第3話 三日目

 卵が三つではなくて四つになった。

たった一個の違いじゃないかなんて思わないで欲しい。

最初は生卵が一つ。そして、次が二つ。そして、今日が四つ。この増え方は、非常にまずい。


この事実が示すのは、卵が増えるのは一日に一つずつではなくという事だ。


つまり、今日四つだった卵が明日は八個になり、明後日には十六個になる。


8日後には百を超え、千を超えるのは、えーと、………とにかく、とんでもない勢いで増え続けるって事だ。


そこまで増えてしまったら、もう俺ひとりではとても対処出来ない。下手をすれば、自治体とか国のだ。


なんとか、この二〜三日でケリをつけないと大変な事になる。


よし、今夜こそは絶対に寝ない! そして、卵がどうして増えるのか……そのメカニズムを解明してやる!



※ ※ ※



AM3:30……



突然、俺の腹の上にがした。


恐る恐る手を伸ばしてみると、やっぱりそこには卵の感触があった。一個、二個、三個、四個……全部で四個の卵がある。



……と思った次の瞬間。俺の腹にかかっていた重みが急に増えたような気がする。


急いで掛け布団を剥がすと、そこには八個の卵が並んでいた。


やっぱり倍に増えている。しかも少しずつではなく、まるで手品のように一瞬で倍になった。


『どうしてそうなるのか』なんて、全然解らない。そもそもこんな現象は、物理的に全く説明がつかない。ベッドの中に異次元と繋がるポケットでもあるのか? そんな風にでも考えなければ、こんな現象はあり得ないのだ。


でも、起きている間に卵が出て来て良かった。とりあえず今日だけは、卵が割れないで済む。


俺は、腹の上に並んだ八個の卵を割れないように丁寧に1つずつベッドの横にそっと並べてから眠りについた。



※ ※ ※



翌朝は、快適に起きられた。とはいえ、眠りについたのはほとんど4時近かったから、睡眠時間は2〜3時間。正直言ってちょっと眠い。今日が休みだったら良かったのにって思う。


寝惚けまなこを擦りながら、会社に行く。ウチの店舗みせでは、毎日朝はミーティングという名のから始まる。



「お前ら、今月はどうなってるんだっ! もう半ば過ぎているっていうのに、全然注文が上がって来てないぞっ! 沢村! いったい何やってんだっ!」


「えっ、俺ですか?」


「そうだよ! お前、いつもだったら15日までに八割は売れてるだろうがっ!」


「いやぁ〜、今月はスタートでちょっともたつきまして……」


まったく、好き勝手言いやがって。今月分のストック、先月に全部吐き出させたのはてめえだろうがっ!


「沢村、今月あと7台。間違いなく上げられるんだろうな!」


「まあ、なんとか上げられるように頑張ります」


「頼んだぞ! 今月目標達成出来なかったら、なんだからな!」


いや、アンタ店長なんだからそんなの当たり前でしょ……


結局、俺達やお客さんの事より大事なのは上からの自分の評価と出世の事ばかりなんだよな。

本当に、し◯ばいいのに。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る