第13話 橘さんのパーティとの遭遇

僕たちはラットがダンジョンから持ち帰ったアイテムを手にして、今後の資金計画について話し合いながら帰り道を歩いていた。

ラットの性能が大幅に向上し、ダンジョン素材の力を借りたことで、資金を増やすための突破口がようやく見えてきた。

しかし、手にしたアイテムを確認しているとき、僕の視線はふと前方の一角に集まっている人影に引き寄せられた。


「あれ…橘さん?」


僕は思わず足を止めた。

僕たちの少し先には、橘 美咲と彼女のパーティメンバーがいたのだ。

橘さんの隣には、筋肉質な体つきで頼もしさが溢れる山下 蓮、俊敏そうな佐々木 翔太、そして知的で冷静な中野 優花、さらに魔法使いの高木 拓海が揃っていた。


彼らは全員、ダンジョンから戻ってきたばかりのようで、それぞれの顔には達成感と満足感が満ちていた。

汗をかきながらも、どこか誇らしげに笑顔を交わし合っている。

その姿はまるで光を放っているかのようで、僕の目には眩しすぎるくらいだった。


「あ、佐藤くん?」


橘さんが僕たちに気づき、こちらに優しい微笑みを向けてくれた。

その笑顔は純粋で、僕は一瞬だけ胸が高鳴るのを感じたが、同時に強烈な劣等感が胸を刺した。


彼女たちはすでにレベルアップを繰り返し、ダンジョンの深層まで挑戦できる実力を持っている。

彼らの肌はすでに少しずつ硬く、逞しくなり、山下 蓮の腕には武器が握られ、佐々木 翔太はスッと立って自信を漂わせている。

彼らはレベルアップによって得た力で、困難をものともせず進んでいるのだ。


「おお、お前が佐藤か」


山下が僕を見つけて手を挙げた。

彼は一見無口だが、橘さんの話によれば情に厚く、周囲からも信頼されている男だ。

その佇まいには堂々とした雰囲気があり、まるで冒険者そのものだった。


「もしかして、君たちもダンジョンで何かしてたの?」


佐々木 翔太がニヤリと笑って聞いてきた。

彼の態度には威圧感はないが、そこにある余裕が逆に僕の心をえぐる。

僕たちは自分のやっていることに自信を持っていたはずだった。

しかし、彼らの姿を前にすると、自分たちがどれほど小さく、頼りない存在に思えてしまうのだ。


「うん…まあ、僕たちはラットを使って低階層を探索してるんだ」


僕は努めて冷静に答えようとしたが、声が少し震えてしまうのを感じた。


中野 優花がその言葉に反応して


「ラット?ロボットのこと?なるほど、そういうアプローチも面白いわね。でも、佐藤くんたちもそのうち直接挑戦してみたら?」


と興味深そうに尋ねてきた。

彼女は知的で冷静だが、常に新しいアイデアを追求するタイプで、その鋭い視線に僕は圧倒されるようだった。


「そうだよ。ダンジョンって、実際に体を使って動くのが楽しいんだぜ。まあ、今の僕たちの強さを見せつけちゃうと、圧倒されるかもしれないけどな!」


佐々木 翔太は軽口を叩き、仲間たちが笑顔を浮かべた。


彼らの明るさと自信、それはまるで、僕たちが永遠に追いつけない場所にいるかのようだった。

僕たちが一生懸命にラットを駆使して得た成果も、彼らからすれば取るに足りないものに映るのかもしれないと考えると、自己嫌悪に苛まれていく。


橘さんが僕に優しく微笑んで


「でも、佐藤くんたちも頑張ってるんでしょ?みんなが違う道で成長してるなら、それでいいんじゃないかな」


と励ましてくれる。

その言葉に、一瞬だけ救われた気持ちになったが、すぐにその心の奥からまた劣等感が湧き上がった。


「うん…そうだね」


僕は答えながら、ふと自分の手元を見る。

そこには、ラットが持ち帰ったアイテムが数点あるだけで、彼らの持つ強さや自信には及ばない。

僕たちは機械の力を借りて少しずつ前に進んでいるが、彼らは自らの力でレベルアップを果たし、確かな手応えと共に成長しているのだ。


橘さんのパーティは再び仲間同士で笑い合い、楽しげに別れを告げて去っていった。

その後ろ姿が徐々に遠ざかっていくと、僕は思わず拳を握りしめた。

橘さんの優しい言葉にも関わらず、彼らと自分たちとの差はどうしても埋まらないように思えた。

彼らが放つ輝きは、まるで手の届かない星のように遠く、僕たちはそこに至る道さえ見えないような気がしてならなかった。


僕たちはまだまだ未熟だ。

機械に頼らず、直接挑む彼らの強さを羨ましく感じる一方で、自分たちのやっていることに対する不安が心に重くのしかかってくる。

今まで信じてきた方法が、どれほど無意味に思えてくることか。僕たちは本当にこのままでいいのだろうか?

彼らのように、肉体で成長を実感し、輝きを放つことはできないのだろうか?


「健太…」


拓也が僕の肩に手を置いて、心配そうに見つめてきた。


「…大丈夫だよ、僕たちは僕たちのやり方で進むしかない。でも、こうしてる間に、彼らがどんどん先に進んでいくのを見ると…悔しくなる」


僕は顔を伏せて言った。


洋介もため息をつきながら


「気持ちはわかりますな。でも、今の僕たちはまだ機械に頼るしかない。きっといつか、この努力が報われると信じて進むしかないですぞ」


と言ってくれた。


僕たちは互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。

どんなに焦っても、僕たちには僕たちのペースで進むしかない。

それでも、このままではいけないという思いが、胸の奥で炎のように燃えていた。

橘さんたちのように、僕たちも自らの力で輝ける日が来るのだろうか?


僕たちは改めて決意を胸に、ラットの次なる改良や、新たなダンジョン探索の方法について話し合いながら歩き出した。

いつか、彼らに追いつき、同じ舞台に立てる日が来ると信じて。

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