第6話 ラットの完成と試運転

週末、僕たちはついに「ラット」を完成させた。

無数の失敗と改良を重ね、部品が散らかった部屋で深夜まで作業を続けた結果、僕たちが目指していた自律型小型探査ロボットがついに形になったのだ。


ラットは手のひらサイズの小さな四足歩行ロボットで、ネズミのように小柄で機敏な動きをする。

カメラと赤外線センサーを搭載し、迷路のようなダンジョンの中でも道を探りながら進むことができる。

僕たちはさらに、近距離で簡単な自衛手段として、微弱な電撃を発する機能も付け加えた。

これなら、もし小型のモンスターが襲ってきてもラットは逃げ切れるはずだ。




僕たち3人は、ラットの完成を祝うかのように部屋でハイタッチを交わした。


「よし、これでやっとダンジョンへ行けるな」


洋介が笑顔を浮かべて僕を見て言った。


「とは言っても、まずはラットだけをダンジョンに入れて試運転だ。僕たちはその様子を遠隔で見て、ダンジョンの内部がどうなってるか確かめよう」


拓也も慎重な表情でうなずき、モニターに目を向けた。


「じゃあ、行くか」


僕たちは興奮と緊張の入り混じる気持ちを抱えながら、ダンジョンの入り口に向かった。




ダンジョンの入り口は、街の外れに位置する公園の地下鉄のような場所にあった。

階段が地下に向かって続き、その先には異様なほど明るく舗装された道が見える。

僕たちはダンジョンの手前でラットを慎重にセットし、持ってきたタブレットで遠隔操作の準備を整えた。


「いよいよだな…」


洋介が興奮気味に呟いた。


僕は深呼吸してラットのスイッチを入れると、画面に映し出された映像が、まるで僕たち自身がダンジョンに潜入しているかのような錯覚を与えた。

ラットのカメラから見える映像は驚くほどクリアで、道の細部や壁の質感まで鮮明に捉えていた。


「よし、ラット、前進だ」


僕はタブレットを操作して、ラットをゆっくりと階段へと進ませた。

小さな機体は滑らかに段差を乗り越え、舗装された道にたどり着いた。

周囲は無人の迷宮のように静まり返り、明るい光が影もなく空間を照らしている。


「すごい…なんだか、映画のセットみたいだな」


洋介が画面を見つめながら感嘆の声を上げる。


ラットが進むごとに、僕たちは目を凝らしてダンジョンの様子を観察した。

曲がりくねった通路、急に開けた広間、さらに奥に続く分かれ道。

どこも見たことのない不思議な景色で、僕たちはすっかり画面に引き込まれていた。


「拓也、この先はどうする?二手に分かれる道があるみたいだ」


僕が画面を見ながら尋ねると、拓也は少し考え込んだ。


「一旦、まっすぐ進んでみよう。複雑そうな道は避けて、なるべく進行ルートを単純化していくんだ。もし危険を察知したらすぐ引き返すように指示しよう」


「了解」


僕はラットをまっすぐな通路へと誘導した。


進んでいると、画面に妙なものが映り込んだ。

ラットの前方に黒い影が動いているのが見えたのだ。

小さな体をしたモンスターのように見える。


「…あれは?」


洋介が不安げに画面を覗き込む。


「ちょっと待って、ズームしてみる」


僕はタブレットの画面を操作し、影を拡大した。

そこには、甲羅を持った小さな虫のようなモンスターが這い回っている。


「たぶん…今はラットには気づいてないみたいだ」


拓也がつぶやく。


「ラットの動きを少しだけ後退させて、様子を見てみよう」


僕は慎重にラットを操作し、モンスターから距離を取った。

しばらく画面を注視していると、モンスターはゆっくりと別の方向へと去っていった。


「ふぅ、ひとまずセーフだな」


洋介が安堵のため息をついた。


「これがもし人間だったら、気づかれてたかもな」


拓也が静かに言った。


僕たちは改めてダンジョンの危険性を実感した。

小さなラットでも気を抜けばあっという間にやられてしまう。

それに、人間が直接入るとなれば、相当な準備が必要だと感じた。


「よし、じゃあ、もう少し奥まで進んでみよう」


僕は再びラットを進ませた。


しばらく進むと、ラットのカメラにまた異様なものが映り込んだ。

道の脇に小さな箱のようなものが置かれている。

どうやら、宝箱らしきものだ。


「…これがダンジョンでよく噂される宝箱か」


洋介がワクワクした様子で画面に見入る。


「ラットに近づかせてみるぞ」


僕はラットを慎重に宝箱のそばまで寄せ、カメラで中を覗ける位置に移動させた。

箱の中には、輝く小さな青い石が見える。


「魔石…かもしれない」


拓也がつぶやく。


「これが本物なら、外に持ち出せば研究材料になるし、僕たちの計画の資金源にもなるかもしれない」


「よし、ラットにキャプチャー機能を使って、この魔石を持ち帰ろう」


僕はラットに取り付けた簡易アームを操作し、魔石をしっかりとつかむことに成功した。

小さな体がうまくバランスを保ちながら、宝物を持ち上げた。


「やったぞ!このまま無事に帰還させよう!」


洋介が拳を握りしめて喜んだ。




ラットは再び来た道を戻り、無事に僕たちの元へと帰ってきた。

ラットの機体を開けてみると、そこには間違いなく魔石が収まっていた。

青く輝く小さな石を手に取ると、僕たちは達成感で胸がいっぱいになった。


「これで、僕たちの計画も現実的なものになってきたな」


拓也が感慨深げに言った。


「うん。この魔石を分析してみて、さらにパワーアーマーの開発資金に役立てよう。これから、もっと多くの情報を集めて、ダンジョン攻略を進めるんだ」


僕はラットを見つめながら決意を新たにした。


僕たちの小さな探査ロボット、ラットは僕たちの夢への第一歩を切り拓いてくれた。

これから、さらに多くの試練が待ち受けているだろうが、僕たちにはこの成功があった。

次は、僕たち自身の足でダンジョンに挑む日が来るかもしれない。

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