第19話 大目標・北の大地のドワーフの国

 地球の歌を口ずさむことで、元気が出る気がしました。


 ハートタマが歌を聞いて満足そうです。ピッチュも歌が楽しいようでした。

「ウインが聞きたがってたエルフの話、つってもオイラもくわしくはしらねえぜ?」

 と切り出します。そこにアスミチが疑問をたたみかけます。

「そもそもエルフって、人間とどう違うんだろう?」

 物語好きのウインが、そこは引き受けて答えます。

「エルフは、人間と違って寿命じゅみょうがないらしいよ。そうなんでしょ、ハートタマ」

 ハートタマの顔にあたる部分がぱあっと明るくなりました。

「おっ、ウインは知ってるんだな。そうなんだぜ。エルフとドラゴンには寿命がない。永久に生きるってー話だ。ピッチュについては寿命はまちまち、命がきるとふわっと空気に溶けるように消えちまうらしい。人間はだいたい百年以内に限界が来る。ドワーフは人間の三倍くらいは生きる……らしいぜ」

「私が知っているファンタジー小説や映画でも、それはほとんど同じだったかな。あとはエルフは森や自然を好んだり、不思議な力を使えたりすることが多い感じ」

「オイラもそう聞いたと思うぜ。ま、なんにせよ理由は不明のままいなくなっちまった種族だ。誰もほんとうのことは知らないんだろ」

 アスミチも

「いなくなったのなら、たしかに正確なことはわからないんだろうね。地球の物語のエルフとだいたい同じってわかっただけでも、参考になるよ、ハートタマ」

 と、ひとまず納得した表情です。

「あ、そうだ、ハートタマに大事なことを聞いておかないと!」

 ウインがそう言って話を切りかえました。

「ドワーフにはどこに行けば会えるかな?」

 パルミがこの話題で、ゲート制御装置のことを思い出して加わってきます。ウインの横にいたアスミチを、ぐいっと押しのけて、元気よく、

「ドワーフっていえば、ダロダロダーロのことだねウインちゃん!」

 と、ちょっと間違った名前を言うのでした。

「ダロダツデーニだよパルミ!」

 とアスミチがパルミに押しのけられた頭で逆にパルミの手を押し返しながら、訂正ていせいします。

「当たり! アシストあんがとアスっち! そう、ドワーフが持ってる、地球へのゲートを開くひみつ道具ダロ、ダロダロデーショ?」

 とパルミはまだ名前を覚えられずに混乱した名前を言いました。

「もう、パルミ。ダロダツデーニ、でしょ」

 ここでカヒが、やさしく彼女を訂正ていせいするのでした。 

「かたじけない、りができた、感謝、カヒっち!」

 ハートタマはドワーフについて少し知っていたようです。五人の子どもたちに伝えます。

「オイラもダロダツデーニっつー道具のことは知らねえ。でもドワーフは今でも国を作って住んでるぜ」

 記憶からドワーフのことは抜け落ちていないようでした。子どもたちにとっては幸いなことです。

「冷たくない氷の土地アウサイス。そこにドワーフの王国ドナグビグがあるんだ」

 と語りました。

 ウインは「ドワーフの王国ドナグビグ」と小さく繰り返してから言います。

「ドワーフの国があるなら、ダロダツデーニがそこにある可能性は高いよね」

 彼女は、希望を見つけたと思いました。

「おお、冷たくない氷の土地ってところで、ダロダツデーニを使わせてもらえば……地球へのゲートに入れるかもしれねえんだな」

 そう言うトキトの目が輝いていました。

「あ、そっか」

 とパルミがはじめて気づいたように、声をあげました。

「使わせてくれるだけでいいんだ。かっぱらわなくていいんだー」

 ベルサームでは「奪う」ということをやってのけたパルミたちですから、思いこみがあったのでしょう。平和にお願いすれば、使えるのかもしれないのでした。単純なことですが、忘れがちなことだったかもしれません。

 あとはドワーフの国にどうやって行き着くかがわかれば、これからの方針が立ちそうです。

「アウサイスって、どっちの方角にあるの?」

 とウインがたずねると、

「大陸をずっと北のほうに行ったところだな。何日も、もしかしたら何十日もかかるぜ?」

 とハートタマが答えました。

 ――同じ大陸にある。

 ――何日か、何十日か、旅をすれば到着できる。

 そのことがわかるだけでもありがたいことでした。

 大陸の北に広がるアウサイスという冷たくない氷の土地。

 そこには、ドワーフの国ドナグビグがあるのです。

 ――地球へのゲートを開く道具、ダロダツデーニがあるかもしれない。

 これが今のところたった一つの希望でした。

 トキトの言葉ははずむ心を表します。明るく元気な口調くちょうで、

「北のほうで、ベルサームから遠いなら、好都合だぜ。俺たちは、ドワーフの国を目指すのを目標にしたらいいよな、ウイン」

 アスミチがアシストして言います。

「ドナグビグを覚えていたハートタマがベルサームを知らないってことは、ふたつはきっと近くないって思えるよね」

 ウインはうなずきます。

「そうだね。よし、これでみんなで目指す方向がわかってきたね。ほんと、ハートタマがダッハ荒野にくわしくてすごく助かるよ」

 そうなのです。ハートタマがいなかったら、ずっとこのオアシスにとどまるしかなかったかもしれません。ここにいても、地球に帰ることはむずかしいでしょう。

れるぜー」

 とハートタマは応じると、砂地をって小さくねてみせました。

 ハートタマは空に浮かぶことができます。ふわふわただよっているところを、カヒがひとみを輝かせながら近づき、両手でつかまえます。

「いい子、いい子」

 とその頭をなでました。

 ハートタマは毒舌どくぜつをやめることなく、

「おいおい、むすめみてえな子どもになでられて喜ぶハートタマじゃないぜ。でも、ま、なでたいなら好きにしな」

 と口ではうれしくないふうを言います。けれどカヒにあっさりつかまるところからして、まんざらでもないのでしょうね。

 アスミチが好奇心こうきしんを目に浮かべて、質問します。

「娘? ピッチュが人間を生むことがあるの……?」

 ハートタマの目が大きく見開かれました。すかさず、こう言うのでした。

「人間は生まねえよ。『娘みてえな』って言ったのは言葉のあやってやつだよ。そもそもピッチュがどうやって生まれるのか、オイラも知らねえんだ」

 アスミチも、そりゃそうか、と苦笑にがわらいしました。

 パルミが横道にそれがちな会話をもとの路線に引きもどします。

「はいはい。ピッチュについて調べるのは、まず今日、あたしたちが生きびてからっしょ?」

 そう言いつつも、パルミは自分もハートタマに興味があるみたいです。

 カヒに向かって両手をぴしっと伸ばして差し出し、カヒからハートタマを受け取って抱きしめます。

 パルミは今までの話をまとめます。

「あたしたちが生き延びるためにはさー、ベルサームに見つからないように気をつける。誰か助けてくれる大人を見つける。そんで、ちょっと旅をして、アウサイス地方っところでドワーフのお宝を探す。でいいわけ? 年長組のお二人さん」

 ウインは笑顔で答えました。

「そうだね、パルミがまとめてくれた通りだよ。ベルサームと無関係の大人を探すのは大事だと思う。旅のしかたも、わからないわけだし」

 トキトもうなずきをます。

「俺も賛成さんせい。ただし、ここには人なんていなそうだろ。だから最初の最初は、飲み水や食料を集めていくところからだな」

 アスミチはこんなふうに言いました。

「センパイだってきっとどこからか移動してきたんでしょ。食料を集めて、そのあと移動して人を探すっていうのはたしかにありだと思う」

 最後にカヒが同意の言葉をそえます。

「アスミチの言う通りだよね。センパイだってどこかから来たのなら、わたしたちもどこかを目指すことができそう。わたしも、ここでしっかり食料集めなんかの準備をするのが先だと思う。それからドワーフの国に行くのも、いいことだと思うよ」

 全員の意見が一致しました。

 その時、ウインがいくぶん遠慮がちに、みんなに呼びかけます。

「あ、今後のことに関係あることなんだけど、ちょっといい?」

 ウインは自分のあしがまだうまく動いていないことを言いました。旅をするのに歩きにくくなり、みんなに迷惑をかけるかもしれないと思ったのです。

 また同時にウインは気づいていたことがありました。それをここで言うことに決めました。

「あの、それと、カヒのことなんだけど。カヒの、かみの毛の色……」

 なるべくショックを与えないようにウインが言い方を選ぼうとしていると、

「え?  わ、わたし?  髪の毛?」

 カヒは自分のこととなっておどろきをかくせずにいました。

 そしてパルミが大声で言ってしまいました。カヒを指さして、

「あっ、カヒっち、髪の毛がてっぺんから白くなってる……」

 とちゅうで「まずい」と思ったのか、パルミにはめずらしく言葉がしりすぼみになってしまいました。

 カヒは両手を頭にやってもしゃもしゃと髪の毛をさわりました。動揺どうようして思わずれてしまいましたが、色のことは手ではわかりません。

「ええええええ!? ほんとに? ウインとパルミ、からかってない?」

 と彼女はみんなの顔を見ましたが、仲間たちにもカヒの頭を見て心配そうな顔をしています。通学班の仲間はこんなたちの悪いからかいかたはしません。今も、うそをついているようには見えません。

 野営地がうす暗いのであまり目立たなかったのですが、トキトやアスミチから見ても、カヒの頭は白い色になっていました。

 トキトは、事実だけを伝えます。カヒによけいな不安を与えないように、わざとゆっくりめに言うようにします。

「たしかに、てっぺん近くから白くなってるな。カヒ、ほかに変なとこあるか? 痛いとか、ウインの脚みたいに力が入らないとか」

「な、ないよ……」

 アスミチが二人の変化の原因を考えます。

「ウインの脚のこと、カヒの髪の毛、それも異世界に来た影響なのかな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る