となって空き缶に向かって飛んだ。
次の瞬間、河川敷に並べた空き缶が粉々に吹き飛び、周囲に小さな破片が飛び散った。
「すごい威力だ…!これなら、ダンジョンの魔物相手でも十分に戦えるはずだ」
拓也が驚きと興奮を隠せない様子で呟いた。
僕たちが設計したランチャーは、予想以上の威力を発揮してくれた。
魔石の力で放たれたエネルギーは、河川敷に響くほどの破壊力を持っている。
「お次はバルカン砲のテストですな」
洋介がタブレットで操作し、マリに指示を送る。
彼女は少しだけ体の角度を変え、頭の両サイドにあるリボン型の部分を展開し始めた。
リボンが静かに開き、その内側から小型のバルカン砲が姿を現す。
「マリ、バルカン砲発射!」
拓也が合図を送ると、マリは素早くターゲットに照準を合わせ、バルカン砲から一斉射撃を始めた。
リボンの中から連射される銃弾は、遠くの木の枝を粉砕し、さらに並べたターゲットを次々と撃ち抜いていく。
「近距離戦でもかなりの威力ですな。リボンに隠されたバルカン砲のおかげで、敵が油断しているところを一気に仕留めることができる」
洋介が満足げに笑みを浮かべる。
これで、マリは遠距離の敵をランチャーで、近距離の敵をバルカン砲で制圧することができる。
河川敷でのテストは大成功だった。
「ホバーでの機動性も、武器の威力も申し分ない。これで、マリはダンジョン攻略に十分な力を備えたといえるだろう」
拓也が確認作業を終え、深く頷いた。
マリは軽く浮かびながら、僕たちの前に立っている。
その様子はまるで頼れる仲間そのものであり、彼女の存在が僕たちの心を奮い立たせてくれる。
僕たちはアンドロイド「マリ」の完成に向けて、武装や防御だけでなく、戦闘力を徹底的に鍛え上げるために仮想空間でのディープラーニングを活用することにした。
彼女をただの武器としてではなく、戦場を制する最強の戦士として育て上げるために、あらゆる武術と戦闘術を学ばせることにしたのだ。
僕たちはまず、マリに中国拳法のデータを大量に入力した。
中国拳法は多様な動きや体の使い方を含み、状況に応じて柔軟に戦うための技術が豊富だ。
次に、各国の軍隊で実践されている格闘術や戦闘術をもとに、タクティカルアプローチも組み込んだ。
格闘技や武術だけでなく、軍事的な戦闘技術も学ばせることで、近接戦闘でも一対多の状況に対応できるようにした。
「よし、これで最初の訓練は完了だ」
僕たちは仮想空間で生成されたデータをマリに与え、ディープラーニングを始めさせた。
マリは仮想空間で様々な武器を使いながら、敵と戦い、勝敗から学習していく。
最初は基本的な技や動作を身に付けるところから始めたが、時間が経つにつれて、彼女の戦闘スタイルが少しずつ洗練されていくのが分かった。
洋介がスクリーンを見つめながら言った。
「これだけの武術を何万年分も繰り返し学習させることで、マリは一体どれだけ強くなっていくのか…想像もつきませんな」
「いや、これがただの繰り返し学習じゃないんだ」
拓也が説明を続ける。
「武器の特性や状況に応じて戦い方を変えるために、学習内容を毎回少しずつ変えていく。こうすることで、彼女が特定の武術や戦術に依存することなく、柔軟に対応できるようにするんだ」
マリが学んでいる仮想空間では、最初は拳法や格闘技のみでの戦闘を繰り返していた。
しかし、僕たちは彼女の学習をさらに深化させるために、様々な武器の使用も組み込んだ。
剣、ナイフ、ランチャー、さらには投擲武器といった多種多様な装備で戦いを体験させ、彼女にとって最適な戦闘スタイルを模索させたのだ。
「マリが進化していくたびに、武器の使い方もどんどん洗練されていってるな」
僕は、仮想空間での戦闘データを見つめながら呟いた。
彼女は毎回異なる敵と戦い、その戦闘データを次々と学び取っている。
何万年もの間、戦闘シミュレーションを繰り返すことで、マリは新たな技を身につけ、様々な戦闘パターンを習得していく。
「これで、ダンジョンでどんな敵と遭遇しても、柔軟に対応できるだろう」
拓也が確信を持って頷く。
マリは仮想空間の中で数え切れないほどの戦闘経験を積み、彼女の動きはもはや人間の戦士を超えたものとなっていた。
拳法や格闘技だけでなく、武器を用いた戦術やタクティクスも取り入れた結果、マリは圧倒的な力を持つコンバットアンドロイドへと進化していく。
ディープラーニングが進むにつれて、マリの動きはさらに驚異的なものになった。
彼女の戦闘スタイルは状況に応じて変幻自在に変わり、敵の攻撃を読みながら効率的に対応している。
特に近接戦闘では、拳法を基にしつつも、敵の動きに合わせて複数の武術や技術を融合させた新たな技が生まれつつあった。
仮想空間の中で、彼女は何度も戦い、倒れ、再び立ち上がり、さらなる戦闘技術を獲得していく。
「これで、私たちのロボットは本当に最強の戦闘マシンになった。咲良を救うための道が見えてきた気がする」
僕は、画面の中でひたすら戦い続けるマリの姿を見つめながら、胸が熱くなるのを感じた。
マリは、ディープラーニングによって自らの限界を超え、最強のコンバットアンドロイドへと成長を遂げた。
武術と武器を自在に操り、どんな状況にも対応できる戦士へと進化した彼女は、僕たちの最後の希望そのものだった。これで、ダンジョンの奥深くへ進むための準備は整った。
「さぁ、マリ。君の力で、僕たちの進むべき道を切り開いてくれ」
僕たちは、マリを仮想空間でのダンジョン攻略に投入し、その過程で彼女をさらに改良していくことにした。
実際に人間のように動かす必要があるのか、マリの効率を最大限に活かすにはどのような形が最適か――その全てを仮想空間での戦闘を通じて洗練させていく。
マリのデータを仮想空間に転送し、ダンジョン攻略を開始させると、彼女はすぐにあらゆる動きに対して適応を始めた。
G型も仮想空間内に投入し、クラウド通信でリアルタイムに連携していく。
G型はマリの視界を補い、敵の動きを察知するサポート役として機能させることで、仮想ダンジョンでの探索や戦闘の効率を高める。
マリが仮想ダンジョンを攻略する中で、いくつかの課題が浮き彫りになった。
例えば、戦闘中に周囲の状況を分析しつつ、仲間と連携を取るには、今のままでは人間らしい柔軟な会話能力が必要だった。
そこで、僕たちはマリに会話能力を追加することにした。
「マリ、進行方向の敵数を知らせてくれ」
僕が仮想空間内で指示を出すと、彼女はすぐに反応し、簡潔に答えた。
「前方に敵3体。うち2体は大型。回避ルートを推奨します」
彼女の声は冷静で落ち着いており、状況に応じたアドバイスも含まれている。
これで、仮想空間だけでなく、実際のダンジョンでも指示を出し合いながら進行できるようになる。
次に、僕たちは彼女の動きをさらに最適化するために関節の可動域を拡大することに注目した。
これまでのロボットは、人間と同じ動作ができることにこだわっていたが、仮想空間でのテストを重ねるうちに、実際には人間にはありえない動きを可能にすることで、戦闘の効率が大幅に向上することに気がついた。
「マリ、敵の後ろに回り込むように動いて、相手の死角から攻撃だ」
洋介が指示を出すと、マリは普段はありえない角度で腕を後ろに回し、相手を見事に捕らえて攻撃した。
仮想空間内で戦闘の度に、彼女の動きは徐々に洗練され、人間の動作の限界を超えた独自のスタイルが形成されていく。
「見た目には驚くかもしれないが、これなら隙を見せずに戦えるはずだ」
拓也が画面を見つめながら感嘆する。
彼女の腕や脚が人間にはありえない角度で曲がり、まるで生き物のようにしなやかに動きながら、敵を的確に制圧していく様子は圧巻だった。
さらに、マリの戦闘時の死角を減らすため、肩の左右後方に小型カメラを追加することにした。
このカメラは、彼女が背後の状況を常に把握できるようにするための改良で、G型からのクラウド通信を通じて映像が共有される。
これにより、マリは戦場での視界をさらに広げ、無駄な動きを極限まで抑えることができるようになった。
マリとG型の連携もさらに磨き上げるために、僕たちはクラウド上でリアルタイムの演算処理を強化し、彼女がG型からの情報を瞬時に受け取れるようにした。
仮想空間での戦闘中、G型は前方にいる敵の位置や種類、さらには動きの予測データを瞬時にマリへ転送する。
マリはそのデータをもとに、最も効果的な攻撃ルートを選びながら敵を制圧していく。
僕はその様子を見て、感嘆の声を漏らした。
「G型のデータを受け取って、自分で考えながら戦っている…。マリの戦闘能力は、もう僕たちの想像を超えているな」
マリの動きはますます洗練され、まるで相棒のようにG型と連携しながら、効率よく仮想空間のダンジョンを攻略していく。
マリの反応が速くなればなるほど、G型のサポートも正確で効率的になり、2機が一体となった戦闘スタイルが完成していった。
最終段階では、仮想空間内で僕たち3人のデータも追加し、マリが僕たちを守るように戦うテストを行うことにした。
僕たちはあえて仮想空間内で貧弱なデータとして動き、マリが僕たちを保護しつつ高難易度のダンジョンを攻略する設定にした。
敵はどんどん強力になり、僕たちの進路を妨げるが、マリはその全てを予測し、的確な判断で敵を撃退してくれる。
「後方の敵2体を制圧。進路を確保しました」
マリの冷静な声が響き、僕たちは彼女の動きに守られていることを実感した。
彼女は常に僕たちを囲むように動き、必要に応じて瞬時に攻撃と防御を切り替える。
僕たちのデータを守ることを最優先にしつつ、マリは巧みに敵を撃退していく。
洋介が感嘆の声を上げた。
「見事ですな…まるで盾と剣の両方を兼ね備えた戦士のようですぞ!」
「これなら、現実のダンジョンでも僕たちを守りながら進むことができる。エリクサーが眠っている深層への挑戦も、もはや夢じゃない」
拓也も興奮を抑えきれずに言った。
仮想空間の中で何万年もの戦闘経験を積んだマリは、もはや僕たちが想像した以上の力を手にしていた。
彼女は単なるアンドロイドではなく、僕たちの守護者であり、共に戦う仲間そのものとなっていた。
僕たちはマリを頼りに、ついにダンジョンの最深層へと進む覚悟を決める。
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