第4話 家族の会話
夕食時、佐藤家のダイニングテーブルには、母の美恵が用意した料理が並んでいた。
僕たちは食卓に集まり、テレビのニュースを聞きながら食事をしていた。
今、ニュースで流れているのは最近のダンジョンについての話題だった。
全国各地に次々と新しいダンジョンが出現し、社会に大きな波紋を広げている。
『ダンジョンから得られる回復薬や魔石が注目されています。これらのアイテムは、医療や工業の分野で革命的な技術として活用が期待されています。
しかし、挑戦者の中には多くの行方不明者も出ており、危険性について警鐘を鳴らす声も…』
母が箸を置き、心配そうにテレビ画面を見つめた。
「最近、ダンジョンのニュースばっかりね。健太、絶対に変な冒険に巻き込まれないでね」
「うん、わかってるよ」
僕は返事をしながら、心の中で少し迷った。でも、母には嘘をつきたくない。
ここでしっかりと自分の計画を話すべきかもしれない。
「実は…僕たち、友達と一緒にダンジョンの調査をしようって話をしてるんだ」
その言葉に、美恵の顔が驚きで固まった。
父も新聞を畳んでこちらを見つめる。妹の菜々だけが興味津々といった表情で
「え、健太兄ちゃんもダンジョン行くの?」
と聞いてきた。
「いや、すぐに入るわけじゃないよ。僕たちがやりたいのはまずダンジョンのデータ収集なんだ。だから、最初から中に入るつもりはない。僕たちだけじゃ危険だし、無謀だと思う」
僕は焦りながらも、なるべく冷静に言葉を選んで説明した。
「でも健太、どうしてそんなことをしようと思ったの?ダンジョンなんて危険だらけじゃないの?」
美恵が心配そうに言った。彼女の目には、明らかに不安の色が浮かんでいる。
「確かに危険だよ。でも、今のまま何もせずにダンジョンのことを見てるだけっていうのも、どこかもどかしくて…それに、僕たちの調査が役に立つかもしれないと思ったんだ。だから、友達と協力して、安全にできる範囲で情報を集めて、装備も作ってから挑戦しようって決めた」
「装備?まさか、武器とか持って行くつもりなのか?」
父が眉をひそめて口を開いた。
「いや、武器じゃなくて、僕たちの目標はパワーアーマーなんだ」
僕は少し興奮しながら説明した。
「友達と一緒に、自分たちの身体を守るための装備を開発しようと思ってるんだ。まだ資金も足りないし、すぐにはできないけど、少しずつ計画を立ててるんだよ」
「パワーアーマーって…まるで映画みたいじゃない」
菜々が目を輝かせて言った。
「それってロボットみたいなやつ?なんか、かっこいいじゃん!」
「そうなんだけど、そんな簡単にできるものじゃない。パーツも高いし、改良するたびに資金が必要なんだ」
僕は現実的な問題を口にする。
友達と貯金をかき集めたけど、それだけじゃ足りないこともわかっていた。
「健太、お前が真剣に計画してるのはわかる。でも、お前のやろうとしてることはそれなりに危険だぞ。会社でも、同僚が仕事を辞めてダンジョンに挑戦すると言い出してな。あいつは家族もいるのに、何考えてるんだか…」
父は苦笑いをしながら、遠くを見つめている。
「ダンジョンに行けば夢が見られる、なんて言う奴もいるが、行方不明者も増えてるんだ。それだけは忘れるなよ」
「行方不明者、か…」
僕は口の中でつぶやく。確かに、ニュースでも「ダンジョンから戻らない人々」について報道されることが多い。
無謀に挑む人たちのことを考えると、僕たちも油断はできない。
母が改めて心配そうに僕を見つめ
「健太、無理だけはしないでね。もし何かあったら…あなたのことを待ってる家族がいるんだから」
と言った。
彼女の目には、母親としての愛情がにじんでいる。
「うん、ありがとう。ちゃんと計画的にやるよ。無理は絶対しないし、家族にも迷惑はかけないようにする」
僕は強く頷いて、母に安心させるように答えた。
菜々が興味津々と話を振り
「でもさ、ダンジョンの中ってやっぱり魔法とかあるの?テレビで魔石がどうとか言ってたけど、それってホント?」
と聞いてくる。
「うん、実際に魔石が見つかってて、それが医療とかにも使われ始めてるんだ。火を出したり、傷を癒やしたりする効果があるっていう話だよ。だから、僕たちはそういうアイテムの研究もして、どんなものが出てくるか把握したいんだ」
僕は彼女の興味に応えるように、なるべくわかりやすく説明した。
父が再び口を開き
「お前らがどれだけ計画的にやるつもりでも、世の中には危険がいっぱいだ。人を傷つけるアイテムだってあるかもしれない。お前はその覚悟があるのか?」
と問いかけてきた。
「覚悟、か…」
僕は少し考えてから、父をまっすぐに見つめて答えた。
「うん、ちゃんと考えてる。僕がやるべきことを見つけるためにも、これから先どう成長していくかを見つけるためにも、ダンジョンをただ見ているだけじゃなくて、向き合ってみたいんだ」
父はしばらく黙った後、深くため息をつき、微笑んだ。
「健太、お前がそこまで言うなら応援するよ。ただし、絶対に命を大事にしろ。それだけだ」
母も、菜々もそれぞれの形で心配してくれている。
だけど、彼らの言葉を聞くと、僕の中で決意がさらに強くなるのを感じた。
彼らに心配をかけたくはないし、無謀なことをするつもりもない。
だけど、僕はこのまま、何もせずに終わりたくない。
「ありがとう。僕、絶対に無事に帰ってくるから」
僕はそう言って、家族に笑いかけた。
その夜、部屋に戻っても家族との会話が頭を離れなかった。
彼らに心配をかけながらも、自分の心の中で芽生えた挑戦への意志を確かめた。
僕たちがダンジョンに挑むためには、まだ多くの準備が必要だ。
でも、家族に応援されているからこそ、僕はこの挑戦を続けられる気がした。
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