第7話 初めての取引
ラットが持ち帰った青く輝く魔石を手にした僕たちは、その美しさにしばし見入っていた。
ダンジョンで拾われた物は「ドロップアイテム」として知られており、街のあちこちで取引がされている。
僕たちはラットのカメラ映像を通してしかダンジョンの世界を見ていないが、こうして実際に手に取ると、神秘的な力を感じるようだった。
「これが本当に魔石なら…まずは分析して、その力がどんなものかを確かめるべきだな」
拓也が慎重に言った。
彼は科学の知識が豊富で、魔石の分析に興味津々だ。
「そうだな。僕たちの手元にある機材でできる限り調べてみよう」
僕は頷き、手持ちの簡易検査キットを取り出した。
手にした魔石を小さな透明なケースに入れ、検査を始めた。
僕たちは実験を行うために学校の科学準備室を借りており、周りには分析用の装置や実験器具が揃っている。
最初の分析結果が出ると、拓也が真剣な表情で説明を始めた。
「どうやらこの魔石は、微量なエネルギーを常に放出しているみたいだ。熱エネルギーと似た性質があって、人体に触れると少しだけ体温が上がることがわかる。でも、危険性はなさそうだね」
「なるほど。もしかすると、医療用の温熱治療とかに使えるかもしれないな」
洋介も分析結果に目を通し、思案顔になる。
僕は感心しながら
「それなら、きっと高く売れるよ。これでパワーアーマーの開発資金も少しは捻出できるかもしれない」
と、喜びの気持ちを隠さずに言った。
「そうだね。早速、街の取引所に持っていこう。魔石の価値がどれほどのものか、知っておくのも大事だからな」
拓也が同意して、僕たちはその日の午後、魔石を売るために街の取引所へ向かうことにした。
街の中心に位置する取引所は、外観は小さな店舗のようだが、中に入ると予想以上に広々としていた。
壁にはいくつものディスプレイがあり、取引されているアイテムや価格が表示されている。
ダンジョンのドロップアイテムはここで取引されることが多く、冒険者や商人たちが日々集まり、活気が溢れている。
「おいおい、すごいな。まるでゲームの世界だ」
洋介がキョロキョロと周りを見渡しながら呟く。
「確かに…こんな場所、普段は来ないからな」
僕も同じく、興奮しながら周囲を見渡した。
すると、受付カウンターにいる女性がこちらに気付き、にこやかに微笑みながら
「いらっしゃいませ。今日はどのような取引をお考えでしょうか?」
と尋ねてきた。
「僕たち、ダンジョンから持ち帰った魔石を売りたいんです」
僕がそう言うと、女性は少し驚いた顔をしたが、すぐにプロの表情に戻った。
「魔石ですね?では、こちらにお持ちください。鑑定させていただきます」
彼女が示したカウンターに、僕たちは持参した魔石をそっと置いた。
彼女は慎重に魔石を手に取り、専門の鑑定機でじっくりと調べ始めた。
僕たちは少し緊張しながら待っていたが、しばらくして彼女が顔を上げて言った。
「これは良質な魔石ですね。エネルギー放出量は小さいですが、安定しており、温熱治療に適した素材です。市場価値としては、かなりのものですよ」
「やった!それで、いくらくらいで買い取ってもらえますか?」
洋介が興奮して声を上げると、彼女は微笑んで価格を提示してくれた。
「この魔石で…10万円ですね」
僕たちは一瞬目を見開いた。
まさかこれほどの値がつくとは思ってもいなかった。
僕は夢中で「お願いします!」と即答し、彼女に魔石を手渡した。
取引が完了し、僕たちは10万円を手にした。
これだけの金額があれば、パワーアーマーの基本的なパーツをいくつか買い揃えることができる。
これまで貯めてきた資金と合わせて、目標にぐっと近づいた。
「まさか、本当にこんなにお金になるなんてな…」
洋介が興奮しながらお札を見つめている。
「これで、パワーアーマーの開発も現実味を帯びてきたな。これからもラットを使ってダンジョンで情報を集めて、パーツを揃えながら僕たちも装備を強化していこう」
僕は拳を握りしめ、次の計画を頭に描いた。
「…でも、次はもう少しだけ慎重に行こう」
拓也が真剣な顔で言った。
「今回の魔石は安全だったけど、他のアイテムはどうかわからない。それに、ダンジョンの危険度も増していくだろうからね」
僕たちは頷き合い、また一歩踏み出すための決意を新たにした。
この魔石は、僕たちにとって始まりに過ぎない。
ラットと共にダンジョンへ挑む冒険の中で、これから何が待っているのか、誰もわからない。だけど、僕たちは前に進む覚悟を決めた。
「よし、じゃあ今日はこれでひとまず解散して、次の計画を立てよう。必要なパーツをリストアップして、予算を確認して…」
僕たちはそれぞれの役割を確認し、しばし取引所を後にした。
初めての取引を経て、僕たち3人の心には高揚感と期待が満ちていた。
この先、もっと多くのアイテムを見つけ、ダンジョンの秘密に迫るための装備を整えていく。
未知の世界が僕たちを待っているのだと思うと、胸の鼓動が高鳴った。
家に帰る途中、ふと僕は田中が得意げにクラスでレベルアップの話をしていたことを思い出した。
彼はレベルアップと共に力を得たと言っていたが、僕たちは僕たちなりの方法で成長を手に入れている。
それを確信できたことで、僕は少しだけ誇らしく感じていた。
次はパワーアーマーの試作を作り上げ、いつか田中のように堂々と自分の力を見せられる日を目指そう。
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