2 あの真相と謎の忠告
第6話 二年の月日ののち
長い月日が経ったことが信じられないくらい、そのお店はそのままだった。
いや、もしかしたら本当にこの空間だけ時が止まっているのかも?
「いらっしゃいませ」
あまりにも変わらないその声と姿が私を更に戸惑わせた。
整った顔立ちはともかく、服装や髪型まで全部があの日のそのままだ。
「あれ……笹野さんじゃないですか」
「…………あっハイ! お久しぶりです」
変なことを考えていたせいで一瞬反応が鈍ったものの、慌ててぺこりとお辞儀をする。
ショートさんはそんな私ににこりと微笑んだ。よかった、憶えてもらえていた。
「お久しぶりです。高校生になられたんですね」
言葉を受けて我に返る。そうか、今日は制服姿で来たんだった。なんだかやっぱり私だけ時が進んだような錯覚に陥る。
「しかも〈みどり北高〉とは。秀才なんですね」
ふふ、と微笑まれて「いえいえ!」と恐縮した。
「今、一年生ですか?」
「あ、はい。そうです」
「はー。月日が経つのは早いですね」
当然ながら店内の時は止まっていなくて、ちゃんと動いているみたいだ。にしても。
「ショートさん、全然変わらないですね」
ま、まあ大人の男性だし二年くらいでそんなに外見が変わったりはしないのかな?
ショートさんは「そうですか?」と小首を傾げて言う。
「それで今日はケーキをお求めで?」
「あ、いえ。…………じつは」
言いながらおずおずと店先のガラスに貼られたチラシを指す。
「あれを拝見しまして」
それは、このお店【洋菓子店 フレジエ】の短期販売アルバイト募集のチラシだった。この前久しぶりにお店の前を通った時にたまたま見つけて応募してみよう、と決めたんだ。
「あ……本当ですか?」
「は、はい」
ショートさんは驚いた様子で目を見開いて、それから「嬉しいです」とにっこり笑ってくれた。
うううう、ズキュン……!
「いちおう店長と面接をしていただくことになっているので……そうですね、今週金曜日の午後五時に、履歴書を持って再来店していただけますか」
「はい!」
というわけで後日、面接は厨房の奥にある休憩室という場所でいちごさんによって行われた。その内容は面接というよりほとんどが私の近況や世間話だったわけだけど。
そしていちごさんからショートさんの本名が『
「ご姉弟で経営されてるんですね……?」
訊ねてみると「いや」と。
「んんとね。厳密には違って。このお店は私の父が経営する洋菓子店の二号店なの。任されているのは私と夫で、翔斗はただの従業員」
「え」
思わず混乱してしまう私にいちごさんは「ややこしいよね。翔斗は態度もデカいし。まあ細かいことはいいわ」と笑った。
翔斗さんのあの柔らかな物腰を思い出しつつ、態度がデカい……とは思わないけどな? などと考える。
お姉さんと二人きりだと、違うのかな?
こうして私は【洋菓子店 フレジエ】の販売員アルバイトとして正式に採用してもらったのだった。
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