神墜ち~怠惰が原因で全能神から神の地位を剥奪された俺、異世界で人間達と共に暮らす~

クロスケ

第1話 神は墜ち、

 俺は神だ。


 正確に言えば、神々の武具を製作したり鍛えたりする《鍛冶神》

 自慢じゃないが、神々の中でも鍛冶の腕前は一級品。それは並ぶ者なしと言われる程。


 そんな俺が何で神としての地位を剥奪され、こうして下界で生活する事になったのには理由がある。

 それは俺が任された依頼をせず、何百年も怠けていたから。


「ったく、別に千年くらいサボってたって良いじゃんかよ……あの頭でっかちどもめ!」


 俺の名はロキス。先程も言ったが、元・鍛冶神だ。

 ちなみに神としての力は全能神によって制限され、今は人間程度の力しか無い。


 とは言え、腐っても元・鍛冶神。

 当然、武具に関する知識や経験はある。

 素材さえあれば目を瞑ってたって人間達の言う、聖剣や魔剣と呼ばれる類の物は作れる。


「こうなったら人間界で力を蓄えて目に物を見せてやる! 下克上じゃ、おらぁぁぁ!」


 えい、えい、おーっ!

 何もない草原で俺は一人、天に向かって拳を突き上げる。

 最終目標は、神界にいる神々への復讐。

 何が何でも絶対に成し遂げてやる!


「見てろよ、全能神・ゼウルア!」


 俺は草原から一番近いロブストの街を目指した。人間界の地理や常識は最初から頭に入っている。生活に支障は無いハズだ。


「あぁ、くそっ! 力を封じられてるせいで空も飛べない! ゼウルアのバカヤロォォォ!!」





 ◆



「はぁ、はぁ……や、やっと着いた」


 数時間ほど掛けて歩き、街に到着した時には日はすっかり落ちていた。

 力を取り戻した暁には草原から街までの距離を物理的に縮めようと心に決め、取り敢えず俺は人間達が寝泊まりすると言う宿屋を訪れてみた。


「いらっしゃい、一人かい?」


 建物の扉を開けると小太りの愛想の良い人間の女が現れた。格好からしてこの建物の関係者のようだ。


「この辺りに宿屋があると聞いたんだが」

「あぁ、ここがそうだよ。泊まって行くかい?」

「何を言っている、ここは厠だろう?」


 俺が驚きを露にした次の瞬間、気付けば俺は地面に倒れていた。


「なっ……何が起きた!?」


 元とは言え、神の動体視力は人間の比ではない。そんな神の動体視力を上回る速度で何かが──と思った所で、今はゼウルアに神としての能力を制限されている事を思い出した。

 今の俺は脆弱な人間、道理で何も見えなかった筈だ。


「厠とは何だい、馬鹿にするのもいい加減にしなっ! アンタのような人間は客じゃない、早く出ていけっ!」


 その場にいた屈強な男に建物の外へと放り投げられ、俺は途方に暮れた。

 この街に宿は二軒しかない。

 もし次も失敗して追い出されたら今夜は野宿するしか無くなる。

 万が一にも失敗は許されない!


「ダメな物はダメだ。大人しく諦めるんだね」

「なっ……こんなに頼んでもダメなのか!?」

「さっきから部屋は満室だって言ってるだろ。それにアンタ、金も無いんだろ? 悪いけどコッチも商売なんだ、金の無いヤツに部屋は貸せないよ」

「お、俺は神だぞ!?」

「はいはい、神様だってんなら金貨でも生み出してみなってんだ。そんな事より仕事の邪魔だよ、帰った帰った!」


 二軒目の宿は話こそ出来たが、交渉は決裂した。仕方なく外に出ると、その瞬間、冷たい夜風が身体を撫でる。


「くそっ、神を相手に何て人間達だ……」


 金、金、金。

 金が絡んだ人間は神よりも恐ろしい。

 だが、今はそんな事を気にしてる場合ではない。

 このままでは本当に野宿するしかなくなる。仮にも神だった者が野宿なんて冗談じゃない。


「確かこの街には教会があったな」


 教会なら神を蔑ろにする事は無いだろう。

 脳内に浮かぶ街の地図を頼りに俺は街の北にある教会へ向かう事にした。


「ふむ、外見は少しボロいが今日は我慢してやるとするか」


 教会に入ると部屋の中には少女がいた。

 歳の頃は十四、五歳。少女は艶やかな金髪と蒼い瞳でロキスを見詰めると、優しく微笑む。


「ようこそ、ロブストの教会へ。主神・リシュア様もお喜びになっておりますわ」

「くそ、ここはリシュアが主神として祀られてる世界だったか……」


 リシュアとは農業を司る女神だ。

 リシュアが女神になったのはロキスが鍛冶神となってから二千年近くも後の事。直接の関わりは少ないが、いわば後輩である。

 よりにもよって後輩の女神が主神の世界に落とされるとは、何とも複雑な気分である。


「ここで寝泊まりがしたい。部屋はあるか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る