第11話 家族との会話と新たな提案

ラットを使った低階層の探索を続けて数ヶ月。

資金は少しずつ貯まってはいるものの、僕たちが目指すパワーアーマーの開発には到底足りない。

学校では相変わらず馬鹿にされ、田中たちのようにレベルアップを果たした同級生たちの実力を目の当たりにするたび、焦りが募っていく。

何度も方法を考え直し、ラットを改良しようと試みたが、僕たちの技術や知識では限界があることを痛感するばかりだった。


そんな行き詰まりを感じたある晩、僕は家族と夕食の席で話をすることにした。

最近はダンジョンやレベルアップについての話題が家庭内でも頻繁に話されるようになり、母も父も、妹の菜々までもが関心を寄せている。



「それで、どうなんだ健太。ラットの開発は順調か?」


父がご飯を口に運びながら尋ねてきた。


「うん…まあ、低階層の探索は続いてる。でも、どうしても資金が貯まらなくて、進展がなくてさ。周りの連中はどんどんレベルアップしてるのに、僕たちは足踏み状態なんだ」


僕は正直に打ち明けた。

学校での悔しい思いと、成果が見えない現状に対するもどかしさが、言葉に滲み出てしまう。


「レベルアップはすごいらしいよね。友達の兄ちゃんも、ダンジョンに通い始めたら、学校の成績も良くなって、会社の採用試験にもすぐ通ったんだって!」


菜々が興奮気味に話し出した。


「確かに、最近はレベルアップが就職にも有利って聞くな。知能レベルが上がるっていうから、仕事の効率も上がるみたいだしな」


父が真剣な表情で続けた。


「うちの会社でも、ダンジョンでレベルアップした社員はすぐに重要な仕事を任されているよ。重機を使わずに肉体だけでこなせるようになって、正直、会社の経営にも影響が出てるくらいだ」


「そうなの?じゃあ、重機とかの技術がもういらなくなってきてるの?」


僕は父の話に驚いた。

重機の代わりに人の力が台頭するなんて、思ってもみなかった。


「そうよ。ニュースでも言ってたわ。最近の大企業も、ダンジョンから得た素材で新しい製品を開発しているって」


母が口を挟む。


「医療の分野でも、回復薬が普通の薬より効果が高いって言われてるし、今は研究者たちが次々とダンジョン素材を使って新しい技術を生み出そうとしているわ」


僕は家族の話に耳を傾けながら、今の時代がどう変わりつつあるのかを実感していた。

ダンジョンから得られる素材やレベルアップが、科学技術の領域を超えて社会の隅々にまで影響を及ぼし始めている。

かつてのような重機や医療技術に頼るだけの世界から、ダンジョンの力がもたらす新たな世界へと変化しているのだ。


「でも、僕たちはまだレベルアップもしていないし、ダンジョンの深部にも挑めていない。僕たちが何をしようとしても、どうしても資金が足りないんだ」


僕はしばらく考えた後、父に正直な思いを打ち明けた。


すると、父が腕を組んで考え込んだあと、静かに口を開いた。


「健太、お前たちはダンジョンの素材を集めてるんだろう?だったら、その素材をもっと積極的に活用してみるのはどうだ?」


「ダンジョン素材を活用…?」


僕は少し驚きながら父の顔を見つめた。


「例えば、今手にしている魔石や回復薬を売るだけじゃなくて、自分たちで活用する方法を模索してみるとかさ。ダンジョンで得られる素材は、人間の力を超えたものが多いだろう?お前らが今ある技術で限界を感じているなら、その素材の力を借りて突破口を開いてみるのも一つの手だと思うぞ」


「なるほど…それなら確かに、パワーアーマーだけじゃなく、ラットの性能を上げたり、僕たち自身の能力も強化できるかもしれない」


僕は父の提案に目を輝かせ、思わず興奮してしまった。

ラットにダンジョン素材を組み込んで耐久性を上げたり、センサーを強化して罠の感知能力を高めたりと、これまで考えもしなかった発想が次々と浮かんできた。


「そうよ、健太。ダンジョン素材にはまだ未知の力が隠されているんだから、無理に外の技術に頼らなくても、新しい道が開けるかもしれないわ」


母も笑顔で僕を見つめて、力強く背中を押してくれる。


「私も見てみたいよ、兄ちゃんがダンジョン素材で強くなっていくの!」


菜々も期待に満ちた目で僕に笑いかける。


僕は改めて、自分が一人じゃないことを実感した。

家族は僕の挑戦を応援してくれているし、僕たちが行き詰まっている状況に対しても前向きな意見をくれる。

何より、ダンジョン素材を使って新たな可能性を探るという考えは、僕たちの計画を一気に進めるための大きなヒントになるかもしれない。


「ありがとう、父さん、母さん。僕、もう一度仲間と話し合ってみるよ。ダンジョン素材を使って新たな突破口を見つけてみる!」


僕は力強く宣言し、家族に感謝の気持ちを込めて頷いた。




その晩、僕は洋介と拓也にメッセージを送り、翌日すぐに集まって話し合うことにした。

家族の言葉を胸に刻みながら、僕たちはダンジョン素材の力を活用する新たな計画を立てるつもりだ。

これまで以上に踏み込んだ発想を持ち、僕たちの力でダンジョンの深部へ挑むための新しい道を切り拓いていくのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る