第35話 超兵器メルヴァトール復活のひみつ
パルミが頭をかかえて、ふたたび悲鳴をあげます。
「ぎゃー、聞いちゃった。激ヤバ情報、聞いちゃったんですけど! あたしらもやばい立場になるっしょこれ」
バノはコミカルに
が、
「心配しなくていい。ラダパスホルンの研究者たちも、うっすらと気づいていることだ。命の危険におよぶほどのことではない。だが、私は情報を
ウインが、ここまで恐怖や不安をこらようとしていたものの、
思わずバノのすぐそばにかけよって、
「バノちゃん! 私たちも、言わないよ。 そんなこと、ラダパスホルンにも、ベルサームにも、言わないから」
バノは、ウインにやさしい視線を投げかけます。それから、不安がるほかの子たち、警戒をゆるめない責任感の強いトキトにも視線をひとめぐりさせました。
「そう願いたい。要するにメルヴァトールは、機械の巨大兵士でありながら、生命体をキーとして動く。つまりは、生命の持つ魔法の力を有している機械なのだ」
ハートタマが言葉をはさみます。
「オイラはピッチュで、人間じゃねえから、よくわかってねえけどさ。バノが命をねらわれてもおかしくないほどの秘密をしゃべったのは、本当のことだと感じるぜ。どうよ、フレンズ?」
五人の子どもたちも、同じように感じていました。
言ってはいけないはずのことをバノは今、言ったのです。
そのことには触れずに、アスミチが質問します。
「聞いてよければ……超兵器って、どれくらいの破壊力を持っているの?」
少しだけ緊張をゆるめてバノは説明します。
「アスミチ、助かるよ。それを言わなければ説得力がないよね。メルヴァトールは人間が乗りこんで操縦し、ドラゴンを殺すことができる機械だ」
それからバノはゆっくりと発音しました。
「ドラゴンより強いマシンを、ラダパスホルンは所持した。……その数は、十体だ」
ウインがポニーテールを大きく揺らして、野営地の天井を見上げます。
天井はすすけた岩肌に過ぎなかったのですが、そこにウインは記憶にあるたくさんのドラゴンの物語を思い浮かべていたのでしょう。
「ドラゴン十匹! あの、ドラゴン、より強い……ドラゴンが地球の神話と同じような生き物だったら……」
ほとんど一人言のようなウインのつぶやきに、バノが反応します。
「同じだよ。ドラゴンは、翼ある巨体で空を飛び、言語を理解し、炎の息を
「魔法もっ?」
おどろくウインに、
「知性ある生き物は、みな魔法を使う
バノが予想したとおり、魔法の話の続きにドラゴンの話がつらなっているのでした。
この世界のドラゴンは、人間より強い体を持ち、人間より強力な魔法を使う。
そして、今はたったの一体もいなくなったドラゴン。
その消えた先も、彼らがなぜそうなったのかも、今はわからないことでした。
そのすべてを、仲間たちは未来のいつかに知ることになるのです。人知れずこの世に残っているわずかな数のドラゴンとも知り合い、食べ物を与えたりして、関わっていくのです。
アスミチが自分なりの理解のしかたを探しています。
「ぼくはドラゴンよりも、怪獣のほうがなじみがあるけど……怪獣十匹が襲ってきたら……アルティメット人間でも一人じゃやばい、勝てない」
「アスミチ少年もアルティメット人間のファンなのだな。私もテレビシリーズのいくつかは見たし、好きだったよ……じゃなくて、そうなんだ、怪獣十匹の戦力をラダパスホルンが手に入れてしまったので、ベルサームは悪いと知りながら、魔法使いを
つぎつぎに明かされるおどろくべき情報に、トキトは必死に追いすがり、理解しようとしていました。
そして、ここで恐ろしい可能性に思い当たりました。
「なあ、バノ。魔法使いが戦いを始めるってさ。それって、誰かが規則を破っちまったら、歯止めがきかなくなるやつじゃねえの?」
ほかの仲間もトキトが言おうとしていることをなんとなく
とても恐ろしい可能性をトキトは
「トキトの言うとおりだ。ベルサームはもう破ってしまった以上、国としては認定組織を無視するつもりだろう。エトバリル以外の魔法使いも戦いに
バノの話は、当人の身の上を越えて、子どもたちの運命、そしてこの世界の運命の話になってきていました。
ウインもトキトの指摘とバノの解説で、恐ろしい可能性を
「魔法使いが複数人、戦いに出るの? ……え、さっきの話で、魔法使いの戦争で人類が滅亡って……言ってたよね?」
そうなのでした。
魔法使いの戦争の恐ろしさにトキトの指摘はつながっているのです。
「ああ、ウイン、ごめん。順番通りに言うべきだったが、ちょっと手違いだね。千年前の魔法使いの戦争はアマンサと呼ばれている。今、この瞬間からセカンド・アマンサ、第二の魔法使いの大戦争が始まってもおかしくない状況だ。この世界は、今とても危うい状態におかれている」
今度は、子どもたちの誰も、ハートタマも、声を出しませんでした。
パルミが口火を切り、会話が再開します。
「はわあー……何度びっくりさせてくれるんだい、バノっちは」
アスミチが続きます。
「人類滅亡の戦争……? ぼく、そんなのどう受け止めていいか、わからない……」
バノはそれを受けて、自分の考えたことを伝えます。
「私は考えたよ。ベルサームの考えもわかるが、魔法使いを戦いに引っ張り出すのは危険すぎる。そこで、ベルサームの戦力を大幅に
この会話では、トキトがおそらくわざとにバノに対して厳しい意見を言うようにしているのでしょう、こんなことを言います。
「それってラダパスホルンが一方的に勝つだけだよな。戦争を防ぐことはできないよな?」
ウインたちも、トキトがバノを否定したいのではなく、むしろ反論して納得させてほしいと思っているのだと理解しはじめました。
「トキト、ラダパスホルンとベルサームは長く戦いをくり返している。あらたな軍事的な
五人の子どもたちは、まさにその作戦の開始に巻きこまれたのです。すべての情報が、自分たちの体験した事実そのままでした。
バノは完全に知っていたのです。ラダパスホルンの軍事にたずさわっていたという言葉も、真実に違いないでしょう。そのことはおどろきではあるものの、全員がおなかに落としこんで、受け止めました。
バノは続けます。
「軍事行動に君たちを巻きこんでほんとうに申しわけなかった。君たちのことは作戦が行われているさなかにわかったのだ」
あえて疑問を
「それはしょうがねえよ。俺たちがゲートから出てきたのは、襲撃の日だったからさ」
バノはトキトに大きくうなずき、おそらく心の中で礼を言いながら、続けました。
「よかったら、そのあたりの事情を、あとで聞かせてもらっていいかい? 私も作戦途中でラダパスホルンを逃げだしたから、わかっていないことも多い」
あえて厳しい意見を言う立場を取っていたトキトが肩の力を抜いたのがわかってきました。
ほかの子どもたちもバノに協力的な態度を出しやすくなりました。
つぎつぎに発言していきます。
「じゃ、私、
「それがいいっしょ。いちばん説明が上手なのウインちゃんだもんね」
だいぶ雰囲気がやわらいできて、全員が発言しやすくなってきています。
「ちょっとその前に、バノに確認したいんだけど、いい?」
「なんだい、アスミチ」
「途中までしか知らないってことは……ベルサームが甲冑ゴーレムをすでに量産していたってことも知らないの?」
「それは知っている。作戦は中止になっただろうな。研究施設を壊しても、すでに意味がないとわかったのだから」
ここで、ウインが大きく息を吐き出し、ふううーっとほとんど声に出してみせました。
「ねえ、みんな、バノちゃんも。もう必要最低限のことはわかったでしょ? バノちゃんはほんとうに命がけで私たちのところに来たんだよ。いっしょに地球に帰るために。その方法を探して」
おもにトキトを見つめて、さらに言いました。
「だからさ、お互いにまだまだ言っておくほうがいいことは多いんだから、急がず、今日はそろそろ今日やるべき作業、やっちゃわない?」
と、つとめて明るい声で言いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます