第2話 秘密のプロジェクト

 放課後、いつものように僕たち3人は図書室に集まっていた。

しかし、今日は雰囲気が違う。

テーブルの上には、ノートパソコンと共に、びっしりとメモが書かれたノートが広げられている。


「よし、整理しよう」


僕は真剣な表情で口を開いた。


「僕たちがダンジョンに挑戦するためには、まず情報が必要だ。でも、自分たちが直接行くのは危険すぎる」


 洋介と拓也は静かにうなずいた。


「そこで提案なんだけど」


僕は少し躊躇いながら続けた。


「小型のロボットを作って、それを使ってダンジョンの調査をしてはどうかな」


「おお!」


洋介の目が輝いた。


「まるで軍事偵察ですな!」


「興味深い提案です」


拓也も乗り気な様子だった。


「サイズはどれくらいを想定していますか?」


「ネズミくらいかな」


僕は答えた。


「小さければ小さいほど、気づかれにくいし、狭い場所にも入れる。だから...」


「ラットと呼びましょう!」


洋介が興奮気味に叫んだ。


僕たちは顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。

そうして、プロジェクト「ラット」が正式にスタートした。


しかし、すぐに現実的な問題にぶつかった。

お金だ。


「AIの開発には高性能なコンピューターが必要だし、ロボットの部品も安くない」


僕は渋い顔で説明した。


「僕の貯金だけじゃ足りないんだ」


 重苦しい沈黙が流れた。


「仕方ないですな」


洋介が意を決したように言った。


「おれの貯金も出しますぞ」


「私も協力します」


拓也も頷いた。


「科学の進歩のためです」


 僕は感動で胸が熱くなった。


「おおお!マジか!ありがとう。必ず成功させようぜ」


こうして、僕たちの貯金を合わせた開発資金が用意された。

それは決して大きな額ではなかったが、僕たちにとっては全財産だった。


週末、僕の家の部屋に3人が集まった。

机の上には、ネットで注文した部品や工具が所狭しと並んでいる。


「まずは、基本的な動きのプログラミングから始めよう」


僕はパソコンに向かいながら言った。


時間が経つのも忘れて、僕たちは作業に没頭した。

洋介は小さな車輪の組み立てに苦戦し、拓也は複雑な回路の設計図を何度も書き直していた。


「くそっ、またはんだづけに失敗した」


洋介が舌打ちした。


「焦らないでください」


拓也が諭すように言った。


「精密な作業には時間がかかるものです」


 僕は黙々とコードを打ち続けていた。AIにラットを制御させるプログラムは、想像以上に複雑だった。


 日が暮れても、僕たちの作業は続いた。母が心配そうに部屋をのぞき込み、お茶とお菓子を置いていってくれた。


「ありがとうございます!」


3人で声を揃えて礼を言う。


そして、ついに...


「動いた!」僕の声が部屋に響いた。


小さなラットが、ゆっくりと机の上を動き始めた。

まだぎこちない動きだったが、確かに自分で動いている。


「やりましたな!」


洋介が拳を突き上げた。


「素晴らしい成果です」


拓也も満足そうにうなずいた。


僕たちは興奮で顔を見合わせた。

これは始まりに過ぎない。

でも、大きな一歩だった。


その後の数週間、僕たちは放課後や休日を全てラットの改良に費やした。

カメラの搭載、センサーの調整、AIの学習能力の向上...毎日が試行錯誤の連続だった。


そして、ついに実戦テストの日がやってきた。


「よし、行くぞ」


僕は深呼吸をして、ラットのスイッチを入れた。


体育館の隅から、ラットはスムーズに動き出した。

カメラを通して見える映像は、まるで僕たちが床を這っているかのようだった。


「おお、上手く行っていますぞ!」


洋介が小声で叫んだ。


 しかし、その瞬間...


「きゃっ!」


女子生徒の悲鳴が響いた。


「な、何あれ!?」


僕たちは慌ててラットを引き戻そうとしたが、パニックになった女子生徒たちに囲まれてしまった。


「ちょっと!誰かのイタズラ?」

「気持ち悪い!」

「もしかして...盗撮?」


 最後の言葉に、僕たちは青ざめた。


「違います!」


僕は慌てて前に出た。


「これは...その...」


言葉に詰まる僕を見て、拓也が助け舟を出してくれた。


「科学部の実験です。申し訳ありません、驚かせてしまって」


なんとか誤解は解けたものの、先生に呼び出されて厳重注意を受けることになった。


 その夜、僕たちは反省会を開いた。


「まずかったな」


僕は頭を抱えた。


「もっと慎重にやるべきだった」


「でも、基本性能は確認できましたぞ」


洋介が励ますように言った。


「そうですね」


拓也も同意した。


「次は、より小型化と、緊急時の自動帰還機能を追加しましょう」


僕はふと、自分の体型を見下ろした。


「...そういえば、ラットを追いかけるのが大変だったな」


 洋介と拓也は気を遣うように黙っていたが、僕は決意した。


「よし、僕も体を鍛えよう。ラットと一緒に成長するんだ」


その言葉に、二人は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「健太...」


洋介が珍しく真面目な顔で言った。


「おれたち、本当に凄いことをやろうとしてるんだな」


 僕たちは顔を見合わせて、静かにうなずいた。

この小さなロボットが、僕たちの人生を、そして世界を変えるかもしれない。

その予感が、部屋に満ちていた。


 そして僕は、心の中でつぶやいた。


(橘さん、いつか僕の成長した姿を見てもらえるかな...)

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