第2話 二日目
ベチャ……
「チクショウ! まただ!」
昨日のような変な夢は見なかったが、またあの卵が割れた気持ち悪い感触で目が覚めると、やっぱり俺の上半身にはべっちょりと生卵が付いていた。しかも、昨日と違っていたのは、卵の数が一個から二個になっていた事だ。
二個……
「嘘だろ? 一個でも不思議なのに増えてるって、どういう事だよっ!」
因みに、この卵はソッコーで捨てた。勿体ないと思うかもしれないが、こんな得体の知れない卵を食べる気には到底なれない。いつの物かも解らないし、それ以前にどんな保存状態だったのかも解らない。食べないで捨ててしまうのが、一番無難な選択だという結論にたどり着いた訳だ。
ベッドに湧いた卵は捨てておきながら、冷蔵庫の卵を使って朝飯の玉子焼きを作っていると、なんだか無性にやるせない気持ちになるが、それでも腹壊して寝込むよりは断然いい。
卵の事はひとまず忘れて、会社に出勤する。俺の仕事は車のセールスマンだ。
※ ※ ※
「沢村〜! お前、今月のノルマ全然足りて無いじゃないかっ! いったいどうなってるんだっ!」
「いや、それはですね……先月ちょっと頑張り過ぎちゃったもんで、ストックが切れちゃったと言うか……その……」
「馬鹿野郎〜っ! 先月は先月、今月は今月なんだよっ! 今月の目標達成出来ないと、俺が部長から言われるだろうがっ!」
そんな風に朝からガミガミ怒鳴っているのは、俺の直属の上司、
自動車の販売会社っていうのは、
その販売目標を達成する為に、俺達セールスマンには経験年数等に応じてそれぞれにノルマが設定される訳なんだが、そのノルマは当然ながら誰もが毎月クリア出来るものではない。
先月はたくさん売れたが今月はさっぱり……のように、調子のいい月もあれば悪い月もあるのが普通だ。だから俺達は、今月はよく売れたなんて時には、その全部を登録に回さないで、翌月の登録用にキープしておくなんて手をよく使う。
それを石上の野郎は、先月目標が達成出来ないからといって、俺がキープしていたストックを全部吐き出させやがって。
そのおかげで、今月は最初からストック0から始めた事もあり、予想通り苦戦してるって訳だ。俺は自分のノルマが達成出来ればいい訳で、お前が部長に怒られようと知ったこっちゃないっつーーの!
ほんっっとに頭にくる。もしも、この世で誰かひとり消してくれると神様が言ったなら、俺は迷わず石上の名前を挙げる。
※ ※ ※
仕事が終わってアパートに帰ったら、例の卵対策を立てなければならない。
『どうしてベッドに卵が生成されるのか』という事はこの際置いといて、とりあえず卵が割れても被害が最小限で済むようにする必要がある。
ベッドには、卵が割れてもいいようにブルーシートを敷いた。寝心地は最悪だ。
これが真夏だったら裸で寝ても構わないが、あいにくもう夜は寒くてさすがに裸では寝られない。仕方がないので、寝る時に着るスウェットは毎日洗濯。掛け布団も汚れないように、出来るだけブルーシートにくるまって眠る。何が悲しくて自分の部屋でこんな思いをしなきゃならないのかわからないが、原因が判らない以上他に方法が無い。
更に最悪なのが、卵が二個に増えていたという事実。昨日が一つ、今日が二つという事は、明日は恐らく三つか……どうせ増えるんなら『万札』とかにしてくれよ!ホントに。
こうなったら今夜は寝ないで、ベッドの中に卵が湧く瞬間を突き止めてやる。その瞬間まで起きていて、割れる前に卵をベッドの外へ出してしまえばなんの問題も無い。
早速、今夜はその方法を実践してみた。
……のだが、あいにく自分でも知らないうちに寝落ちしてしまったらしい。
気が付くともう朝になっていて、当然のように俺の上半身には、割れた生卵の中身がぐっしょりと付いていた。
そして更に最悪な事に、三つに増えているだろうと予想していた卵が四つに増えていた。
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