第7話 センパイの野営地
この世界には
地球では
この荒野のオアシスでは、グレンフェ・チカニコッコという名前の獣人が岸に
カヒが見つけたのは、彼の足跡なのでした。
グレンフェ・チカニコッコはすでにオアシスを立ち去って、自分の
ついさっき、甲冑ゴーレムの落下の轟音が鳴り響きました。これを聞いて、彼は、一度は離れたオアシスにふたたび向かってきているところです。
獣人チカニコッコと、五人の子どもたちが戦いという
五人が合流し、ウインは
「話がそれちゃったけど、今からみんなでシェルターの場所探しをしない? 水は、
足跡にあれこれ考えをめぐらしていたとき、
ウインは立ち上がりました。なるべく足の感覚の
――まだ少しは歩けるし。歩かなくちゃいけないし。
見回りから帰ったトキトが明るい声で言いました。いい報告があるのです。
「シェルターならさ、おあつらえむきの場所があるかもしれない」
この言葉に、湖に残っていた三人の顔がぱっと明るくなりました。
四年生のカヒが喜んで、
「わ、わわ、すごいね。シェルターが作れたら安心だよね」
そう言うと、パルミとウインも「だね」「やった」と
トキトは指をくいくいっと動かして自分たちが見てきた方を示します。
「一度みんなで見ておきたいんだ。もしかすると、
「キャンプみたいな
とアスミチもうれしそうに続けました。
「カヒが見つけた謎の足跡の持ち主に気をつけながら、行ってみようぜ」
トキトの言葉にみんながうなずきました。足跡のことは、気をつけること以外にできることもなさそうでした。
ちょっと歩くと、いちばん近い赤い岩山のふもとに着きました。岩山とは言っても大きいものではなく、せいぜい学校の
「もし誰かがいた跡が見つかったら、ウインが教えてくれたシェルターに使えるだろ? そこで
とトキトが説明します。野営という言葉をひろってアスミチが、
「軍隊じゃないから、野営っていうのは大げさだけどね。どっちかっていうと
と言いましたが、トキトが
「野営でもいいんじゃね? 俺たちは五人チームで敵のいる土地に
自分たちをそのように見立てるトキトでした。
パルミが小声で、「ウインちゃん、もしかして足がつらくなったの? 背中をパルミが押そうか?」と言ってくれました。ウインは「まだ大丈夫、ありがと、パルミ」と答えました。そのあとパルミがウインの背中にふれるかふれないかくらいに手のひらを当ててくれたのを、ウインはとてもうれしく思ったのでした。
午後の
岩を
ウインの声に不安の色が混じります。
「もし、今から見に行く場所がシェルター向きじゃなかったらどうする?」
トキトは考えがあったようですぐに答えます。
「考えたんだけどさ、俺たちの乗ってきた
ウインはトキトの発想にうなずきます。ウインと同じ六年生のトキトがちゃんと考えていてくれたことがうれしくもありました。
「なるほど。大きなものが落ちたから、地面がえぐれてシェルター向きの場所になってるのかもね」
ウインが
「シェルターにするかどうかに関わらず、一度見に行っておきたいよね」
そう言ってから、
「見つからないように
そのアスミチの言葉に、全員が同意しました。
――トキトも、アスミチも、五人みんなで生きのびることを真剣に考えてくれてるんだ。
ウインの心にかよった温かいものは、きっとほかの子の胸もあたためたことでしょう。
五人が異世界に
野営のためのよい場所が、岩山のくぼみにありました。
明らかに人の手が入っている、古い小さな
それらいずれもが、
風や雨をしのぐにはこれほどいい場所はないように見えました。きっとこの場所を選んだ昔の
その景色に五人は目を輝かせました。ウインが足の不調を忘れて言います。
「すごいじゃない、トキト、この場所って……」
トキトは扉を開けて中を確認しながら、
「うん、前に誰かが使っていたっぽいな」
と確信した口調で言いました。
アスミチも喜びの声を続けます。
「それにさ、昔の誰かが、ここで生きていられたってことだよ!」
パルミとカヒがその言葉に反応しました。
「そーじゃん、このオアシスで暮らせるってことじゃん」
「やったね、みんな。わたしたち、助かるんだね」
シェルターが見つかったのでした。幸運がひとつ、積み重なりました。
湖の
危険な生き物がいないかうかがってから、中に入ります。
五人が寝る場所にしても十分に広い平らな場所になっています。
木の枝を組み合わせたすき間だらけの扉から、陽の光が
地面は
空気にちょうどいい湿度がありました。
壁ぎわには大きさのそろった
アスミチは
「だいぶ古いけど、道具が残ってるね。もう間違いない。ここは誰かの野営地だったんだ。しかもぼくたちみたいな子どもじゃなくて大人、そして一人で暮らしたんだね」
「たぶん男の人だね。そーゆー感じがするもん」
とパルミが返します。ほかの子もアスミチやパルミと同じ印象を受けたようです。
「あっちの奥がベッドかな? 少し土が盛り上がって
カヒがアスミチの視線の先を見て言いました。
「そうなんだろうね。あれがベッドだとすれば、やっぱり一人分だ」
「にゃるほど。なんで土を盛って高くしてんだろうね」
パルミのその疑問にはウインが答えました。
「たぶん、雨水、湿気、虫なんかを
「あっ、ここって建物の中じゃないもんね、なるほどねー」
子どもたちはめいめい、気になるところを見て回ります。
パルミがふうっと深く息をして、
「昔、ここに住んでたセンパイがいたんだねー」
ウインはおおいに共感をおぼえました。パルミの表現を
「パルミ、その呼び方いいね。野営地を先に使っていた人だから、センパイだね」
パルミはおそらくわざと変わった言い方をする子です。それがしばしば球技のシーンみたいに、ほかの人の心の真ん中にボールをずばっと
トキトもセンパイという呼び名を使って続けます。
「この
アスミチがみんなの気持ちを代表して言いました。
「ここ、使わせてもらおうよ」
カヒも「怖い」とは感じないようで、笑顔で言うのです。
「わたしも、ここなら安心できる気がする」
こうして五人の子どもたちはセンパイの野営地を使わせてもらうことになりました。どこの誰かもわからない、いつまでここを使っていたのかもわかりませんが、いい場所を残してくれました。
ここがしばらくのシェルター、
まずは、数時間後にやってくる夜をすごす準備に取りかかったのでした。
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