第81話 ニョイノカネ金属の謎
謎の発光をはじめたドンキー・タンディリーにおどろくパルミに、ウインが笑ってと反応しました。
「パルミ、大げさだよー。でも
ドン自身がこんなふうに説明します。
「あのね。ボクの体は魔力があると、すごく
カヒが質問します。
「今、ドンは光ってるよ。それも魔力があるからなの?」
「うん。たぶんそうだよ。光のおさえかたがわかったら光るのをやめるけど……今はかってに体が……」
それを聞いたバノが非常に興味深そうにあごに手を当てます。
「ほう。アダーパラシテスのエネルギー量は相当なものだった……ドンには
ちょっとほかの仲間にはわかりにくい感想でした。そして、またしてもバノは油断してこんなことまで言いました。
「メルヴァトールにも部分的に使用されているニョイノカネと同じ性質だ。しかし全身の外装に金色のニョイノカネを使用しているなんて、こんな機体はラダパスホルンにもない……」
あわてたウインが、バノの口をふさぎます。両手で正面からがっしりとおおって、
「バノちゃん! ドンの話からずれてる! ラダパスホルンの軍事機密をしゃべったら危険なんでしょ!」
バノは口をふさがれたので言葉が出せず、ハートタマを横目で見ました。そこで思念を中継してもらい、
――悪かった、ウイン。私を心配してくれてありがとう。でも苦しい、呼吸ができないから。鼻の穴まで全部ふさがれたらきばのこ・はのこは
と伝えました。ついでにウインの腕を手でタップして格闘技でいう「降参」のジェスチャーをします。
ウインはあわてて飛びのいて、
「ごっ、ごめん、バノちゃん! 死なないで。私が小指を返すまで生きて!」
謝る気持ちは本当でしたが、後半ちょっとふざけが入りました。小指を返すというんはウインの脚の治療に使ったぶんの魔力の話でしたね。
冗談めかしたのは、バノが秘密を
バノもちょっとたわむれ気味に返します。
「きばのこマウス、解放。はのこノーズ、通気確認。はー、呼吸できるようになった。一息ついたよ」
鼻をピスピス鳴らしてみせるのでした。
とりあえず知ってしまったことは仕方がありません。バノ以外の仲間にはニョイノカネという金属のことはよくわからないので、問題も少ないでしょう。
ニョイノカネという名前をベルサームと結びつける仲間もいました。
――貴重なニョイノカネを使って、
と考えているのはアスミチです。
――それにニョイノカネは日本語に聞こえる。
――甲冑ゴーレム試作機の金属も、メルヴァトールの金属も、ドンキー・タンディリーの金属も、一部分はニョイノカネという貴重な物質みたいだ。
――やっぱり、これらの機械は同じ文明のテクノロジーを利用して作られた、仲間の機械っていうことなんだろう。
すべて正解でした。
さらに言うなら、このくらいだったら、バノが軍事機密を漏らしたというほどのことはありません。
ラダパスホルンも、ベルサームも、それからほかの、似たような機械を発掘したり新造したりしている国々も、とっくに共通知識としていることです。
一般の
アスミチは、ウインにそうっとおうかがいを立てます。
「ねえ、ウイン。メルヴァトールの話がダメっていうのはわかったよ。でもドンキー・タンディリーの話は、していいし、したほうがいいでしょ?」
ウインは大あわてでバノの言葉を封じた手前、なんと返すべきか判断に迷います。
トキトが、いつもより真剣みを増した顔で、
「ドンの話だったらしたほうがいいに決まってる。俺たちはドンを修理しながら荒野を旅するんだぜ、なあ、ウイン」
と言いました。
ウインも同意するほかありません。
「そうだね……ドンのことに限定するなら、私もわかることを話しあっておいたほうがいいと思う」
アスミチは小さく「やった」とポーズをしました。ウインは苦笑いするしかありません。まるで学校の児童に遊ぶ許可を与える先生の役割をしているみたいです。
さっそくアスミチがひとつ追加してバノの質問します。
「バノ、思ったけど、ドンがもしかしたら生きている組織を使っているのに何百年も経っているとしたら……寿命のない生き物の組織を体の一部に使ったのかな?」
ウインははらはらしていました。ドンの秘密を考えるのはいいはずですが、バノが答えるとき、メルヴァトールの知識を使って答えるのではないでしょうか。
「製作者でない私の考えにすぎないのだが、おそらくアスミチの推測どおりだろう」
とバノは言い、ウインのほうをちらっと横目で見てきました。
ウインは自分がけわしい目つきをしていることに気づきます。
あわてて、ウインは両手を胸の前で小さく振りました。苦笑いを浮かべながら。
バノもウインの内心を察したようです。
今度はよけいな知識をしゃべってしまうことはありませんでした。
ヘクトアダーの死骸も半分だけドンの食事になりました。
「もう有機物はお腹たっぷり食べたよ」
エネルギーになる有機物は、ここまでにも木や枯れ葉を仲間が与えていました。さらに追加で食べたので、「お腹たっぷり」は本当でしょう。
カヒが念を押すように尋ねます。
「ほんとに、お腹いっぱい? 足りないものない? デザートが食べたいとか……」
と言ってから、自分たちにはデザートにできるものがきわめて
パルミがカヒにフォローを入れます。
「デザートつっても、センパイの畑のフルーツくらいだけどねー」
ドンは少し考えるような時間を取って、
「デザートはボクは必要としていないよ。そうだねえ、カルシウム……もうちょっとほしいけど、明日またヘクトアダーの残りを食べればいいかな」
とのことでした。
ハートタマがとりなすような口調であとに続きました。
「ドンの字が、ここまでしゃべったり動けたりできるようになったのも、フレンズが提供した貴重な金属のおかげだよな」
ドンは無邪気に感謝の意を表しました。
「うんそうだよ。お兄ちゃん、お姉ちゃんたち、ほんとうにありがとう。自由に動けるようになったらね、ボクは乗り物になって、みんなをどこへだって乗せていくよ」
バノはこのとき、ドンが食べた貴金属についてウインたちに質問しました。
パルミ、ウイン、カヒがスマートフォンを食べさせ、パルミについては家族の大切な思い出のチョーカー・チャームも与えました。
会話から察しが付いていたものの、事実をあらためて知らされると、バノは深刻そうにうなずきました。
「そうか……パルミは家族との
それを聞いて、トキトとアスミチも、自分たちもスマートフォンを提供しようと決意します。
「ボク、貴金属はほしいけど、スクラップを食べればきっと乗り物になれるよ。だから、スクラップのところまで行ければ、トキトお兄ちゃんたちの大切なものは、もらわなくていいんだよ」
とドンが言いました。
ためしにドンに移動できるかどうか試してほしいと頼むと、ドンは脚を動かそうとします。
ギューンギューンと、なにかの回転するような音が聞こえるばかりで、動きません。
そのあと、少しの距離を移動できましたが、立ち上がることはできませんでした。
左腕を使って体を支えて、バランスを崩しそうになりながら前のめりに倒れるように進む、そんな感じです。
平らになっている湖岸を少し進むことができましたが、せいぜい百メートルくらいだったでしょう。
「さっきの貴金属を使ったけど……まだ、動かない部分が残ってるみたい……」
申しわけなさそうに言うドンでした。
パルミやウインやカヒの与えた分は、全身を動かすのにはとても足りないのは当然と言えました。
「俺のスマートフォンなら、遠慮なく食べていいぜ。生きる力に変えるのがいちばんいい」
トキトが惜しげもなくスマートフォンをドンの開口部に入れました。
「ぼくも同じ。地球に帰ればデータもあるし、本体も買い替えられるんだ」
アスミチが続けて、ドンに提供しました。スクラップヤードにはたしかに金属がたくさんあるのです。でも仲間が与えたのなら自分も、とトキトとアスミチは思ったのでしょう。
「でも、今日はスクラップヤードまでは移動できなそうだよね」
「アスミチの言う通りだな。ま、あのバトルのあとなんだ、無理はしないでスクラップヤードゆきは明日に延期しようぜ」
男子二人の意見に、ほかの者も同意でした。こればかりはやむをえないことでした。
バノはそれを見てなにかためらうような表情をしています。
ウインがその様子に気づいて、
「バノちゃん、なにか気になるの?」
と声をかけました。バノは小さく手を振って、
「いや、今のところは問題ないよ。明日になってドンがもっと動けるようになっていたらいいな」
と言うのみでした。
じつはこのときバノは、自分の持ち物からドンに食べさせるべきかどうか迷っていました。
翌日にベルサームの甲冑ゴーレムのスクラップを無事に食べさせることができれば、おそらく提供しなくていいはずです。
――みんなが食べさせたものの重みに比べれば、私が持っているものは取るに足りない。しかし、全員で生きるためには有用なのだ。
しかし、この日に最後に起こった出来事のために、その判断は
移動商人プンマース・コデモドが、到着するのです。
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