第64話 パルミの首のチョーカーには
「どうにかならないのか」
動かないウィルミーダを前に、トキトの
ウインも思念を通じて問いかけます。
「バノちゃん、なにか私たちにできることはないかな?」
バノは冷たい汗をぬぐいながら告げました。
「私の魔法でパイロットの
子どもたちは全員、紫色の毒霧をまとったヘクトアダーと、それに絡みつかれるウィルミーダを見つめていました。
その顔には、希望を失った徒労の色が浮かんでいます。
ヘクトアダーは鋭い尾を振り上げ、ウィルミーダの腹部をねらって激しく突きをくり返し始めました。
カヒが小さな悲鳴を上げ、叫びます。
「中のミッケンが突き
アスミチもすぐに続きます。
「ねえ、バノ。トキトとぼくも魔法を教えてもらったよ。遠くから三人で力を合わせて、操縦席を解毒できないかな?」
しかし、バノは首を振ります。
「メルヴァトールに魔法をぶつけても、中まで届かない。操縦席を開かなければ」
子どもたちは思い出します。先ほど、トキトがヘクトアダーに襲われた際、外から魔法を使っても、内部には届かなかったのです。
パルミは顔をしかめながら嘆きます。
「うっげ、操縦席って巨大ロボットのどこか高いところっしょ? 無理ゲーすぎ」
カヒが前向きに考えようとしています。
「わかんないよ、パルミ。足とかだったら上がれる……」
バノがそのやりとりをさえぎり、希望のない言葉を伝えます。
「操縦席は、地上十数メートル、ウィルミーダの腹だ」
トキトはウィルミーダをじっと凝視しています。
さらに、仲間たちの言葉を受け止め、トキトは心を決めました。
――逃げる手は、なしだな。
トキトは迷いを捨てたのです。
トキトはバノとアスミチを見て言いました。
「アダーの体にくっついていた植物がウィルミーダにもいっぱいまとわりついているだろ。あれにつかまりながら登ることはできるかもしれない」
十数メートルもの高さにある操縦席に登るつもりだったのです。
バノはトキトの提案にうなずきながらも、口調には迷いがありました。
「トキトならば、たしかにあそこを登っていくことはできるかもしれない。だが……」
トキトは続けます。
「ヘクトアダーが絡みついたままじゃあ、登れないし、魔法も使えないし、とにかく何も進まないよな」
アスミチが鋭い質問をぶつけます。
「ねえ、その前に確認させて。ヘクトアダーにバレずに操縦席までたどり着くことはできる? バノ」
ウインも期待を込めて思念を伝えました。
「見つからない方法を考えないとだね。あの時、みんなで野営地で隠れてたみたいに、魔法を使って……とか」
バノは即座に、しかし暗い声で答えます。
「できないな」
ウインは肩を落とし、沈んだ声で言いました。
「やっぱりそうか……」
予想していたとはいえ落胆の色がにじみます。
そのとき、トキトが力強い声をあげます。
「なあ、ヘクトアダーをウィルミーダから離すことなら、できるかもしれないぜ」
おどろいた仲間たちが「ええ?」と声を漏らします。
バノが確認します。
「ヘクトアダーを引き
トキトはきっぱりと答えました。
「ああ。たぶん、俺はできる!」
自分を
それを聞いたカヒが仲間にうったえます。
「トキト、みんなのために自分が危ないことしようとしてる! だめだよ、トキトだけ危険なこと、しちゃだめだよ!」
トキトは「カヒにはかなわねえなあ」と笑いながら、みんなに向かって言いました。
「危険なのは全員同じ。時間がたてばたつほど、一人残らずアダーにやられちゃうんだぜ」
「わかるよ、それはわかるけど……」
と食い下がるカヒ。
それを振り切るようにトキトは
「アスミチとバノで操縦席を開けてミッケンを助ける。そして次にミッケンがウィルミーダで、今度は毒にやられないようにしてヘクトアダーを倒す」
トキトは言葉を区切り、仲間全員に呼びかけました。
「これ以外に助かる方法、あるか? なあ、みんな?」
返ってくる仲間の視線を受け止めるトキト。遠くで事態を見つめているウイン、パルミ、カヒにも目を向けます。
「もともと俺たちを追いかけてきたんだろ、あいつの獲物は俺たちなんだ。俺が走ってあいつを引き離すからな」
そう言うが早いか、茂みを飛び出して走ってしまいました。
「ばか、トキト、あんたさっき食べられたじゃない」
とウインの声がハートタマに中継されて頭の中にガンガン響きましたが、トキトは足を止めません。
「毒のブレスは、どうするの、トキト」
アスミチが言いますが、トキトは振り返ることなく応えます。なにもかも安全だと確認してから走り出したわけではありません。
ただ口では、
「さっき吐いたばっかりだし毒はしばらく出せねえだろ!」
と言い捨てていきました。
「それは、そうかもしれないけど……そうじゃないかもしれないのに」
アスミチは思わず足が前に出そうでした。バノにしっかりと肩をつかまれて、自分がトキトを追いかけようとしていたことに気づき、おどろきました。
ドンキー・タンディリーのそばで、ハートタマによってそのやりとりを聞いていたウインたちも、浮き足立ちました。
「わたしたち、どうしたらいいの? トキトがやられちゃう」
いちばん最初にトキトの意思に気づいて止めようとしたカヒは、涙声になっています。
「あきらめるのは早いよ! 私たちはドンに食べ物をあげて動けるようにする仕事をまかされてるんだよ」
ウインはそう言って
けれどもウイン自身も気休めであることを自覚していました。ドンに足りない部品を与えられるわけではないのです。
パルミが、二人の会話を珍しくだまって聞いていました。ひどく難しくて
「あたし、ドンの食べ物を持っているよ……
決意した声でした。
パルミは、自分の首元に手を当てています。そこには、チョーカーと、コインのようなチャームがあるのです。
ウインとカヒはパルミを見て、言っているのがチョーカーチャームのことだとすぐにわかりました。
カヒが声をふるわせながら言いました。
「パルミ! 前にそれ、妹とおそろいの大切なものだって話してくれた……」
パルミの指先で、首のチャームが回ります。
「うん、妹のルクルのといっしょに作ってもらったの。プラチナ製で、アイギスっていう女神の盾をイメージしたデザインなんだって」
パルミの顔に決意の表情が浮かびます。まぶたが上がり、視線はトキトの背中を見ています。彼の命を見つめています。
「少しでもいいってドンちー言ってたよね? これ、コインのサイズだけど。両親が、あたしたちを守ってくれるようにって、万年筆にも使われている
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