祠壊しコラム3 「壊したんか爺」考

 さて、文町氏のポストにより祠壊しの文脈に「君死ぬよおじさん」が登場したことで祠壊しが爆発的に広まったところまで解説しました。ここでは「壊したんか爺」について少し考えていきます。


 まず「祠壊したんか爺」について考えていきますが、その前に、「祠を壊す」にはどんな意味があるのか探っていきましょう。


 因習村ミームにおいて「祠」とはおおむね土着の祟り神が祀られていて、捧げものをしないと村に悪さをする存在であることが多いです。生贄をささげないと悪さをする存在、といえばヤマタノオロチだったり猿神退治だったりと物語としては馴染み深い存在です。それを祀った祠に損害を加えることは、祀っている側からすればたまったものではないでしょう。


 そんなものを諫めるのが「壊したんか爺」です。物語として「その禁止事項を破ったから不利益を被ることになる」ということを登場人物に伝える役割があります。ちなみに「禁止事項を設定する」「その禁止事項を破る」というのは物語を進める上においてしばしば有効に使われます。


 例えば「鶴の恩返し」で言うと「決して扉を開けないでくださいね」、雪女で言うと「このことは誰にも話してはいけません」などですね。そしてどちらも禁止事項を破ることで物語の収束に進みます。つまり、契約の破棄は物語の転換点でもあります。


 そして、主催者の記憶によれば彼は当初「壊したんか!?」と叫んではいませんでした。前回お話ししたように、「祠を壊す」というミームは近年できたものです。では、それ以前はどう叫んでいたのかと言えば「あそこに入ったのか!?」「あれを見たのか!?」だったと思います。


 この辺の「高齢男性が問い詰める」というミームはインターネット上だと『くねくね』『姦姦蛇螺かんかんだら』あたりからはっきり表れていると思います。「くねくね」に至っては、初出では登場しなかった祖父が後に書き加えられているなど物語をよりわかりやすくする存在として登場します。


 このあたりのミームがよく表れているのが『禁后パンドラ』でしょうか。子供だけで「入ってはいけない」という空き家に入って謎の呪物を目撃し、一人が発狂してのちに「お前たちはあそこに入ったのか!? これを見たのか!?」と詰問される。まさに「祠壊し」の源流のような話です。ここに登場する人物はそれぞれの親であり高齢男性ではありませんが、禁止事項を咎めつつ命に係わることだったことを語る大人の鬼気迫る様子は圧巻の怖さです。


 つまり「壊したんか!?」と叫ぶのは別に高齢男性でなくてもいいのではないかという気もします。最初に例に出した「八つ墓村」では「祟りじゃー!」と叫ぶのは高齢女性です。禁止事項の伝達であれば別に爺さんでなくて婆さんや若者でもいいのでは? という疑問が浮かびます。しかし、「禁止事項について知識がある」のはやはり村の長老のような存在だと説得力があるということなのでしょう。


 どうしても敵役のようになってしまう「壊したんか爺」ですが、長年祠を祀って村を守ってきた彼がわけのわからない余所者に今までの苦労をなかったことにされるようなことをされたら、それは怒るでしょうね。今回の企画内でも様々な「壊したんか爺」が見られましたが、理不尽に怒り散らす老人はあまり見受けられませんでした。ミーム化して、彼は多少愛されるキャラになったのかもしれません。


 さて、次回は「君死ぬよおじさん」の解説です。何しろミームが生まれたばかりなのでこっちはかなり主催者の主観の入ったものになっていると思いますが、何かの足しになればと思います。最後までお付き合いください。

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