第8話 カヒの塩、タムラの塩
新たに見つけたシェルターは、
五人の仲間は昔ここに住んでいた誰かを「センパイ」と名づけ、ここで寝泊まりするための作業を始めています。
トキトは腰を低くして、壁だの、床の
ウインとパルミは、
二人は手のひらで土を盛った
カヒは
壺には保存のきく食べ物が入っている可能性があります。料理好きなカヒらしい目のつけどころでした。またカヒは、
「壺がある。中身は水とか食べ物とかかな……」
カヒが壺に近づいたので、アスミチが並んで作業を手伝います。
「ぼくが見てみるから、少し待ってて、カヒ」
そう言って注意深くのぞきこみました。同じ四年生ながら、カヒを危険から遠ざけようとしているのでしょう。
アスミチがつぎつぎに壺をチェックしていきます。
「中身はどれもカサカサした
とある壺をチェックしているとき、カヒが目を輝かせました。
「あっ、これ」
アスミチもどんないいものが入っていたかと思い、カヒに顔をくっつけるようにして中を見てみましたが、黒い土に見えるものが入っているだけでした。ただ、その表面に小さい透明なきらきらが見える気がします。
カヒは、それが何なのかわからずきょとんとしているアスミチの顔を見て、それから年長組を振り返って言いたました。
「ねえ、みんな。もしかしたら、これ、塩かもしれない」
その言葉は仲間たちの耳を引きつけました。アスミチが小さく「えっ、これが塩?」と驚きの声をあげています。
「わたし、南のほうの国に
ウインが学校で国語の資料集に書いてあったことを思い出しました。
「ええっと、万葉集の時代には、海にちかいところでは海草を燃やして藻塩というのを作ったって、国語の解説があったと思う。それみたいなもの?」
すぐさまトキトが、
「そんなのあるのか。俺、海水から水分をとばして作るんだと思ってた」
「海から近いところだと、たしかに、塩は海水から取るんだって」
カヒは自分のわずかな知識を、ウインやトキトと共有します。
「そのばあい、
どうやらカヒはほんとうに本で調べていたようです。カヒは本の名前も覚えていました。『タムラの塩ものがたり』というのだそうです。テレビコマーシャルでも有名な「タムラの塩」というメーカーが出した本のようです。カヒも、読んだ本から得た知識をほかの子に伝えることができたのです。
「おおー。ほんとにちゃんと調べたんじゃん。やるなあ、カヒっち」
とパルミが感心しながら両手で拍手するポーズをしました。クラップ音を立てず、形だけです。カヒも、読書好きで知られるウイン、アスミチの二人に負けていません。
「えへへ。それでね、海から離れたところでは草を
とカヒは少し誇らしげに言いました。
このことは、ほかの四人は初耳でした。
「草を焼いて塩が取れるなんて初めて知ったよ。あとは塩を取るって言ったら地面から岩塩を取れるところがあるって聞いたね」
とアスミチが補足しました。「岩塩ならパルミも知ってる。動物がなめることもあるんだよね」と、パルミをはじめ岩塩のことは知っている子もいるようです。
もし、壺の中身が草焼きで採れた塩だったとしたら、今はあまり岩塩は関係ありません。ですが、サバイバル生活の成り行き次第では、役立つ知識になるかもしれません。
「壺に入っていたのなら、大切に保管していたってことだよ。塩の可能性はあるよね。サバイバルに役に立つのかも」
とウインがまじめに塩の利用を考えながら言いました。
「うん、ほんとに塩かどうか、まだわからないけど」
カヒは壺のふちを指先で触れてみました。ゆっくりとなでると壺は土の温かみを感じます。灰が少し付着していて指先が汚れます。そして透明な小さい粒が、指先でころころと転がりました。
「野営地に置いてあるなら、きっと食べ物じゃん。塩かどうか、
とパルミが
「いきなり口に入れたら危ないよ!」
もっともなことでした。カヒは、ハンカチで手を
「あ、そっか」
とパルミも納得したようでした。
「それじゃあさ」
アスミチが提案します。
「少しだけ水にといてみて、それをなめるのは? 理科で、
アスミチは理科実験の動画で、手で風を送って薄めた
「水で
とトキトがうなずきます。クモの巣の目立ったものを払い終えていました。
ウインはまとめます。
「なるほど。少し水に溶かして……それならいいかもね」
「うんうん。薄めれば、少しなめてもきっと平気っしょー」
パルミが自分を肯定してもらったようで喜びの同意をしました。
子どもたちは、塩らしき物質の発見をきっかけとして、自分の置かれている状況をもう一度、考え直したのでした。
言葉で表すのが得意なウインがしゃべる場面でした。
「危険は、
手に入るものは、なんでも試すしかありません。利用できるなら、利用しなければなりません。
そのことは、ウインの最初の説明で、よくわかりました。生きるだけでも、大変な状況なのです。
塩が手に入るとなると、とても助かるのです。
「俺も、水で薄めてからなめてみるってことでいいと思う。俺がやってもいいよ」
トキトがそう言うと、ウインも続きます。
「体が大きい私かトキトが試すのがいいね。でも、とりあえずもっとあとにしようか」
「だな」
ここには小さい石積みのかまどもあります。湖の水を
あとは食材の調達を考えるだけです。数日間を過ごすのに最低限の準備と言えるでしょう。
「湖があるのは助かるよな。魚はいたよな。ほかにもエビとか貝とかいるんじゃねえかな」
そんなふうに言うトキトが、食料調達では活躍してくれそうでした。
のちに、多めの水に黒い物質を溶いてみたところ、塩であることもわかりました。
太陽が天頂から半分ほど、地面に傾いています。
残された明るい時間帯は、長くはありません。
枯れた枝の扉を、夕方の空気の流れがカサカサと
食器に使う木や石の道具も見つかりました。ほかにも
「たしかに、この箸みたいなのは、プラスチックに見える」
と、トキトは手に取った二本の棒をオレンジ色が強くなってきた太陽の光にかざしてみました。
「あっ、あたしらみたいに誰かが地球から持ってきたプラスチックの箸じゃね?」
とパルミが思いついて言いましたが、ウインは疑いを持つのでした。
「どうかなー。箸だけプラスチックで、スプーンとか皿とかが木というのはちぐはぐだからなあ」
箸については、すぐあとで
ほんの数分間を使って、かんたんに
枯れ葉、石ころなどの大きなゴミをみんなで
寝る場所を確保するためです。着替えやカバンなど手持ちのものを下に敷くことになるでしょうが、それでも地面の上で寝るのは楽ではないでしょう。そのうえ、でこぼこしていたりゴミだらけでは、とても眠りたくないですからね。
明らかに
センパイは、
体を動かしたので、持っていたお弁当をここで食べておくことにします。五人はお腹を満たしてから、野営地の外に出ました。
今は時間がなにより貴重です。明るいうちにやれることをやっておきたい、その考えは全員が
野営地から水辺にかけて、その周辺も
太陽が出ている残りの時間で、さらなる安全の確認と、使えるものを見つけておきたかったのです。
まもなく、センパイの残したメッセージとも言えるものが、野営地の外に見つかることになります。
それは五人の小学生が生きのびるためにまた一つ、大きな力を与えてくれることになります。
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