昼寝の後の銃撃戦

藤泉都理

昼寝の後の銃撃戦





 空気が汚染されていると花が咲かないと言われており、大都市では咲かない事がある金木犀。秋に咲くそれは、春の沈丁花、夏の梔子、冬の蝋梅と合わせて、四大香木として名を知られていた。










 空気汚染が進むこの大都市では珍しいのだろう。

 高層ビルの屋上に鉢植えされている金木犀があった。

 高さ二メートルまで育ったこの金木犀の下で、昼寝をする男が居た。

 毎日ではない。不定期であった。

 晴天、曇天、霧雨、土砂降り。

 天候はさして関係ないようだった。


 この男と闘ってみたい。


 コルトパイソン357マグナム。

 破壊力の高いマグナム弾(.357マグナム)を使う大型の高級リボルバー。

 装填できる弾数の多いセミオートが主流になっていく中、この男は頑固にこの六発のリボルバー式に拘りを持って使い続けていた。


 この男と闘ってみたい。

 与えられた任務は男の監視及び組織への報告のみ。

 この欲求を抑え続けなければならない。


 コルト・ローマンMK-Ⅲ。

 ローマンは法執行人の意味がある「Lawman」の名が示す通り、警察向けの拳銃として設計されており、装弾数は六発。小型ながらも、弾薬として(.357マグナム弾)も使用可能。


 女は愛銃であるこのコルト・ローマンMK-Ⅲに触れる回数を増やしていった。


(この所、毎日来ているな。暇なのか?)


 道路を挟んだこの高層ビルまで届く金木犀の匂いに、流石は四大香木だと思いながらも、金属臭さが漂うこの町でよくもまあ、咲き続けられるなと感心した女は少しだけ重くなった瞼を持ち上げ続けた。

 金木犀の下で昼寝をする男を監視し続けたせいだろうか。

 あまりにも心地よく眠る男に感化されてしまったのだろうか。

 不甲斐ない。

 己を叱咤しながら、女は男の監視を続けた。






「お嬢さん。金木犀の香りに癒されちゃったのかな?」

「な!?」


 男の声に目を覚まし、現状に驚愕した女は素早く男から距離を取りながら男の急所に向かって、一発、二発、三発と、コルト・ローマンMK-Ⅲを撃ち続けた。


「おやおや。俺を殺していいのかな?」


 コルトパイソン357マグナムを構えながら、女に流暢に話しかける男に、体勢を整えた女もコルト・ローマンMK-Ⅲを構えながら、殺しはしないと冷たく言い放った。


「だが、折角私の元まで来てもらったのだ。少しだけ、遊んでもらおうか?」

「装弾しなくていいのかな?」

「必要ない」

「そうか」


 微笑を溢した男は、コルトパイソン357マグナムから取り出した三発の弾を腰に下げていたポーチに淹れると、また、コルトパイソン357マグナムを女に構えた。


「律儀に待っていただけるとは。あなたは素晴らしい淑女だ」

「お互い様でしょ」


 不敵に笑い合ったのち、男と女は愛銃であるコルトパイソン357マグナムを、コルト・ローマンMK-Ⅲから放った。

 続けざまに三発の弾丸を、





















「今度一緒にあの金木犀の下で昼寝でもどうだい?」

「考えておくわ」











(2024.10.14)



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昼寝の後の銃撃戦 藤泉都理 @fujitori

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