第16話 パワードスーツの断念と新たな選択

美咲の病室を訪れたあの日から、僕たちは何度もダンジョンの深層での攻略方法について話し合ってきた。


エリクサーが存在する保証はないが、彼女を救うためにできることは何でもやると決意を新たにしていた。

しかし、今までのようにロボットに頼るだけでは、深層での戦闘は到底乗り越えられないという現実がある。


これまでの僕たちは、ダンジョン探索のために「パワードスーツ」の開発を目指していた。

人間が直接ダンジョンに入るリスクを減らし、戦闘力を底上げするために強化スーツを身に付ける計画だ。

しかし、ここ数ヶ月間の試行錯誤を通して、その難しさを痛感するばかりだった。


「結局、パワードスーツの開発に必要な資金も技術も、今の僕たちには足りない。動力源の問題もあるし、ダンジョンの過酷な環境に耐えられるような素材を揃えるのも難しい」


僕は、ため息をつきながらタブレットの画面を見つめていた。

何度も計算してみたが、今のところ現実的な解決策が見つからないのだ。


「そうですな、今のままだと資金の問題もあり、このまま開発を進めても成功する保証はないですぞ」


洋介も同意しながら、資料を見直していた。


すると、拓也がふと考え込むようにして口を開いた。


「…だったら、パワードスーツを断念して、戦闘ロボットを作るっていうのはどうだろう?」


僕と洋介は顔を見合わせた。

戦闘ロボットという発想はこれまで考えていなかったが、確かに可能性はあるかもしれない。

パワードスーツに比べれば、僕たちの得意分野であるロボットの方が技術的に実現しやすいはずだ。


「戦闘ロボットか…。それなら、G型の機能を応用できるし、アタッカーとして僕たちのパーティに加えられる。さらに、G型と連動すれば、ロボットで探知した情報も共有できるし、死角も少なくなるな」


僕は徐々にアイデアが浮かび始め、次々と設計図を頭の中で組み立てていった。


「おれも賛成ですぞ。G型に連動させれば、戦闘ロボットが攻撃に専念している間に、G型が周囲の状況を把握してくれる。これなら、深層での戦闘にもかなり有利に立ち回れるのではないですかな?」


洋介も興奮したように言った。


「それに、戦闘ロボットなら人間の耐久性に頼らず、魔物と直接対峙することができる。俺たちが攻撃する代わりに、ロボットがリスクを負ってくれるんだ」


拓也も自信を持って頷いた。

戦闘ロボットなら、僕たちの戦力を大幅に強化することができるかもしれない。

自らダンジョンに入るリスクを避けつつ、戦闘にも積極的に参加できる新たな形が見えてきた。



僕たちは早速、戦闘ロボットの設計に取り掛かった。

これまでのG型の技術とノウハウを活用しつつ、今度は攻撃力と防御力を兼ね備えた機体を作る。

特に、ダンジョンでの激しい戦闘に耐えられるよう、強固な素材を採用し、機体全体を攻殻素材で覆うことに決めた。

これにより、軽量化も実現しつつ耐久性も上がり、G型と同様に長時間の稼働が可能になるはずだ。


「まずは遠隔操作で動かしつつ、G型と連動させて情報を共有する機能を強化しよう。これならG型の視界から外れる敵も、戦闘ロボットが素早く対応できる」


僕は設計図を描きながら説明した。戦闘ロボットの機体にはカメラとセンサーを多数搭載し、G型が得たデータをリアルタイムで受信し、死角を最小限に抑えられるようにする。


「攻撃方法はどうするつもりだ?」


拓也が興味深そうに尋ねてきた。


「まずは遠距離用と近接用の武器を両方持たせようと思う。遠距離では小型の射撃武器、近接では鋭い刃物を使って攻撃できるようにする。魔物に接近された時も対応できるように、素早く動けるよう設計する予定だ」


僕は熱心に説明しながら、紙にメモを取り続けた。

戦闘ロボットには、できるだけ多くの戦闘パターンに対応できる武器を持たせ、ダンジョン内での状況に合わせて対応できるようにする。


「さらに魔石を動力源にすれば、ダンジョン内で充填しながら動けるから、これまでのバッテリー問題もクリアできる」


洋介も設計図を見ながら、次々と改善点を出してくれた。

拓也がロボットの基本設計に入ろうとすると、洋介が突然、目を輝かせながら言い出したのだ。


「待ちたまえ。ロボットを作るということは、軍事オタクとしては黙っていられませんな!」


洋介は声を張り上げ、熱っぽく続けた。


「これはただのロボットじゃない!我らが運命を共にする相棒、名付けるならば『オートマトン』だ。戦闘のあらゆる局面で対応できるよう、徹底的に軍事面からのアプローチを考えるべきですな!」


拓也が面食らいながらも興味を示した。


「軍事面…具体的にはどんなことを考えているんだ?」


洋介は満面の笑みを浮かべて、自信たっぷりに説明を始めた。


「まずは火力だ。魔物に対抗するために、遠距離用のミサイルランチャーと近接用のバルカン砲を搭載すべきですな。さらに、状況によって武器を交換できるモジュールシステムを採用すれば、どんな戦場でも適応できる万能兵器になりますぞ!」


「いやいや、それではただの火力重視の機体になるだけじゃないか」


拓也がすかさず反論した。


「これが単なる戦場ならそれでいいかもしれないが、僕たちが行くのはダンジョンだ。未知の魔物に備えるには、科学的に特殊な武器を用意すべきだ。例えば、敵の動きを鈍らせる粘着性の化学液体を散布する装置とか、光を利用して敵の目を幻惑するフラッシュシステムとか!」


すると洋介が


「おぉ、さすが科学オタク!そちらも実に魅力的ですな!」


と感心したように叫ぶと、二人の間で熱い議論が始まった。



僕は二人の勢いに少し驚きながらも、彼らの話に耳を傾けた。

拓也は科学的な観点から、洋介は軍事的な観点から、次々とアイデアを出し合っている。


「軍事オタクとしては、防御システムも欠かせませんな!自己修復機能があれば、戦闘中に受けたダメージも即座に修復可能ですし、ダメージの分散をするためのマルチアーマーも装備させるべきですぞ」


洋介は、何かに取り憑かれたようにノートに書き込み続けていた。


「いや、それでは重すぎる。ダンジョン内では機動性が重要なんだ。防御も大事だが、まずは攻撃を回避することが最優先だ」


拓也が即座に反論する。


「そのために、機体の軽量化を徹底し、背部にはホバーユニットを装備して、空中移動も可能にすべきだ。そうすれば、狭い通路も素早く移動できるし、敵の攻撃もかわしやすくなる」


「さらに、科学的な発想を取り入れるならば、ダンジョンの中で見つけた魔石を動力源として、エネルギーを持続的に供給できるようにしよう」


拓也が続けてアイデアを提案する。


「それに、魔石の中には特定の属性があるものもあるから、火や雷などの属性攻撃も切り替えられるようにすれば、敵の弱点を突ける」


「ふむ、それは実に興味深いですな!では、軍事面からの対抗策として、防御フィールドも組み込むべきではないか?魔石の力で作り出す一時的なバリアだ。これがあれば、特に強力な魔物の一撃を防げるでしょう」


洋介が再び熱く語り始める。


「でもそれなら、もう少し応用して、相手の攻撃を反射するリフレクター機能を取り入れるのはどうだ?たとえば、光学的なセンサーを利用して、魔物の発するエネルギーを逆流させるとか」


拓也も負けじと提案する。


彼らは次々とアイデアを出し合い、それぞれの観点からロマン溢れる装備を提案し続けた。

話しているうちに二人のテンションはますます高まり、何かとても特別なものを作り上げられそうな予感がしてきた。

僕は二人の話を聞きながら、その熱気に圧倒されていたが、同時に新しい可能性に心が踊るのを感じた。




最終的に、二人のアイデアを組み合わせた「戦闘ロボット」の設計が完成した。

科学の知識と軍事の技術を融合したこの機体は、以下のような装備が施されることになった。


1.火力モジュールシステム:魔物に応じて遠距離武器や近接武器を切り替え可能な武器モジュール。基本装備として小型ミサイルランチャーとバルカン砲を搭載。


2. 軽量化と機動性強化:背部にはホバーユニットを装備し、狭い通路での素早い移動や空中回避が可能。


3. エネルギー供給システム:魔石を動力源とし、持続的にエネルギーを供給。さらに、火や雷などの属性攻撃も切り替え可能な仕様。


4. 防御バリア:魔石のエネルギーで形成される一時的なバリアが発生し、特定の攻撃を防ぐことができる。


5. リフレクター機能:相手の攻撃を反射する特殊装備。光学センサーでエネルギー攻撃を検知し、一定の確率で反射できる。


6. 特殊化学装備:粘着性の液体を撒き、敵の動きを鈍らせる装置や、目くらまし効果のあるフラッシュシステムを搭載し、戦闘を優位に進める。



「これで、僕たちのロボットはまさにオートマトンだ。どんな戦場でも僕たちと共に戦い抜いてくれる相棒だな」


洋介が満足げにロボットの設計図を眺める。


「うん、これで深層での探索と戦闘にも対応できるはずだ。エリクサーを手に入れるために、僕たちと共に戦ってくれる最高の仲間になる」


拓也も力強く頷いた。


僕たちは、ロボットの完成に向けて、それぞれの知識と技術を駆使し、全力で取り組む決意を固めた。

科学と軍事の力を融合させたこの機体が、エリクサーを求める旅でどれほどの力を発揮してくれるのか、僕たちはその未来に胸を高鳴らせながら、開発に没頭していった。

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