第8話 自動探索ラットへの道

ラットが回収した魔石を売ったことで、僕たちの計画は一歩前進したかに見えた。

しかし、取引を終えた後に冷静になって考えると、ダンジョン探索にはまだまだ大きな資金と準備が必要だと痛感した。

パワーアーマーを作り上げるには、僕たちの持っている資金だけでは到底足りない。


「パワーアーマーの開発はもちろん大事だけど…その前に、もっと効率的にダンジョンのデータを集められる方法が必要だと思うんだ」


僕がそう提案すると、拓也と洋介も納得したように頷いた。


「つまり、ラットを増やして、さらなる資金集めを狙うってことだな?」


洋介が興奮気味に聞いてきた。


「そう。だけど今回は、手動で操作するだけじゃなくて、ラット自体を完全に自動化することを目指そうと思ってる。ダンジョン探索のデータが増えれば、より価値のあるアイテムが手に入る可能性も高まるし、何より僕たちが直接行かなくても、危険なエリアを攻略できるようになる」


僕はラットのカメラ映像を見返しながら、今後の方針を固めた。


「でも、自動化って簡単に言っても、どうやって?」


拓也が疑問の声を上げる。


「まずは、この前の手動操作データをラットの学習データとして使うんだ。それに、最近流行り出したダンジョン配信者たちの動画もある。彼らの配信データを元に、AIにディープラーニングをさせることができれば、ラットが自律的にダンジョン探索を進められるようになるかもしれない」


僕は説明しながら、パソコンの画面にダンジョン配信者の動画を表示させた。


画面には、様々な角度からダンジョン内を歩き回る配信者たちの姿が映し出されている。

彼らはエンターテインメントとして冒険の様子を配信しており、その中で戦闘シーンやアイテムの使い方も多く見られる。

これらのデータは、まさにAIが学習するための宝庫だ。


「なるほど!配信データも含めて学習させれば、ラットが仮想空間の中で自由に動き回るようになるかもしれない。さらに、手動で操作した今回のデータも、初期学習として役立つな」


拓也が嬉しそうに言った。


「よし、それじゃあ、今あるデータを投入して、大量のラットを仮想空間で動かしてみよう。仮想のダンジョンを作って、その中に数百万匹のラットを走らせて、数万年分のデータを学習させるんだ」


僕はパソコンの画面を操作し、ラットの仮想モデルを複製し始めた。


その晩、僕たちは仮想空間に数百万匹のラットを配置し、次々とダンジョン配信者たちのデータと、自分たちが収集した手動運転のデータをAIに学習させた。

ラットは仮想空間のダンジョン内で走り続け、様々なシミュレーションが行われる。


「すごいな、まるで本物のラットがダンジョン内を動いてるみたいだ」


洋介が感動した声でモニターを見つめている。


仮想空間では、数百万匹のラットが各方向に動き回り、時には遭遇するモンスターとの戦闘や、アイテムの回収をシミュレートしている。

彼らはそれぞれ異なる行動パターンを学習し、最適なルートを見つけようと試行錯誤していた。


「これなら、僕たちが直接ダンジョンに行かなくても、ラットが最適なルートや危険回避の方法を見つけてくれる」


僕はワクワクしながら、AIが学習を重ねる様子を見守っていた。


「この学習が完了すれば、ラットは自動的にダンジョンを探索できるようになる。次に資金が手に入ったら、物理的なラットをさらに増やして、どんどん探索を進められる」


拓也もその可能性に胸を膨らませているようだった。


数日間、僕たちはひたすらAIに仮想空間での学習を続けさせた。

夜を徹して見守り、時折データを確認しながら、AIが進化していく様子を見守っていた。そして、ついにディープラーニングの結果が出た。


「よし、学習完了だ!」


僕は目を輝かせてAIの最終データを確認した。

結果は予想以上に良好だった。

仮想空間で数万年分の探索を繰り返したラットは、効率的なルート探索、戦闘の回避、アイテムの効果的な回収など、様々な技能を身に付けていた。


「これで次回から、自動でダンジョンに潜らせられる。時間も手間も削減できて、より多くの収益が見込めるはずだ」


僕は自信を持って言い切った。


「ただ、実際のダンジョンでは仮想空間と違って予想外の事態が起こり得る。それでも、このラットならば安全に進める可能性が高くなった」


拓也が慎重な表情を浮かべて言う。


「そうだな。でも、これで僕たちの資金集めのペースも加速する」


洋介が拳を握りしめて喜びを噛み締めていた。


僕たちは、仮想空間で成長したラットのデータを元に、さらに資金を集めるための大量のラットを製作することを決めた。

パワーアーマーの開発はその後に進めるとして、今はまず、効率よくダンジョンを探索し、収益を得ることが最優先だ。


これまでに貯めていた資金をすべて投入し、ダンジョン探索に特化したラットを量産する準備が整った。

自動化したラットがダンジョンを探索し、次々にドロップアイテムを持ち帰ることで、僕たちはさらなる資金を手に入れ、次のステップに進むための土台を築くことができるはずだ。


僕たちは新しい夢への第一歩を踏み出した。

ラットの仮想学習によって、ダンジョン探索はより現実的なものになった。

次に必要なことは、資金を積み上げ、ダンジョンに挑むための装備を整えること。

そして、最終的には自分たちの足で、ダンジョンの奥へと踏み出す準備を整える日が来るだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る