第2話 ローブ姿の女性

「俺は、これからどうしていけばいいんだろう」


 悠斗は、これからの自分のことに悩んでいた。それに加えて親切にしてくれたリリーナの父親の状態も心配だ。

 色々と悩み、考えていると、再び耳に響くあの声が聞こえた。


『影の力とかかっこよくてよくね?』


 悠斗は突然の声に驚く。声の主は、悠斗をこの世界の連れてきた張本人である天の声兼神様であった。


「影の力?何だそれ?」


『なんでもかんでも教えるのもおもん無いから、もうちょい自分で頑張れ』


「あっ!また中途半端なところで消えんのか」


 天の声はまたしても、すぐにいなくなってしまった。

 悠斗は頭を振って考えを整理しようとする。この世界で生き延びるには、まずは情報が必要だ。先ほどリリーナに紹介してもらった酒場にいこう。悠斗は歩き出した。

 

 酒場は薄暗く、数人の客が静かに酒を飲んでいた。悠斗は空いている席に座り、店主に声をかけた。


「この辺りの事情を知りたいんだが、誰か詳しい人を知らないか?」


 店主はしばらく考える素振りを見せたが、やがて片隅に座っている客を顎で指し示した。その客はフード付きのローブを纏っており、口元しか見えず表情は全く読めなかった。全体の雰囲気から考えて女性のようだった。


「あいつなら詳しいことを知っているかもしれない。リリアという名前だ」


 店主の言葉を聞き、悠斗はリリアと呼ばれたその女性に歩み寄る。彼女は静かに顔を上げ、悠斗の方を見る。


「あなた……異世界から来たのね」


 その一言に、悠斗は目を見開いた。


「……⁉︎何でわかった?」


 悠斗は驚きを隠せなかった。


「私にはわかるのよ。あなたがこの世界に属さない存在だって」


「それなら……教えてくれ。君が知ってることを全部。俺はどうやってこの世界で生き延びればいい?」


 リリアは一瞬考えるように顔を伏せる、そして悠斗に向かって再び口を開いた。

 

「この世界、『ファルディア』には、炎や水、土、雷、風、草という主要な属性がある。それに加えて、光属性と影属性が存在しているの。そしてあなたには影の力が宿っている」


「影の力……?俺に?」

 

「そうよ。あなたは影属性を巧みに操れるようになるでしょう」


「なんでそんなことあなたにわかるんだ?それに影属性の力ってのは、具体的にどういうものなんだ?」


 リリアは悠斗の問いに対して、ゆっくりと説明を始めた。


「影の力は、自分の影を操りコントロールしたり、相手の影をコントロールしたり色々なことができるわ」


 なんで影の力を悠斗が持っているのかという点については説明してくれなかったが、リリアは属性の解説はしてくれた。


「それって、すごい力だな……。でも、俺にそんなことができるのか?」


「まだ力が完全に覚醒していないから、今すぐに何かをできるわけじゃない。でも、時間が経てば徐々に使えるようになるはず」


「とりあえず、この世界でどう生きるかを考えないといけないな……」

 

「実は私もあなたと同じで影属性の力を持ってるの。だから……私でよければ協力するわ」


 リリアはどこか、意を決したような喋り方で提案をした。


「本当か?それはありがたい。頼んでも良いかな?」


「それじゃあ、よろしく。私今日は家に帰るわ。また明日ここに来てちょうだい。あっ。でも夜もここにいるかもしれないわ」


「わかった。これからよろしくリリアさん」


 こうして、悠斗とリリアは協力関係となった。悠斗は、なぜいきなりこんなに親切にしてくれるのだろうか?と疑問に思ったが、あまり気にしないことにした。


 *

 

 リリアとの会話の後、悠斗はリリーナの家に戻ることにした。リリーナにはしばらく泊まって構わないと言われている。ずっと甘えるわけにはいかないが、行く当てがあるわけではないので少なくとも今日はお世話になるつもりだ。


「影属性の力、ねぇ……。俺にそんなものが本当に使えるのか?」


 そう独りごちながら、悠斗はリリーナの家までの道中を歩く。


「まずは……どうやって力を呼び出すか。どうやってやりゃあ良いんだ?」


 リリアから影の力の話は聞いたものの、具体的な方法までは今日教えてもらってはいなかった。

 悠斗は一度立ち止まって全身に力を込めてみる。そして手のひらをじっと見つめ、何かが起きるのを待つ。だが、何も起こらない。


「こういうのって、イメージとかでどうにかなるもんじゃないのか?」


 悠斗は手を動かしながら、何とかして影の力を発動させようと試みた。だが、やはり手のひらから何かが出てくるわけでもなく、影の力らしきものは一向に現れなかった。


「うーん、やっぱり簡単にはいかないか……」


 失敗に終わった試みを前に、悠斗はがっかりしながらも、諦めずに続ける。

 その時、ふいに林の奥からざわめきが聞こえてきた。悠斗は顔を上げ、音の方向に目を凝らす。すると、遠くの木々の間に、数人の男たちが動く影が見えた。彼らは何かを探しているように辺りを伺っている。あっちの林を抜けるとリリーナの家がある。

 悠斗は少し嫌な予感を覚えた。


「なんだ?あいつら」


 悠斗は警戒心を持ちながら、少しずつその集団に近づいてみることにした。近づくにつれ、彼らの声が聞こえてきた。


「この辺りに隠れたはずだ。逃がすなよ、あの娘は高く売れるんだからな」


「見つけたらすぐに報告しろ。今度こそ逃がすな」


 悠斗はその会話を聞き、状況を理解した。どうやらこの男たちは、誰かを捕まえようとしているらしい。そして、彼らの言う「あの娘」とは、村の誰かだろうか?リリーナの可能性も大いにある……。


「まさか、村に奴隷商か何かがいるのか……?」


 悠斗は状況を把握するため、さらに慎重に近づこうとした。しかし、枝を踏み、物音を立ててしまう。


「誰だ!」


 男たちが一斉にこちらを振り向き、悠斗は見つかってしまった。その瞬間、悠斗は頭の中が真っ白になり、逃げるべきか戦うべきかの判断がつかなかった。


「こういう時の影の力ってやつだろう?なんとかなれ!」


 悠斗は焦りながらも、再び影の力を引き出そうとした。男たちが剣を抜いて近づいてくる中、悠斗は何とかして力を発揮しようと必死になる。


「出ろ、影の力……!」


 その瞬間、彼の足元に黒い影が広がり始めた。まるで地面に染み出すように、悠斗の影が不自然に動き出し、男たちの前で形を変えていく。影が大きく広がり、男たちの足元に絡みついた。


「なんだ、これは!?」


 男たちは突然の異変に驚く。悠斗から伸びた影は、男たちの足元に絡みつき男たちを転ばせることに成功した。

 悠斗は、自分が影を操っていることに気づき、驚くと同時に、ようやく影の力が発動したことを確信した。


「やった……!」


 悠斗は男たちを無力化し彼らの剣が地面に落ちる音が響いた。影の力で敵を制圧した悠斗は、驚きとともに自分の力が本物であることを感じた。これが、彼がこの世界で生きていくための最初の一歩だった。


「よし……。まずはこいつらをどうにかしないとな」


 悠斗は、無力化した男たちの周囲に立ち、彼らの顔を見る。何か情報が得られるかもしれない。彼は目を閉じ、心を落ち着けてから、強い声で言った。


 「お前たちが狙っていた女の子の名前は?誰だ?」


 男たちは互いに視線を交わし、口を閉ざす。しかし一人が状況に耐えかねたのか、ついに口を開いた。


 「リリーナって名前の女だ。ジャック様の命令で連れてこいと言われた」


 悠斗はそれを聞いて、やっぱりかと呟く。このままではリリーナが危ない。悠斗は焦る。


 「リリーナさんはどこにいる?」


 問い詰めるが、男たちは言葉を濁す。しかし、彼らは悠斗の力で拘束されているため答えるしかなかった。


 「わからない。でも俺たちの他にも狙っている奴らはたくさんいる。俺たちはジャック様に雇われて仕事をしているだけだ。今回リリーナを連れてこれたものには、ボーナスが出ることになっている。待遇アップなんかもしてくれるみたいだ。だからみんな血眼になって探してるってわけだ。だから、もう別の誰かに連れ去られちまったかもな」


 男たちの話を聞き、悠斗はリリーナがどれほど危機的な状況にいるのかを思い知る。


「そのジャックってのは何もんだ?」


「お前、本気で言ってるのか?」


 男の一人は心底驚いた様子だった。


「いいから教えてくれ」


「ジャック様は、ファリーナ村を統治しているファルディアの国王様だよ。ここに住んでりゃあ常識だ」


「なるほど……」


 この村の名前はファリーナ村、その村を統治してるのがファルディアって国ってわけか。

 一見平和と見せかけて王の力が絶対であり、腐っている部分がある。ということを悠斗は理解をした。

 ひとまず悠斗は、そのままリリーナの家に行ってみることにした。

 まだリリーナが捕まったと決まったわけではない。

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