第5話 ミロスト大陸・子どもだけのサバイバル
太陽の高さから、今はおそらく
五人の仲間は、これからこのオアシスで新たに出会う人や生き物のことを、まだ知りません。命にかかわる大きな危険がせまってきていることも、気づいていません。
今は、
ここは地球ではない世界。そのなかのミロスト大陸の
子どもたちに正午を教えた太陽が、オアシスのあるダッハ荒野を、そして荒野をふくめたミロスト大陸を
ダッハ荒野を南東にずっと進んだ先には、大国がひしめくエリアがあります。
西は山脈をへだてて、海岸ぞいに南北にわたってひしめく国々があります。センドオークス国家群です。ほかにも南西には
子どもたちがいるダッハ荒野は、東と西を山脈にはさまれています。東がカシジャ山脈、西はキトセト山脈。荒野は
ダッハ荒野に広がるのは砂と石の景色です。あまり平らではなく、ゆるやかな
人はあまり住んでいません。ぽつりぽつりと、
子どもたちがいるオアシスは、荒野の南のあたりに位置しています。
地下を流れる
森の中にも周囲にも赤っぽい岩が小さな岩山を作っていました。
大きな
巨大ロボットへの呼びかけを終えると、五人の胸には急にこころもとない気持ちが浮かび上がってきます。
することがありません。けれど、なにもしないでは、きっとダメなのです。
あのドンキー・タンディリーともしも会話ができていたなら、いろいろと教えてもらえることもあったかもしれないのですが、今はその期待もできなくなってしまいました。
アスミチが地面にへたりこみました。
「……それにしてもさ。どうすればいいんだろう、ぼくたち」
『どうすればいいのか』。全員が思っていたことでした。アスミチが続けます。
「なにも知らない土地。持ち物は通学カバンだけ。なにができるのかな」
ウインはみんなの気持ちがしぼんできてしまったのを感じ取りました。
――しまったなあ。われに返ったら、心細い気持ちになっちゃうよね。
カヒは、アスミチをはげましたいのでしょう、となりにしゃがんでやさしい声で言いました。
「アスミチ、きっとなんとかなるよ。あんなに高いところから落ちて、助かったんだよ、だから、これからだって……ね?」
続けてパルミが不安げに言います。
「でも、でもさ、カヒっち。まだ助かったかどうか、わかんないじゃん。ここは地球じゃない異世界だし。あたしたち子どもだけだし。
ちょっと周囲を見ても、人がいるどころか、人が作った
パルミの感じているのは、不安と
ウインは、みんなの顔にパルミと同じ気持ちがあるのを感じます。
――異世界で生きのびるために、まずは
ウインはトキトの顔を見ました。なにか言ってくれるかと期待して。
トキトとウインは、五人の中では年長です。かつての通学班ではトキトが班長を、ウインが副班長をしていました。
「どうしたらって言ってもな……どうしたらいいんだ?」
トキトは言ってから「あれ、俺、おんなじことくり返してる」とかわいた笑いをもらしました。でも、ほかの仲間は笑いませんでした。
さきほど空から飛び降りたときに見せたトキトの行動力は、今は引っ込んでしまっているようです。
「ウインちゃあん……本で読んだり、そういうなにか、知らない? なんでもいいからさ」
とパルミがウインに
ウインは、パルミの「
――パルミはちょっと大人のこういう仕草を知っているなあ。
と、うっすら思いながら、答えます。本の知識だったらウインの
「うん。小説ではね、一人で無人島で生き残る話もあったよ。家族で無人島に
ウインの知識にみんなの期待が集まります。
「ほかにも、子どもたちだけのサバイバルの話も読んだことがあるよ」
この「子どもたちだけ」という言葉に、仲間の
「飛行機が
ますます、自分たちの置かれた
疑問を感じたカヒに、けげんそうな顔で
「子どもだけで飛行機に乗っていたの?
そう問われて、ウインはくわしいことは語らずに、
「うん。操縦してくれた大人は
「お話の中でもいいの。助けにきてもらえて、よかった」
カヒが笑顔になりました。ウインは少し心が痛みました。ウインは、あえて言わなかった部分があったからです。
「ウイン、カヒ、それからほかの二人もさ。物語の子どもたちは助かってよかったかもしれないけど」
と、トキトがそこでひとつの
「俺たちは、そこんとこ、事情がちがうよな」
――よかった。悲しい、つらいできごとを言う前にトキトがわりこんでくれたよ。
ウインの心の声は誰にも聞こえません。トキトは続けます。
「忘れてないだろ、俺たちは大人たちから逃げて、ここまで来たってこと……」
トキトの言いたいことが理解できたウインが言います。
「そうだね。私たちはベルサームという国から
そうだったのです。
ひとつの国が開発した恐ろしい
「もし大人に見つかって、ベルサームに私たちのことが知られたら……」
と続けたウインに、 アスミチがうなずきます。
「たしかに、命の
パルミも同意の気持ちを言葉にします。
「そだそだ、大人に見つかるのは、ヤバいってことだよね」
どうやら、物語と同じように助けてもらうのはむずかしそうです。
「少なくとも大人に見つかりたくないよね。その人がベルサームと関係ないって確認できないうちは、さ」
とウインが結論を言い、みんながうなずきました。
物語と違って、大人に発見してもらうことが解決になるとは限らない。そんな事情が、仲間たちにはあること。それを五人がみんな
ウインは話題を変えようとしました。
今から話す内容は、仲間にとっても役に立つで、たいせつなことのはずでした。
「みんな、聞いてくれる? トキトと私は、じつはサバイバル
この新情報に、物語のことはみんなの頭から
サバイバルの知識こそ、今の彼らにいちばん必要なことだと思えたからです。
――あれ? 「申し込んでいた」っていうことは、まだサバイバル講習を受けていないっていう意味?
パルミの頭の中で疑問が浮かび、彼女は素直にそれを言葉にします。
「ウインちゃん、サバイバル講習を受ける前だしょ? サバイバル知識、あるのん?」
パルミの疑問はもっともでした。
「うん。講習は、残念だけど間に合わなかったね。でもね、サバイバル講習のガイドブックをもらっているの」
そう言うウインの話に、仲間たちの心がいくぶん軽くなります。ガイドブックだけでも役に立ちそうに思えたからです。
「わたし、ウインとトキトから教わりたい。サバイバルのこと、教えて?」
とカヒは、頭でサバイバル生活をする自分たちを想像しながら、前向きに言いました。森から食べ物を集めたり、湖の岸で調理したりするようすが思い浮かびます。
「うん。小学生向けのサバイバル講習だから、大事なことだけに
ウインが
「さすがウインだなあ。俺も知りたいから、説明してくれ」
「え、なんでトキトまで説明してくれって言ってくるの? トキトも同じガイドブックもらってるでしょう? 読んでないの?」
ウインの問いかけに、トキトは少しだけためらい、でもはっきりと
「ごめん、読んでない!」
ウインはふうっとため息をついたものの、彼の正直さに、軽く笑うことしかできませんでした。
「そうなんだ。いさぎよすぎてなにも言う気になれないから、いいよ。じゃあ、カヒ、トキト、パルミとアスミチも聞いてね」
ウインは集まる四人に向かって、覚えているかぎりの
それはこんな内容でした。
第一に、安全なシェルターを作ること。
シェルターとは安全な
トキトとアスミチが「拠点、かっけえ」「
トキトのおもしろ発言に笑いさえ起こらなかったさっきとの違いにウインはほっとします。
――やった。ちょっぴり気持ちにゆとりが出てきたって感じだよ。
シェルターについてウインはさらに説明を加えます。簡単なつくりでもでいい。たとえば地面に穴を
「私たちのばあいは、オアシスの森に岩がいっぱい
そうウインが言うのを聞き、カヒが思いついて答えます。
「赤っぽい岩、あるよね。小さな岩山も何個もあったよね。雨宿りしたり、できそうな場所、見つかるかもしれないね」
アスミチとパルミがその言葉にのっかってきます。
「いいね天然のシェルター。秘密基地」
「アスっち、どうしても秘密基地を作りたいんねー。でもパルミもわかるよ。秘密基地。見つからないようにカムフラージュしてさ」
第二のポイントをウインが説明します。それは、水でした。水ほど大事な
「川や湖でくんだ
と、ウインは安全な水の手に入れ方をみんなに教えました。 アスミチが知識で
「煮沸っていうのはお湯をわかして、ぐつぐつ
ウインはうなずきを返します。
そしてウインは、そのタイミングではっと思いついたことがありました。
「あっ、生水といえば! さっきの
五人はおたがいの顔を見回します。どの子も自分は大丈夫だけどほかの子はどうなんだろう、という顔をしています。
「俺も水にざんぶり飛びこんだときに水が口に入ったけど、なんともねえかな」
とトキトが言い、ほかの子も同じような表情です。痛みをがまんしているようすもありません。
「いないのね。じゃあここの水はわりと安全かも」
ウインはほっとした顔をして、説明を続けるためにゆったりひとつ息を
最後のポイント、食料についてに説明が移ります。見回りをする上でも
この見回りのときに、危険な獣人の足跡が見つかります。
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