第9話 壊れたラットと新たな決意

ラットの自動探索が始まってから数日が経ち、僕たちは次々と手に入るダンジョンのデータとドロップアイテムを嬉々として分析していた。

自動化されたラットは、僕たちが操作しなくても順調にダンジョンの奥へと進んでくれており、まるで自分たちが冒険しているかのような感覚だった。


しかし、そんなある日、異変が起きた。

僕たちは学校帰りにラットの稼働状況を確認していると、画面が突然ノイズに包まれ、映像が途切れ途切れになった。


「…なんだこれ?」


僕は不安を覚えながら、ラットのカメラ映像に見入った。

モニターには、ラットが通路を進んでいる映像がかろうじて映し出されていたが、その途中で突然、天井から鋭い矢が飛び出し、ラットのボディに直撃した。


「罠だ!」


洋介が叫んだ。

その直後、ラットの映像が完全に途切れ、ダンジョン内の暗闇だけが画面に映し出されるだけになった。

僕たちは言葉を失い、モニターをじっと見つめたまま固まってしまった。


「どうやら、配信データだけではまだまだ足りないようだな」


拓也が深刻そうな顔で言った。


「僕たちは浅い階層のデータしか持っていない。深部に行けば行くほど、未知の罠や魔物が待ち受けている可能性が高い」


僕は頷きながら、次のステップを考え始めた。

僕たちはダンジョンの入り口付近のデータしか集めていない上、配信者のデータも限られていた。

深部に進むほど危険が増し、ラットが対応できない状況も増えてくることは十分に考えられる。


「僕たちには、もっと膨大なデータが必要だ。実際のダンジョンだけじゃなくて、これまでに描かれてきたフィクションのデータも含めて学習させよう」


僕は思い切って提案した。


「ゲームや小説、それに映画やマンガも。高難易度のダンジョンや想定される罠、魔物のデータを徹底的に集めて、仮想空間で学習させるんだ」


「なるほど、それならダンジョンで予想外の事態が起きても、ラットが適応できるかもしれないな」


拓也が目を輝かせて同意した。


「よし、じゃあ早速データ集めだ。まずは、ダンジョンもののゲームやファンタジー小説を徹底的に調べるぞ。魔物の種類も、罠の種類も、どんな些細な情報でも役に立つかもしれない」


洋介もやる気に満ちた顔で応えた。



それから僕たちは、ネットや図書館、ゲームの攻略サイトを徹底的に調べ、あらゆるダンジョンデータを収集し始めた。

RPGのゲーム、ファンタジー小説、さらには映画のモンスターや魔法の設定まで、ダンジョンに関係するものはすべてリストアップし、AIに学習させる準備を整えた。


「このゲームのダンジョンには、フロア全体を覆う落とし穴の罠があった。これもシミュレーションに加えよう」


洋介がメモを取りながら言った。


「この小説では、魔物が突然現れるだけでなく、透明化して待ち伏せするタイプのモンスターもいる。これもラットが対応できるようにデータに追加だ」


拓也も積み上げた小説や本を手に取り、次々とデータを入力していく。


僕たちは仮想空間のダンジョンデータを更に充実させるために、トラップや魔物のシミュレーションを次々と追加していった。

火炎トラップ、毒ガストラップ、重力スイッチ…すべての罠のデータをAIに学習させ、数万年分の経験を積ませるための準備を整えていく。



「次は、ラットそのものの設計だ。学習データに基づいて、形状や性能も改良していこう。今のラットは四足歩行だけど、状況によっては飛行できる小型ドローン型も必要かもしれない」


僕はラットの設計図を見ながら、さらに性能を引き出せる新しい設計を考え始めた。


「そうだな。魔物が現れたときのために、耐久性を上げたり、攻撃力を強化することも検討しよう」


拓也が賛同しながら、ラットのボディの厚みや素材を見直していく。


「それと、ラットの大きさも場合によって変えられるようにする。狭い道に対応するために小型のものから、重装甲の大型ラットまで、使い分けできるように設計を増やそう」


洋介が追加提案し、僕たちは多様な形状や性能を持つ新しいラットのプロトタイプ設計を次々と考え出した。



数週間かけてデータを収集し、仮想空間に新たなラットを数百万匹配置して、ディープラーニングの再学習を始めた。


今度は、より多くのシチュエーションや予期せぬトラップに対応できるよう、ラットたちは仮想空間のダンジョンで数万年分の経験を積んでいく。


「今回は、単なるルート探索だけじゃなく、さまざまな罠や魔物に対応できるAIを目指そう。これでダンジョンの深部まで探索できる確率も高まるはずだ」


僕は夢中で学習プログラムを見守りながら呟いた。


仮想空間の中では、さまざまなタイプのラットがそれぞれの役割を担い、無数のシミュレーションを繰り返している。


狭い通路に小型ラットが潜り込んで進む一方で、重装甲の大型ラットが遠距離からモンスターに攻撃を仕掛ける。

高難度のダンジョンでも耐え抜けるように、ラットはより進化していく。


「これで完成したラットは、僕たちが夢見ていた最強の探索機になれるはずだ」


洋介が目を輝かせながら言った。


「今度こそ、ダンジョンの奥深くに眠るアイテムを回収し、資金を集めてパワーアーマーの開発に近づけるだろう」


拓也も自信に満ちた表情で頷く。



僕たちの新たな挑戦が始まった。

今回の失敗を踏まえ、さらに強化されたラットは、未知のダンジョンの奥深くへと進んでいくだろう。

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