第4話 四日目

今日も午前3:30に目を覚まして、卵が出現するのを待つ。この時間に起きる為に、余裕を持ってスマホのアラームを3:20に設定してあるのだ。


予定通りならば、今日は十六個の卵が出現する筈だ。今後、これを処理してから眠りに就くのがこの時間の俺のルーティングになる事だろう。……マジ面倒くさ。


卵が出現するのを待ちながら、今後の事を考える。今夜出現する卵は十六個。明日は三十二個。その次は六十四……そうなったら、もう俺の腹には載せきれない。さらに倍になったら、ベッドだっていっぱいになるだろう。


想像もつかないけれど、俺の部屋が卵でいっぱいになるのは、果たして何日後だろう? そんなの、何かのアニメで観た事あるような気がするけど、あれは生卵じゃなかったと思うんだよな。こんな、漫画家だって思い付かないだろうな。


そんな事を考えているうちに、予定通り卵が出現した。やはり、最初に八個。そして、少し遅れてもう八個。合計十六個。


やれやれ、これでやっと眠れる。俺はまた昨日と同じく、卵が割れないように気を付けながら卵をベッドの脇に丁寧に並べてから眠った。



※ ※ ※


三時間程寝て、午前七時に起きる。そして、歯を磨いてから朝食を摂って出勤。

ホントにこんな事を毎日続けていたら、寝不足で体でも壊しそうだ。


会社に着いたら営業活動の前に、毎朝恒例のミーティング。店長はいつもおんなじ事を喚くだけで、全く無意味な時間だ。寝ていた方が、よっぽど今の俺には有意義だと思うよ。


ミーティングが終わったら、早速営業活動……と行きたいところだが、店長のせいでモチベーションがすっかり削がれてしまった俺達は、そんなにすぐには動けない。というか、箸休めというか、喫煙室で一服して、モチベーションを上げてから動き出すのがいつもの流れだ。



その喫煙室で……


「……さん……沢村さん。大丈夫ですか?」


「……えっ?……」


気が付くと、後輩の仲村賢人なかむらけんとが心配そうな表情で、俺の顔を下から覗き込んでいた。


「えっ? 大丈夫って、なにが?」


「先輩、今ウトウトしてましたよ。ゆうべちゃんと寝たんですか?」


仲村は、俺の二年遅れで入社してきた後輩。素直でよく気が利く奴なので、俺も気を掛けてよく面倒を診ている。


「それがさあ、仲村聞いてくれよ。実はな……」



俺は、仲村に今朝までにあった例のの様子を、事細かに話して聞かせてやった。


「……そのせいで、最近まともに寝てないんだよ。きっと今夜は卵が三十二個だ……ホントにもう勘弁して欲しいよ」


「……へぇ〜……んですね」













「お前……今、なんて言った? 」


「えっ、なにがですか? 」


「お前、今の俺の話以外にこの事知ってたのか? 」


「ええ、知ってましたよ。最近ネットでちょっと話題になったから 」


そう言って、仲村は自分のスマホでその記事を検索し、その画面を俺の方に向けた。



【怪奇】巷で噂の増殖する卵の怪

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最近、全国の不特定各所で夜中知らないうちにベッドの中に生卵が発生し、増殖するという摩可不思議な現象が多発している。その根本的な原因は明らかになっていないが、ある研究機関の仮説によると、人間が潜在的に持っている他の対象物に抱く攻撃的な心理に反応して、卵が生成されるという説が有力視されている。

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