第10話 焦りと葛藤

僕たちは膨大なデータをAIに学習させ、ラットを改良して数万年分のシミュレーションを重ねた。

様々な形状と性能のラットを設計し、空を飛ぶ小型ドローン型も開発に取り掛かってみた。

けれども、現実は厳しかった。


ドローンの飛行時間は短く、ダンジョン内部での安定した飛行も難しい。

特に低階層ではそれなりに順調に見えたものの、さらに奥深くに進むには機体の耐久性や通信範囲の問題など、越えられない壁が次々と立ちはだかった。

仮想空間でのテストではうまくいくのに、現実世界のダンジョンでは障害があまりに多いのだ。


「やっぱり、現状の技術じゃ小型ドローンによる探索は無理があるかもな」


僕がため息をつくと、洋介と拓也も疲れた顔でうなずいた。


「飛ばしても途中で墜落したり、通信が途絶えたり…これじゃあ資金の無駄遣いになってしまう」


拓也が慎重に言った。

僕たちはドローン型のラットに期待を抱いていただけに、その現実を受け入れるのに時間がかかった。


結局、僕たちはこれまで通り、地上を這うラットによる低階層での探索を続けることにした。

資金は少しずつ貯まってはいるが、それだけでは到底パワーアーマーの開発に近づくには足りない。

何か新たな突破口が必要だった。




そんな状況が続いて数ヶ月が経った頃、学校での僕たちの立場はますます厳しいものになっていた。


クラスの連中は相変わらず僕たちを馬鹿にし、時には嘲笑いさえも浮かべてくる。

特に、田中たちのようにレベルアップを果たした連中はその差を誇示するように僕たちを見下してくる。

僕たちは地味に資金を貯め、地道にラットでデータを集め続けているが、目に見える進展はない。

僕たちの努力は、他人から見れば単なる無駄に映るらしい。


「おい、デブオタ。また何か無駄な機械いじりでもしてるのか?どうせ、お前らのやってることなんて何の役にも立たないんだよ」


田中が肩を揺らしながら、こちらを見て馬鹿にしてきた。


彼はすでに数回のレベルアップを果たし、筋力と耐久力が増強されている。

クラス中が彼の実力を称賛しており、彼は完全に中心人物となっている。

その隣には、相変わらず藤崎がぴったりと寄り添い、二人して僕たちを鼻で笑っている。


「ま、レベルアップもしないで外からのぞいてるだけじゃ、何も変わらないってことだな」


藤崎も冷ややかな笑みを浮かべて言う。


「そうですな、我々にはまだ道のりが長いのですぞ」


洋介が努めて冷静に返答するものの、悔しそうな表情は隠せない。


他のクラスメイトたちも、田中と藤崎の言葉に同調するように僕たちを嘲る。

最初は仲間内でひそひそと話していたが、今では堂々と「変わり者」や「デブオタ」といった言葉を投げかけてくる。

僕たちが何をやっても、彼らには無意味にしか見えていないのだ。




数ヶ月が経ち、ラットの探索は一応の成果を上げているが、それでも進捗は緩やかであり、目に見える大きな変化はない。

ダンジョンの低階層で拾えるアイテムも、ほとんどは価値の低いものばかりだ。

冒険者たちはすでに深層部に足を踏み入れており、低階層では高価なドロップアイテムもほとんど見つからなくなっていた。


「これじゃ、ただの小銭稼ぎにしかなってない。パワーアーマーを作るには、もっと本格的なアイテムを集めないとダメだ」


僕はモニターを見ながら、無力感に押しつぶされそうだった。


「だが、今のままじゃ深部には進めない。ラットの改良が必要だし、もっと先に進むためには俺たちの技術も追いついていない」


拓也が悔しそうに言い、手の中で拳を握りしめた。


焦りは日に日に募っていく。

僕たちはダンジョンへの憧れを抱きながらも、現実の壁に突き当たっていた。

クラスメイトたちはレベルアップによって成長し、次々と新たな力を得ている。

自分たちだけが取り残されているような気持ちが、心に冷たい影を落としていく。


「くそっ、どうして…どうして僕たちはこんなに進めないんだ」


僕はつい声を荒げてしまった。

努力をしても、資金を集めても、何かが欠けているような気がしてならない。


「健太、落ち着け。俺たちは俺たちのペースでやるしかないんだ」


洋介が僕の肩に手を置いて、静かに言った。


「分かってる。でも、こうしている間にも、クラスの連中はどんどん成長してる。僕たちは一体何をやってるんだろうな…」


僕は自嘲気味に言ってしまった。


洋介も、拓也も言葉を失い、僕たちの間には重苦しい沈黙が広がった。

僕たちは仲間同士で支え合いながらも、何も解決できない無力感に苛まれていた。

ラットを駆使して低階層の探索を続けることはできても、それ以上の進展が見込めない。

僕たちの夢は、ここで終わってしまうのか。


「俺たち、今のままじゃダメなのかもしれない…何かが、足りない」


僕はようやく口を開き、ふたりに視線を向けた。


「もっと別の方法を考えないと、このままでは取り残されるだけだ」


洋介も拓也も、その言葉に真剣な顔で頷いた。

僕たちには新しい発想が必要だ。

この閉塞感を打破し、次のステップに進むための方法を見つけ出さなければならない。

もはや手探りの状態だが、僕たちは互いにうなずき合い、再び立ち上がることを決意した。


僕たちは、ただ諦めるためにここまで来たわけじゃない。

どんなに嘲られようと、見下されようと、僕たちは僕たちの方法で前に進むしかない。

そしていつか、僕たちの努力が報われる日が来ると信じて、僕たちは新たな戦略を模索し始めた。

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