ナイトシンク





 今まで誰も知る人に出会わなかった好きな曲をあなたが知っていたから、運命だと思うのなんて簡単でした。

 


 運命だなんて簡単だった。偶然のように必然を重ねるほどの愛はなかったみたいで、見紛ったつまらない符号に気づくのも簡単で。人間らしいあなたが好きだけど、所詮人間程度にしかすぎないあなたはどうせいらない。あー、でも、それでもずっと好きだし好きでいたいな! 巡り会えたことを後悔しないっておかしな確信をしたいくらいにはだいすきなのかも。傷も陰もなんでか見てくれないズレたピントのあなたの色眼鏡が愛おしい、救わなくたっていつまでもよく分かってない振りをして掬いあげてほしいよ。

 


 今だけ、記憶のなかのいちばん目立って、きらきらしたところに、あなたのことを飾っておいてあげます! 願わくば日の当たらない場所に仕舞うことなんてないとよかったかな。思い出なんて日に焼けちゃって執着の褪色するくらい、味わいつくしちゃうのがきっとちょうどいいから。いつかセピア色になったあなたの不器用な笑顔を一瞬、一枚拾い上げられた時に、これを愛と名付けようと思うの。


 好きだった声、忘れられないといいのになあ。いつかあなたの音を更新できなくなったら、ほんとうのおわりにしようかな。あのバンドの新譜、夏の終わりとあなたの温度差、ふわって思い出したりなんかしてみて。なんかいい、だけじゃ、好きの理由には足りなかったのかもしれないですね。そんなのも嫌いじゃない、以上。

 






いつかの新譜が、このタイトルでした。





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