第26話 本当の翔斗さん
「悠大くんと翔斗さんが一緒に住んでることとか、翔斗さんに、こっ、婚約者がいることとかを聞いて……。そして、それを翔斗さんが私に言わないでいるのは全部、私が『短期バイト』でまたすぐ『お客様』に戻る存在だからだって……」
「なるほど」
「そう……なんですか?」
潤む瞳で見上げてみると、翔斗さんは弱ったように微笑んだ。
「隠すつもりはありませんでした。ただあえて言うほどの話題でもなかったというか。そういった話よりも、僕たちの間には伝え合うべき連絡事項や僕からゆっちゃんに教えるべき仕事もたくさんありましたし」
そ、そう言われると、たしかにそう。……でも。
「わ、私のこと、仲間だと思ってくれていますか?」
「もちろん。大切な仲間ですよ」
でも。
「だったらどうして、『お客様』と同じように扱うんですか?」
「んん。そんなつもりはないんですけどね」
柔らかに小首を傾げる。そこにはまだ笑顔があった。
なにを訊ねてもひらりとうまく躱される。ボールがまるで当てられない、私の苦手なドッジボールみたいだ。
「私には『本当の翔斗さん』を見せてはくれないんですか?」
だめだ、もう、泣いてしまう。
「本当の僕…………と言われても」
困ったような笑顔になった。
困らせたいわけじゃない。ただ、知りたいだけなんだ。
どうして知りたいかって、それは。
「翔斗さん、私…………販売員として、翔斗さんのことすごく尊敬しています。だから、知りたいんです。翔斗さんの『嘘』も『本音』も、ぜんぶを」
裏側を、見せてほしい。
綺麗なところだけじゃなくていい。
すると翔斗さんは、ふーっ、と少し長めに息をついて、そしてぽつりと訊ねた。
「ゆっちゃん」
「…………はい」
「この仕事、長期でやりたいですか?」
「え」と顔を上げた拍子に、ぽろりと涙が零れた。
「クリスマス後も、継続してここでバイトしたいですか?」
そこにいつもの笑顔はなくて、真剣な瞳にドキリとした。
声が出せず、こく、と頷く。こくこく、と何度も頷く。翔斗さんは小さくため息をついた。
そうして目を逸らし気味に、私にこんなことを言う。
「僕はこう見えて結構、厳しいですが……それでも後悔しませんか?」
へ。
思わぬ確認に涙が引っ込む。
厳しい……? 翔斗さんが?
「たとえばそうやって泣いたりしても、基本的には優しく慰めたりしないし、どっちかというと面倒くさいな、と思ってしまうタチなんですが、それでも?」
「え……翔斗さん?」
見上げるようにして問うと、翔斗さんはふう、と息をついて「せめてクリスマス後にしたかったんですけどね」と零すように言う。
それは、まるで、本当に。
魔法がとけるみたいな感覚だった。
「悠大のせいで予定がぜんぶ狂ったってわけ。はーあ」
まったくあのくそガキ。と丁寧語なしでいきなり信じられないことを言った。
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