第77話 「そっちの巨大機械を操縦している人」は……
バノがやきもきするのも無理はありません。
秘密を漏らせばパイロットであっても処罰されてしまいます。
メルヴァトールはまだ新しい機械で、戦闘試験を重ねているところでした。その多くの部分が秘密にされているのです。
ハートタマはバノの思念を伝えるのは
――キョーダイたち、バノがミケの字が心配で心臓がバクバクして胸が裂けちまいそうになってんだ。秘密をもらしたら処罰なんだってさ。あんまりそーゆーとこに触れないでやってくれるか?
と自分の言葉で五人に伝えたのでした。
――それと、ドンノスケがあんまりしゃべらずにいるのはナイス! だそうだぜ。引き続き、沈黙は金、で頼むな。
ハートタマは相変わらず地球人の使うような言い回しをするピッチュです。
ミッケンが協力してくれて、子どもたちの負担はすごく軽減されました。
ウィルミーダの力を使えば、やすやすとドンの重い部品も運べます。
機械の力はありがたいものでした。
引き続き、ドンキー・タンディリーの修理を一緒にする作業が進みます。
ただし、ドンキー・タンディリー自身がしゃべることをミッケンに気づかれないようにしながらです。バノの存在も秘密です。
ついに巨大ロボの右腕が戻ってきます。
ヘクトアダーに投げつけた右腕です。
丁寧にミッケンが届けてくれました。
「もとの場所にはつかないよなあ、これ」
ウィルミーダにとってどうということもない軽さです。しかし運ぶことはたやすくとも、修理は別です。元通りにくっつくはずもありません。
けれども、運んでくれただけでも大助かりです。
なんとか接着する手段が見つかるといいなと子どもたちが思っているとき。
トキトの心にハートタマの声が届きます。
ドンの言葉を、自分の思念で伝えてくれたのです。
「元の位置にヒモでくくりつけておいてほしいって言ってるぜ」
ミッケンは、トキトの指示に従ってくれました。
ウィルミーダが植物のツルを持ってきて、ドンの右腕をくくりつけてくれました。
右腕がもとの位置に戻りました。お世辞にも美しい仕上がりとは言えません。
ほかの大きめの
もっともミッケンは作業をしながらも、応急修理にさえなっていない作業に違和感を覚えてはいたようですけれども。
作業は小一時間、続きました。
ドンの体のあちこちに
カヒが心の中で心配の思念を届けます。
――昨日と比べると、ずいぶんポンコツ感が増しちゃった。でも、きっと自己修復できるんだよね、ドンキー・タンディリー?
ドンは思念で答えます。
――そうだよ。自己修復できるよ、カヒお姉ちゃん。
ミッケンは作業があらかた終わると、こんなことを言いました。
「魔法が使える集団だったら、子どもだけでこんな場所にいるのもわかる気がする」
仲間たちはこの話題にはヒヤヒヤしています。バノことデンテファーグが六人目の仲間です。彼女がここにいることを気づかれたどうしようかと心配でした。
ミッケンは六人目がいることは確信があるようでした。こんな風に言います。
「そっちの巨大機械を操縦している人も、子どもなんだろ? 出てこないということは、秘密だったり?」
ウインは思います。
――操縦はしてないけど。ドンの後ろに隠れている子は、たしかにいる。
どう説明しようか迷っていると、トキトが先に口を開きました。
「ミッケンはあと一人の顔を見たいのか? ロボの中身まで開けて見せないとダメか?」
トキトは意外に交渉とか駆け引き上手かもしれません。ウインは心の中で「案ずるより産むがやすし、かもね」と格言を思い出しました。
トキトの言葉に、ミッケンは理解ある答えを返します。
「とんでもない。知らないままのほうがこっちも魔法の約束を守りやすいから、そのままでいいって」
どうやら「六人目を紹介しろ」ではなく、逆に「知らないままでいい」という意味のことを言いたかったようですね。
パルミとカヒが心の声で会話します。
――ミケっち、いいやつじゃん。
――うん。友だちになれてよかったよね。
ミッケンの言い出した魔法の約束は対等なものでした。約束を破らないために余計な情報を知らないままでいようとしてくれています。仲間たちは安心しました。
――でもまさか、トキトはドンを開けて見せるつもりだったの?
とカヒが心配そうな思念を伝えてきました。
トキトから返ってきたのは、
――いやいや。見せろなんて言わねえだろ、ミッケンなら。
アスミチが感心したように、
――見せてもいいって言うほうが、疑われないんだね。
と伝えました。トキト自身は、自慢に思うどころか、
――俺、自分がそこまで考えていたか、ちょっと自信ない……。
と頼りない返事でした。
トキトは交渉ごとには自分は向いていないと今でも思っているようでした。
そんな仲間内の思惑に気づくふうもなくミッケンが言ってきます。
「毒の治療ができるなんてさあ、俺よりも術者として上だよな」
術者というのは低いレベルの魔法を使う人間を言う言葉でした。
「でもさあ、魔法が使えると言っても、君たち、ヘクトアダーのことを知ってこのオアシスにいたのか?」
たしかにミッケンの疑問は当然のものでした。
あれほど恐ろしいヘクトアダーがいると知っていたら魔法の腕に覚えがあっても近寄るはずがありません。
「いや、知らなかった」
と言うトキトに、すぐに続けてアスミチが、
「知っていたら、ここに野営しようと思わなかったよ。ヘクトアダーはべつのオアシスにいるものだと思った」
と、情報を追加して言葉を継ぎ足しました。トキトが少し無警戒に言葉を使ったのをフォローする形です。
ミッケンが感想を言ってきます。
「なんとなくだけど、ダッハ荒野のことをあまりよく知らないでここに来たんだろうなあ、君たちは。服装を見るとソイギニス人っぽいけど……ああ、これ質問じゃないから、答えなくていいよ」
ミッケンは作業を続けながらアドバイスをくれるのでした。
「ヘクトアダーは何匹かいて、これはその一匹なんだ。あとのヘクトアダーに出くわさないように、早くここを離れるといいよ。このあたりのオアシスはどれも危険だから、十分に気をつけて」
そんな助言のあと、作業におまけをつけてくれました。
ウィルミーダの武器フェザー・フロッカを使います。
スパスパと器用に立ち木を切断します。
ヘクトアダーの
ドンの部品のそえ
フェザー・フロッカにしても、本来は他人に見せるものではないようですが、ミッケンはもはや遠慮なく振るうことにしたようです。
旅をするのに多少の燃料がいるかと尋ねて、乾いた枯れ木も同様にいくらか切断してくれました。
先ほどと同じようにツルを添え木に巻き付けてドンの壊れたところを補強してくれました。
仲間たちは「すげえー!」「わああ」と歓声を挙げて喜びました。
途中でカヒが、ミッケンに話しかけました。疲労を心配したようです。
「ミッケン、よかったら……水、飲む? 食べ物、食べる?」
と聞きました。が、固く断られました。水も食べ物も持っているということです。
ウインは推測を仲間に伝えます。
――きっとメルヴァトールを操縦するときには外の水や食べ物を口に入れないようにっていう決まりがあるんだと思うよ。
トキトが答えます。
――どんなに強い機械でも、パイロットが体調を崩したら負けちまう。そういうことだよな。
さらにミッケンはパルミとの約束を覚えていました。
予備の工具や小さな金属片も操縦席から取り出して提供してくれたのです。
量がたいへん少ないので条件に足りない程度だけど、と申しわけなさそうでした。
パルミがふだんよりかなりソフトな口調でお礼を言います。
「ううん。ミケっち、少なくなんかないよ。ありがと」
そう言って、ウィルミーダの足元から工具らを拾います。ついでにミッケンのいるパイロットキャビンに、笑顔で手を振りました。
ミッケンはなぜかすぐに返事をしませんでした。
――ミケの字、照れてるみたいだぜ。
ハートタマが感応の力でみんなにバラしてしまいました。
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