第23話 ツクリモノ
あまりに直球すぎて、瞬きも忘れるほどだった。
好き……かどうか?
そそ、そんなの…………答えられるわけない。
白い薔薇みたいな人。
お客様に寄り添って、すぐ何色にでも染まる。
みんなに優しくて慕われる、キラキラまぶしい王子様。
……でも、ほんとうにそう?
私はゆっくりと目を閉じ、そして伏せ気味に開いて、静かに答えた。
「裏がある人なんだろうな、とはわかってるよ」
そう、わかってる。
『表面王子』
あの言葉を聞いた時から。
ううん。思えばもっと前からかもしれない。
フレジエにいる『翔斗さん』は、すべて計算された偽りのツクリモノ────。
「本当の翔斗さんは、全然ちがうんだろうなって。わかってて、それでも隣にいたかったのはその接客が本物だと思ったから。〈お客様を幸せにするプロ〉だって、心から感じたからだよ」
伏せ気味にしていた顔を上げてまっすぐ悠大くんを見ると、彼は無表情でじっとこちらを見ていた。
「……笹野さん、販売員の素質あるかもね」
そしてまたくつくつ笑って「なぁんだ」とつまらなそうに、だけど面白がるように言う。
「あの『偽物王子』にすっかり騙されてるのならさっさと目を覚まさせてあげようと思ったのに。笹野さん、かわいいし。叶わぬ恋に泣かされるところなんか見たくないもんね。まあその時はその時でこっちにしてみたらチャンスでもあるんだろうけど」
聞いていていいのかよくわからないことまでペラペラ話すから反応に困った。
「え……悠大、くん?」
大丈夫ですか? の意味を込めて問うと、真冬の夕日に照らされながら目の前の彼は妖艶に微笑み、机からすとんと降り立って私との距離を縮めた。
そうして私のすぐ横の位置に屈んで、見上げるようにしてこちらの顔を覗き込んで言う。
「一目惚れかもね。『ゆっちゃん』に」
「は……?」
途端にぶわ、と血がめぐる感覚。顔がかあっと熱くなるのを感じて、慌てて両手を頬に当てて仰け反った。な、なになに、なんで!?
悠大くんはまた面白がるように肩を揺らしてからすらりと立ち上がって窓のほうを向く。
「パティシエっていうのは才能あるヴァンドゥーズを求めるものなんだよ。本能的にね。単純なこと。ゆっちゃんにはそれがある。だから好きだ」
ひっ。い、いみがわからん……!
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