オタク3人組の僕たちが、ダンジョンへ挑む理由は…

モロモロ

第1話 日常の崩壊

 僕の名前は佐藤健太。高校2年生で、パソコンマニアで、最近はAIにどハマりしている。

そう、ごく普通の高校生だ。

まあ、太めの体型と、人と目を合わせるのが苦手なところを除けば。


今日も教室の隅で、僕は密かに彼女を見ていた。

橘美咲。

クラスの中心的存在で、文武両道、そして誰もが認める美人。

彼女の周りには常に人だかりができている。

笑顔で話す姿は、まるで太陽のようだ。


「おい、健太。また何か考え事か?」


耳元で囁かれ、僕は思わず体を硬くした。

振り向くと、メガネをかけた中村洋介が、首を傾げながら立っていた。


「べ、別に。ただボーっとしてただけだ」


「そうですか。そろそろ授業が始まりますぞ、気をつけるんですな」


彼の独特の口調に、僕は苦笑いを浮かべた。

洋介は僕の数少ない友人の一人だ。

軍事オタクで、よく一緒にゲームをしたりする仲間だった。


「おやおや、また二人で内緒の会話ですか?」


今度は背の高い高橋拓也が加わった。

科学マニアの彼は、いつも博士のような口調で話す。


「違う、そんなんじゃない」


僕は慌てて否定した。

二人には絶対に言えない。

橘さんのことを、こんなにも想っていることを。


そんな他愛もない会話をしていると、突然校内放送が鳴り響いた。


『緊急速報です。市内中心部に謎の構造物が出現しました。詳細は不明ですが、地下に続く階段のようなものが確認されています。生徒の皆さんは落ち着いて...』


放送が流れる中、教室は騒然となった。

みんな一斉にスマートフォンを取り出し、ニュースを確認し始める。


「なんだって?謎の構造物?」

「マジかよ、映像見てみろよ!」

「これ、まるでゲームの中みたいじゃん...」


僕も慌ててスマートフォンを取り出した。

画面には信じられない光景が映し出されていた。

確かに、地下鉄の入り口のような階段。

しかし、その周りには不自然な光沢を放つ壁があり、明らかに人工物とは思えない。


「これは...まさか」


僕の脳裏に、以前プレイしたゲームの記憶が蘇る。

ダンジョン。

そう、これはまるでダンジョンの入り口だ。


教室の騒ぎは収まる気配がない。

そんな中、ふと橘さんの方を見ると、彼女も真剣な表情でスマートフォンを見つめていた。

その眼差しには、恐れというよりも...興味が宿っているように見えた。


心臓が高鳴る。

橘さんの、いつもと違う表情に、僕は思わず見とれてしまった。

でも、すぐに我に返る。

誰にも気づかれてはいけない。

この胸の内を。



校内放送が終わった後も、教室の騒ぎは収まらなかった。

先生が来ても、誰も授業に集中できる状況ではない。

結局、その日の残りの授業は自習となり、生徒たちは思い思いにスマートフォンでニュースをチェックしたり、友達と話し合ったりしていた。


「なあ、健太」


洋介が僕の机に近づいてきた。


「お前、この状況をどう思う?」


「正直、まだ現実感がないよ」


僕は率直に答えた。


「でも、もしこれが本当にダンジョンだとしたら...」


「興味深い現象ですね」


拓也も会話に加わった。


「科学的に説明がつかない現象です。まるでファンタジー小説の世界が現実になったかのようです」


僕は黙ってうなずいた。

確かに、科学では説明できない。

でも、もしかしたら...


「AIを使って解析できないかな」


僕は思わず呟いた。


「おお!」


洋介が目を輝かせた。


「さすが健太ですな。そういえば、最近AIの研究をしていたんですぞ」


「そうだったな」


拓也も興味深そうに僕を見た。


「具体的にどんなことができると思いますか?」


僕は少し考えてから答えた。


「まず、ネット上の情報を集めて、ダンジョンの構造や特徴を分析できるかもしれない。それから、もし中に入る人が出てきたら、その人たちの経験をデータ化して、攻略のパターンを見出せるかもしれないんだ」


二人は熱心に聞いていた。僕は少し興奮してきて、声が大きくなっていた。


「さらに、もしロボットと組み合わせられれば...」


その時、ふと視線を感じた。

振り向くと、橘さんがこちらを見ていた。

僕たちの会話を聞いていたのだろうか。

目が合うと、彼女はすぐに視線をそらした。


心臓が高鳴る。

橘さんが僕たちの話に興味を持ってくれたのかもしれない。

でも、すぐに現実に引き戻される。

いや、きっと気のせいだ。

彼女が僕なんかに興味を持つはずがない。


「健太?どうしたんだ?」


洋介の声で我に返る。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」


僕は慌てて会話に戻った。

でも、頭の片隅では橘さんのことが離れなかった。


その日の帰り道、僕たち3人は一緒に歩いていた。

いつもなら、ゲームの話やプログラミングの話で盛り上がるところだが、今日は違った。


「なあ」


洋介が突然口を開いた。


「おれたちも、ダンジョンに行ってみないか?」


僕と拓也は足を止めた。


「冗談でしょう?」


拓也が困惑した顔で言った。


「危険すぎます」


でも、僕の頭の中では別の考えが渦巻いていた。AIとロボット。

そして、ダンジョン。そこに、橘さんの姿が重なる。


「行こう」


僕は決意を込めて言った。


「でも、その前に準備が必要だ。AIの開発と、それを使ったロボットの改造。それができたら、挑戦しよう」


洋介と拓也は驚いた顔で僕を見た。

でも、すぐにその表情は興奮に変わった。


「よし、やりますぞ!」

「興味深い提案です。協力させていただきます」


そうして、僕たちの秘密の計画が始まった。

この時はまだ知る由もなかったが、この決断が僕たちの人生を大きく変えることになるとは。

そして、もしかしたら...橘さんともっと近づけるかもしれないという小さな希望が、僕の心の中で芽生え始めていた。

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