第17話 冷笑と変わりゆく時代
僕たちは放課後の教室で、戦闘ロボットの設計について話し合っていた。
科学オタクの拓也と軍事オタクの洋介が、それぞれの専門分野からアイデアを出し合い、どんどん話が盛り上がっていく。
僕も彼らの意見を聞きながら、ロボットの具体的な機能や、どうすればダンジョンの深層で役立てるかを考えていた。
「ホバーユニットで機動性を上げて、さらに遠距離からのミサイルランチャーと近接バルカン砲で魔物を一掃する…完璧だ!」
洋介は熱っぽく語りながら、ノートに次々とメモを書き込んでいく。
「さらに、魔石を動力源にすれば、炎や氷など属性攻撃の切り替えも可能だ。これで深層の敵にも対応できるはずだ」
拓也も自信満々に設計図を指差し、僕たちに説明してくれる。
「これなら、僕たちが直接戦わなくても、ロボットがしっかり戦ってくれる…!」
僕も興奮を抑えきれずに笑顔を浮かべた。
だが、そんな僕たちの興奮を、あざ笑うような声が背後から響いた。
「へぇ~、なんだよお前ら、今度は戦闘ロボットとか作るつもりか?マジで時間の無駄だな」
声の主は、クラスメートの田中だった。
彼は、派手な格好の彼女・藤崎 美穂を連れ、その後ろには取り巻きの大野と山口も控えている。彼らは冷笑を浮かべ、僕たちを見下しているのがわかった。
「田中…どういう意味だ?」
僕は田中の冷笑に、思わず苛立ちながら問いかけた。
「言った通りさ。お前らの言うような『ロマン装備』は、せいぜい低層でしか役に立たないってことだよ」
田中は鼻で笑い、悠然と続けた。
「低層なんて、俺たちでも普通に攻略できるレベルだろ?ちょっとレベル上げれば、低層の魔物なんか簡単に倒せるんだよ」
「それに、銃火器だのミサイルだの、そういうのが通用するのはせいぜいダンジョンの最初の層だけ。俺たちの周りで話題になってるような上位層じゃ、全然効かねぇよ。だって自衛隊が装備してる銃火器だって、低層でしか使えなかったって話じゃんか」
山口がニヤニヤしながら言葉を継いだ。
「そうそう、自衛隊がダンジョン攻略に挑んだって、結局は数層までしか進めなかったんだってさ。だからあいつらは今、低層の警備しかしてねぇって話だぜ?」
大野もあざ笑うように言う。
「そもそもさ、低層でしか役に立たないなら、わざわざロボットなんか作ってる時間が無駄だろ?その時間があったらレベル上げて、自分で攻略する方がよっぽど効率的だぜ?」
田中は僕たちを見下すように話し続け、藤崎は腕を組んで冷たく微笑んでいる。
「そうね~。どうせ、私たちみたいにレベルアップできる自信がないから、ロボットなんか作ってるんじゃないの?」
藤崎は退屈そうに笑いながら、僕たちを蔑むように見た。
その一言が、僕たちの胸に突き刺さった。
洋介が悔しそうに拳を握りしめ、言い返そうとしたが、田中はそれを遮るように声を上げた。
「お前らの夢物語なんて、実際に深層に行ったこともない奴らには絵空事だよ。現実見ろよ、現実を。お前らみたいなオタクが作ったロボットで、どこまで行けると思ってんだ?」
僕は何も言い返せなかった。
確かに、田中の言うことにも一理ある。
僕たちが作ろうとしているロボットが、どれほどの戦闘力を持っていたとしても、今のままでは深層で通用する保証はない。
それは僕たちも分かっている。
だからこそ、リスクを承知で挑もうとしているのだ。
「まぁ、頑張れよ。その無駄な努力をさ」
田中は鼻で笑い、取り巻きたちと一緒に教室を出て行った。
彼らが去った後、僕たちの間にはしばらく重苦しい沈黙が流れた。
「…悔しいですな」
洋介が絞り出すように呟いた。
「あいつら、何も分かってないのに…」
「でも、実際問題、彼らの言うことも完全には否定できないかもしれない」
拓也が冷静な声で続けた。
「自衛隊の例も事実だ。僕たちが開発しているロボットが、どこまで通用するかは分からない」
僕は歯を食いしばり、拳を握りしめていた。
「それでも…それでも、僕たちはやるしかないんだ。咲良を救うためには、どうしてもエリクサーが必要なんだ。だから、彼らに何を言われても、僕たちは諦めない」
僕たちは互いの顔を見つめ合い、力強く頷いた。
確かに、田中たちの言葉には現実的な不安を突きつけられた。
ダンジョンで得た魔石やアイテムを資金に変えるため、僕たちは久しぶりに取引所へ足を運んだ。
G型やラットの改良を進めるためには、少しでも多くの資金が必要だ。
僕たちは気持ちを新たにして、今後のダンジョン攻略に向けての資金を整えようと張り切っていた。
取引所は以前に比べてさらに賑わっており、さまざまなアイテムが並んでいる。
だが、そんな中で目を引いたのは、無造作に積み上げられていた銃火器とロボットパーツの数々だった。
「なぁ、あれって…」
僕は驚いて足を止めた。
目の前には、かつて軍事用として使われていたはずの銃火器が、信じられないほど安価で並んでいる。
それらは、もはや時代遅れの品のように、ほとんど価値がないかのように投げ売りされていた。
「これってどういうことですな?昔なら、こんな銃火器なんて高価な装備だったはずですぞ」
洋介も驚いた様子で、並んでいる武器の値札を見つめていた。
「ロボットのパーツも、以前に比べてかなり値下がりしている。これじゃ、僕たちが必死に作ろうとしているロボットがまるで無価値みたいだ…」
拓也が悔しそうに呟いた。
僕たちは最新技術に賭けているが、時代は既に変わりつつある。
ダンジョンの登場によって、従来の科学技術や兵器は通用しないものになり、魔石や魔法の方が重視される世界に移り変わっていたのだ。
「このままじゃ、僕たちの努力もただの無駄な足掻きになってしまうのか?」
僕は、胸の中に広がる不安を拭いきれずにいた。
こんなにも変わってしまった世界の中で、僕たちが頼りにできるのは、G型を使ったロボット技術だけだ。
だけど、ここで自分たちが信じる道を諦めるわけにはいかない。
その時、ふと見慣れた人影が目に入った。
「佐藤くん?」
振り向くと、そこには橘さんと彼女のパーティが立っていた。
橘さんは、優しげな表情を浮かべながらこちらに歩み寄ってきた。
「橘さん…」
僕は少し緊張しながら、彼女に挨拶を返した。
橘さんたちもダンジョンで得たアイテムを取引所に持ち込んでいるようで、その手には魔石や武器が握られていた。
「もしかして、君たちは今もロボットを使ってダンジョン攻略を目指しているの?」
橘さんが問いかけてきた。
彼女の口調は穏やかだが、その目にはどこか心配そうな色が浮かんでいる。
「そうです。僕たちは自分の力じゃレベルアップもできないし、直接戦う力もない。でも、ロボットを使ってなら…って思ってるんです」
僕は、自分たちがこれまで進めてきたことを橘さんに説明した。
ロボットの力でダンジョンに挑み、少しでも深層に進みたいという僕たちの思いを素直に伝えた。
橘さんの仲間である佐々木が口を開いた。
「君たちの気持ちは分かるけど、現実的にロボットで進める層は限られているよ。銃火器や従来の兵器が通用しない層も多いし、最深部では魔法を使わないと太刀打ちできないことがある。今の時代は、魔法の力に頼らざるを得ないんだ」
「そうなんだ。それに、ダンジョンの上層に行けば行くほど、物理的な攻撃は効きづらくなるって聞いたことがあるわ」
橘さんが優しく付け加えた。
「自衛隊が装備した最新の銃火器でさえ、今では低層でしか通用しなくなっている。ダンジョンの力は、私たちの常識を超えているのよ」
「私たちも、最初は武器や防具に頼ってたけど、結局は自分たちの力でレベルアップするしかないんだって気づいたわ。君たちも無理はしない方がいいかもしれないわ」
彼女の言葉には、善意と忠告の気持ちが込められているのが分かった。
彼女は僕たちが危険な道に進むことを心配しているのだ。
「でも…それでも僕たちは、ロボットに賭けるしかないんです」
僕は拳を握りしめ、彼女に真剣な目で答えた。
「僕たちはレベルアップできない。ダンジョンで直接戦う力もないし、仲間も少ない。でも、咲良を救うためにエリクサーを手に入れなきゃならないんです。僕たちにできるのは、これしかないんです」
僕の言葉に、橘さんは少し目を伏せ、考え込むような表情を浮かべた。
彼女の隣で山下が腕を組み、真剣な顔で僕たちに言った。
「お前たちがそれだけの覚悟でいるなら、止めるつもりはない。でも、現実的に厳しいことも理解しておくんだ。俺たちも、下層の敵を相手にするときは、自分たちの力がどれほど無力か痛感することがあるからな」
佐々木も軽く頷き
「もし本当に行くなら、せめて慎重に進めよ。ロボットの力に頼るのもいいけど、無理をしすぎると命を落としかねない。ダンジョンには、俺たちが想像もつかないような危険があるからな」
と、僕たちを見つめていた。
「…ありがとう、橘さん。それでも、僕たちは自分たちの力を信じて進むよ。どれだけ無謀だと言われても、僕たちができる限りのことをやり遂げたい」
僕は再び気持ちを奮い立たせるように答えた。
彼らの忠告には感謝しているが、それでも僕たちは進まなければならないのだ。
橘さんは少し微笑み、僕に向かって小さく頷いた。
「分かったわ。君たちの覚悟は理解した。気をつけて、無理はしないでね」
僕たちはお互いに別れの言葉を交わし、取引所を後にした。
橘さんたちの言葉で感じた現実と、ダンジョンの厳しさに胸が重くなる。
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