第2話 久しぶりにつき、
翌朝、目を覚ました俺は武器屋を訪れた。
下界では何をするにも金が掛かる。神としての力を封じられた今、俺もその道理に従う必要が出てくる。
人間達の常識に従うのは色々と癪だが、これも全ては俺を神の座から引きずり下ろした神々に復讐する為。
その為なら、今は敢えて苦虫すらも噛み潰して糧にして見せよう!
「いらっしゃいませ。どのような武器をお探しでしょうか?」
「悪いが武器を買いに来た訳じゃない。それよりすまない、店主を呼んでくれ」
「申し訳ありません、店主はただいま留守にしております。失礼ですが、店主のお知り合いの方ですか?」
「知り合い……いや、会った事もないな」
「えっ……?」
女店員は俺の言葉に目を丸くした。
店主が居ないのは残念だが、それならそれでチャンスでもある。
この人間の女がどれだけ鍛冶に精通しているかは不明だが、店主よりは簡単に落とせそうだ。
そう思った俺は店員の若い女と交渉する事にした。もちろん、鍛冶の神である俺が武器屋で交渉する事なんて決まっている。
「俺に鍛冶場と素材を使わせてくれたら一度だけ儲けさせてやる。悪くない提案だと思うが、どうする?」
◆
「おい、見ず知らずのヤツに俺の作業場を使わせるなんて何を考えてる! おい、そこのお前! 今すぐ俺の──」
それから暫くし、女店員に怒鳴り散らす声が聞こえた。
どうやら店主が帰って来たらしい。声の主は豪快な足音を響かせ、真っ直ぐロキスのいる鍛冶場へと近付いてくる。
男はロキスの姿を見た瞬間、息を深く吸い込み、声を荒げる。
「うるさい、仕事の邪魔だ。少しばかり黙っていろ」
ジュッ、と言う音と共にその場に立ち込める大量の煙。そんな人の顔すら見えぬ視界の中でロキスは口角を上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「まぁまぁだな」
神の力を封じられ、千年近く怠けていたにしては思ったよりも腕は鈍っていない。
《鍛冶神》ロキスの作品としては不合格だが、粗悪な素材しか並んでいないこの状況で《人間》ロキスが製作した作品としてなら悪くない。
「お前、何を勝手に──」
俺の手にある剣を強引に奪い取ってその輝きを見た瞬間、男の顔が凍り付いた。
「なん、だ……この剣……。こんな凄い剣、今まで見たことねぇ……」
「この剣が欲しいか?」
「く、くれるのか!?」
「あぁ、条件次第では譲っても良い」
「ど、どんな条件でも呑む! だからこの剣を俺に譲ってくれっ!」
俺は自身の剣に店内にあった最も高価な片手剣の倍の金額を付けた。
正直に言えば安すぎる金額だが、今は当面の生活資金が手に入ればそれでいい。
下界に落とされてから人間みたいに腹が減るし、固いベッドでは疲れも取れない。
今はそれさえ何とか出来れば充分だ。
それにこの程度の剣、いくらでも鍛造出来る。惜しむ必要なんて微塵もない。
「金貨が百二十枚、これだけあれば暫くは大丈夫だろ」
武器屋を出た俺は金貨の詰まった革袋を手に、街を歩いていた。
これから俺が取るべき行動は一つ、この街を今すぐにでも出ていく事。
なぜ街を出ていくのかって?
それはこの街の宿屋で働く人間達が神を軽視し、金の魔力に取り付かれているからだ。
まぁ、俺は『元』神様なんだけどな。
「おっと、その前に──」
新たな革袋に金貨を半分ほど移し、俺が向かったのは昨日寝泊まりした教会だった。
この教会を管理する少女は神を敬愛している。
後輩の女神の信者なのは複雑な気分だが、それでも他の人間よりは遥かに見所がある。
「貴方は昨日の……」
「この中には金貨が六十枚入ってる。この金貨は好きに使え、じゃあな」
少女の足下に向けて口が縛られた革袋を放り投げると踵を返し、教会を出る。
「待ってくだ……ま、待って!」
そのまま街から立ち去ろうとした俺を背後から呼び止める声、教会から慌てて出てきた彼女だ。
「何か用か?」
「こんな大金、受けとれません!」
「なら、その辺に黙って捨てろ。その金貨はもうお前の物だ、どうするかはお前が決めれば良い」
「……貴方にリシュア様の加護があらん事を」
「必要ない。それより、お前には《鍛冶神》ロキスの加護を特別にくれてやる」
神墜ち~怠惰が原因で全能神から神の地位を剥奪された俺、異世界で人間達と共に暮らす~ クロスケ @kurosuket
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