29.とある密偵の結末 その1 ③
「えっ……胸?」
ユーリは思わず画面から顔を上げた。
視線が一瞬セリーヌに向かうが、彼女は特に気にする素振りもなく、微笑みを浮かべたままだ。
(じゃ、じゃあ、Cあたり? いや、でも、ここは爆乳で……え、え、Hとか? でも大きくし過ぎておっぱい星人とか言われたら嫌だし……Dぐらいにしとこうかな……)
「大きい胸……」
リリアーナがぽつりと呟き、そっと自分の胸元を見下ろす。
その仕草に、ユーリの視線が一瞬引き寄せられた。
(あ、危ない! 見るな俺! でも……リリアーナ様の胸……普通に大きいじゃん。いや、むしろ理想的じゃないか?)
ふわりと揺れたリリアーナの髪が彼女の柔らかな表情を際立たせる。
(なんていうか、あの上品な佇まいと胸のバランスが……って俺、何考えてるんだ!)
慌てて意識を画面に戻そうとするが、心の中でツッコミが止まらない。
(いやいや、あれ以上大きくなったら本当に肩に負担かかるぞ! でも、揉んだらもっと……って俺は何を想像してるんだ!?)
「リリアーナ様は大きいから良いではありませんか」
リーゼロッテの声がわずかに低くなり、拗ねたような色が混じる。
その言葉には微かな羨望が滲んでいた。
ユーリの目が自然とリーゼロッテの胸元へと向かう。
(ロッテだって全然小さくないよな……むしろ、品があって可愛いし、これからの成長が楽しみだし!)
ふと記憶に浮かんだのは、リーゼロッテが軽く手を胸元に添える仕草だった。
その控えめな膨らみが柔らかそうに揺れる瞬間が――
(って俺、何を思い出してるんだ!?)
頭の中で自分にツッコミを入れる間もなく、フィオナが明るく励ますように声をかける。
「リーゼロッテ様も大丈夫だよ、これからだから!」
「旦那様に揉んでいただければ、愛情ですぐに大きくなりますから安心なさい」
セリーヌがさらりと言い放つと、リーゼロッテが驚いたように振り向いた。
「お、お母様! 何をおっしゃっているのですか!」
リーゼロッテは赤面しながら声を上げたが、その視線は不意にユーリの方へと向けられた。
ふと目が合う。
ユーリは一瞬、何か言葉を返さなければならないような気がして口を開きかけたが、その直後、自分がどこを見ていたのかを思い出し、慌てて目を逸らす。
(あっ……今、俺、ロッテの胸元見てたよな……完全にバレたよな!?)
視線を逸らした先でも、頭の中ではリーゼロッテの姿がはっきりと思い浮かぶ。
ドレス越しの控えめな膨らみが、彼女の品の良さと可憐さを際立たせて――
(ちょ、落ち着け俺! こんな時に何考えてんだよ!)
リーゼロッテもまた目を逸らし、そっと自分の胸元に手を添えた。
「だ、旦那様……そんなにご覧になっては恥ずかしいです……」
頬を染めながら、リーゼロッテは小さな声で呟く。
その空気を破ったのは、セリーヌだった。
優雅な仕草で肩をすくめ、あくまで冷静な表情を崩さない。
「それで、旦那様。金貨は足りそうですか?」
急な話題の転換に、ユーリは慌てて画面に目を戻した。
「簡易ホテルの設置ができなくなるけど、いいの?」
セリーヌはその言葉にも動じることなく、にこやかに答える。
「かまいませんわ」
「領地の発展がかかってるお金をこんなことに使っていいのかな?」
ユーリが少し不安そうに問い返すと、セリーヌは優雅な微笑みを浮かべたまま、堂々と宣言した。
「もちろん、領地の発展より旦那様のハレム拡大が急務ですから。信頼できる人材の登用は最優先です」
(領地の発展よりハーレムが優先って、本当にそれでいいのか……)
ユーリは心の中でツッコミを入れながらも、セリーヌの揺るぎない態度に反論する気力を失っていた。
「そ、そうなんだ」
ユーリはそう答えつつ、胸の高鳴りを感じながら手を動かした。
『メタモルポーション』のカスタマイズに集中する彼の心は、どこか落ち着かない。
(美少女で髪色はエメラルドグリーン、瞳は翡翠色で……胸のサイズは……い、Eで!)
全ての設定を完了し、購入ボタンを押すと「購入完了」と表示され、「異空間倉庫に格納されました」という通知が画面に浮かび上がった。
(よし、次は取り出すだけだな……)
ユーリは軽く息を整え、手元に意識を集中させた。
『メタモルポーション』と心の中でアイテム名を思い浮かべる。
すると、目の前の空気がふわりと揺らぎ始めた。
まるで静かな水面が日差しを反射するような不思議な光が広がり、ユーリは迷わずその揺らぎの中に手を突っ込む。
手の中に硬くて冷たい感触が伝わり、小さな瓶が握られた。
慎重に引き抜いた手には、透明な小瓶がしっかりと収まっている。
「おお……本当にそれっぽいな」
満足げに呟きながら、瓶を軽く揺らしてみる。
中の虹色の液体が光を受けてきらきらと揺れ、その美しさに思わず見入った。
しかし、その様子をじっと見つめていたリーゼロッテが、ため息をつくような調子で言った。
「何度見ても驚きを通り越して呆れますね」
「そ、そうかな?」
ユーリは肩をすくめつつ、小瓶をセリーヌの方に差し出した。
「はい、これで美少女になれるよ」
その言葉に、セリーヌは優雅な微笑みを浮かべると、小瓶を受け取りながら静かに笑った。
「ふふ、本当にインチキ商人ですわよね」
その口調はどこか楽しげで、彼女自身がこの状況を存分に満喫しているようだった。
「は? なっ……は?」
エリゼが絶句してその場に固まる。
普段冷静な彼女の反応に、ユーリは思わず苦笑した。
(エリゼさんがここまで驚くなんて珍しいな……)
「えっと……セリーヌ様、これは一体どういうことですか?」
リリアーナが僅かに首をかしげ、虹色の液体を見つめながら尋ねた。
その声は穏やかだが、明らかに困惑している。
「驚いたでしょう?」
セリーヌは自信たっぷりに微笑むと、リリアーナに視線を向ける。
「これが旦那様のギフトなのよ」
「ユーリ様のギフトはインチキ商人とお聞きしておりましたが……これは時空間操作魔術師と変わらないのでは?」
リリアーナは丁寧な口調ながら、目の前の現象に対する驚きが隠しきれていない。
「ふふ、そう思うでしょう?」
セリーヌは柔らかく微笑みながら、落ち着いた声で応じた。
そして、少し間を置いてから視線をリリアーナに向ける。
「旦那様の力を使えば……貴女の未来も変わるかもしれないわよ?」
「私の……未来……ですか」
リリアーナは視線を伏せ、両手を膝の上でぎゅっと握りしめる。
その色の瞳には迷いが宿っていたが、次第に思案の光が浮かんでくる。
「ええ」
セリーヌは優雅に頷きながら、声の調子を少し低め、さらに説得力を込めて話を続けた。
「辺境伯領は貴女の手で見事に治められています。でも、今のままでは貴女の未来はどうなってしまいますの?」
その言葉に、リリアーナの表情が僅かに強張る。
セリーヌは構わずに続ける。
「あの変態叔父さんの傀儡に成り下がり、誰とも知らない男に嫁がされる……そんな未来で良いのですか?」
リリアーナの肩が小さく震えた。
きっと彼女も内心で、ずっとその可能性を恐れていたのだろう。
視線が揺らぎ、押し込めていた不安が顔に浮かび上がる。
「それを変えられるのが、旦那様の力ですわ」
セリーヌの言葉に、リリアーナは顔を上げた。
その表情には迷いと共に、小さな希望が宿っているように見える。
そして、次いでユーリの方をちらりと見た。
(やばい……こっち見た!)
直後、セリーヌから「何か言え」と訴えるような鋭い視線が送られる。
(ま、マジですか! ここで押せと……そんなご無体な……)
セリーヌとリリアーナの間で視線を彷徨わせ、ユーリは心の中で大きく息を吐いた。
(やるしかない……!)
観念して立ち上がると、リリアーナの傍へと進む。
◆◇◆ お礼・お願い ◆◇◆
ここまで読んで頂きありがとうございました。
アメリア、爆乳が良かったのに!!
と思ってくださいましたら、
https://kakuyomu.jp/works/16818093086711317837
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