第27話 落差!
私はただ、目を見開いた。
「……ま、いいや。クリスマス前は仕事も山盛りだから。ゆっちゃんは戦力になりそうだし、『
ぽん、と肩に触れられたけどなんの反応もできなかった。
いや、あの。
ええと。
私の中にいた白薔薇王子が一瞬にしてガラガラと音を立てて崩れ去る。
はて……この方は一体どちらさまでしょうか。口調もだけど、顔つきまで違って感じる。
いや、たしかに翔斗さんなんだ。なんだけど……。
今なら「実は双子でした」と奥からいつもの翔斗さんが現れても驚かない自信がある。そのくらいの変わり身だった。
うん。あの。そう。望んだのは私です。
そう、だから、これは受け入れないといけないんだよね。
今更やっぱり元に戻ってください、なんて言えないわけで。
いや、戻ってほしい、ってわけじゃないけどそれにしてもやっぱり落差があまりにも────
「ハイハイぼーっとする時間は終わりね。ちゃっちゃと仕事してちょーだい、ゆっちゃん」
「あ、は、はいっ」
返事をするのと同時に目の前にどさっと焼き菓子の入ったケースが置かれた。
「まずシール貼りから。いつもくそトロいからちゃんとやり方教えるわ。つかほんとに右利き? 自分の手なのにまったく使いこなせてないよね」
ひえ!?
「う、ううあのっ、翔斗さん」
「……なに」
「そんなこと思いながら今まで見てたんですか?」
だって今までは「日毎に上手くなってますね」とかって褒めてくれるばっかりだったじゃないですか!? ……なんだか人間不信になりそうだ。
「ああ……極端なのは自覚してるし謝る。けどこっちが『
「ら、落差がすごすぎでは……」
「戻したほうがいいですか?」
「ひっ」
「もう無理でしょ。一回見せたら」
「あ、はは……」
引きつらせながら笑うと「ほら手止まってる」とさっそく叱られてしまった。
「十分以内で終わって。持つ角度悪い。それ。だからまっすぐ貼れないんだよ。あとそこ、並べ方効率悪い。こっちに寄せんだよ。もっと頭つかって。バカじゃないんでしょ?」
「う、ううう……」
────と、いうわけで。
私、笹野 ゆきこ、通称『ゆっちゃん』は、この度正式に【洋菓子店 フレジエ】の販売員アルバイト(長期)として採用されたのでした。
否めない『こんなはずじゃなかった感』……。
ぐあああああ。
これから私、どうなるの?
『5 惹き合うタマゴと激しい落差』
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