第22話 変形ロボ
ドンは人間のスタイルよりもかなり胴体が大きく、手足も太い姿です。
「低くなる? なれるよー。変形は
ドンの返事は意外なものでした。
「変形するのかよ!」
「見たい。変形って、どうやるの!」
「こらー、がっつかないのー。これだから男子はー」
トキトとアスミチの思ったとおりの反応です。パルミも投げやり気味にツッコミを入れるのでした。
部品が落下してくる危険があるので、さらに距離を取ってドンの変形を見学することになりました。
五人が見ている前で、ふたたび振動が起こり、くすんだ黄色に近いボディが形を変えてゆきます。
「なんか、ゆで卵の殻にひびを入れて、上からごろごろして、押しつぶすのを思いだすよ」
とカヒがうまいたとえをしました。料理好きのカヒらしい表現です。
ウインもこんなふうに言ってみます。
「言いえて
ブロック遊びという身近なものにたとえてみます。アスミチも自分なりの考えがあるようです。
「
昆虫についてくわしいのは、五人の中ではアスミチだけです。彼は続けます。
「チョウなんかが成虫になるときって、
パルミが苦い顔をしました。
「うえ、アスっち、想像すると、それ、グロくね?」
トキトはまったく嫌な顔もせず、記憶を話します。
「
「トキトっち! グロテスクな想像させてくんなって言ってんの。ドン吉はロボなの、虫の想像は
フォービドゥンという英単語の意味は「禁じられた」です。
「パルミって、チョウチョは好きなのに、幼虫とかはだめなの?」
カヒの
「だ、だめってことはないし? でも虫じゃなくても
とパルミは強がって言いましたが、ひかえめに言って、チョウの幼虫もあまり得意ではない感じです。生き物といえば、タニシをいちばん嫌がっていたのもパルミでしたね。
会話しているあいだに、ドンの変形がしだいにスムーズになってきました。おそらく長く使わず動いていなかった部品の数々が、動かし始めると、
「お姉ちゃん、お兄ちゃんたちー。これくらい平べったくなったよ。ボク、がんばったよ」
とドンの声がとどきました。
元が人型のロボットの姿だったとは思えないほど、ドンの体は――とはいっても上半身だけですが――平たい
頭部が丸くドーム状に
食べさせるのがらくになりました。
「えっと、どこにはめればいいの?」
カヒの声は聞こえやすいようで、すぐに答えが返ってきます。
「その部品はね、お姉ちゃんの足元に溝があるでしょ、そこに差しこんでみて。そこから、中を通ってもとの位置に持っていけそうなの」
アスミチがふーんと言いながら、
「パーツを体の中に吸いこんで体の中を通して移動させていくってわけ……かな?」
「そうそう、そうなんだよー」
小さい部品は落ちる前の場所に近いすき間から入れました。大きな部品は胸の位置にある取り込み口に入れればいいようでした。あとは体の中で必要な位置に運んでいけるようです。
何時間もかけて、五人はドンに指示されつつ、最低限の
「もっと食べて体を直せたら、歩くこともできるんだよ。今は、無理だけど。それとも平たい形になったまま、移動するほうが楽かな。それだったら、何日かかければできるかも……」
移動できると聞いてウインが考えていたことを伝えます。
「ドンキー・タンディリー、もしも、移動できるようになったら、もっといい食べ物……ううん、きっと『すごくいい食べ物』のところにキミを連れていけるよ。ね、トキト」
トキトは少し考えましたが、ウインが指で示す方角にピンときたようです。
「おお、あれだな、ベルサームからかっぱらってきた
トキトの言葉に、ドンが興奮したような
「なにそれー。ゴーレムはわかる。甲冑ゴーレム?」
アスミチがおぎなって言います。
「ゴーレムに金属の
「そうなんだ。その甲冑ゴーレムって、ボクが食べちゃっていいの?」
五人の子どもたちは顔を見合わせて、うなずきあいました。
「むしろ、食べちゃってくれたほうが助かるんじゃね?
と言うパルミの考えにトキトも賛成して、
「おお、そうだよな。ドンは元気になる。俺たちは証拠隠滅できる。一石二鳥だぜ」
「正しいけど、ふたりとも、証拠隠滅っていう言葉が聞こえが悪いよー」
と
ハートタマがそこに加わります。
「話に聞いた甲冑ゴーレムの
たしかに今日これからというわけにはゆきません。
「修理、いったん終わったら、もっと岩とか草とか、ドンに食べさせてあげたいな」
とカヒが自分の望みを言いました。
「それがいいね。そのほうがドンの自己修復も早く進むだろうし」
アスミチの言葉に、ドンが
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃんたち。もっと食べられたら、体ぜんぶが平たくなって、ズズズズーって、移動できるようになるから」
と答えました。
五人の子どもたちとハートタマは、ドンキー・タンディリーの大きな体を相手に、壊れかけたところの補修を進めました。そのあいだ危険なことは起こりませんでした。
あちこちから集めた木の枝、草、それから金属を少しでも含んでいそうな石といったものを、開口部に入れていきます。
ドンキー・タンディリーは今は半分が平たく変形していますが、こうなる前の全長は二十メートル近いと思われました。あとで、十七・七六メートルとわかることになります。
物語が進むについれて、たくさんのことがわかるときが来ます。
誰がこの巨大ロボットを作ったのか、なんの目的があったのか、どうして何も知らないのか、どんな出来事があってこのダッハ荒野のこのオアシスに壊れかけのポンコツロボットとして放置されていたのか、そのときになればすっかりわかるのですが、今はまだなにもかもが謎でした。
この世界のことを何も知らないという点では、五人のよるべのない子どもたちと似たような立場でした。それどころか、わずか二日あまりを過ごしただけの彼らのほうが、ドンよりも知っている場面もあるほどです。
ドンが弟のような存在に思えるのも、ごく自然なことかもしれません。
アスミチは遠くを見るような表情でつぶやきます。
「ロボットの
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