第9話
17時…。
私はマンションを後にした。
出て行く時、章吾の顔を見れなかった。ソファで寝転ぶ章吾をちらっと見て、慌てるふりをして走るように玄関に行き、『行ってきまーす』と叫ぶとさっさとマンションを出て行った。
どんな人なんだろう…。マッチングアプリだと思おう。いやだめだマッチングアプリだと恋愛しに行くみたい…。今日はプロの先生に教えてもらいに行くと思えばいいんだ!人生経験!!社会勉強!!大丈夫!!浮気じゃない!浮気じゃない!!
私は電車に乗り継ぎ、10駅先で降りた。会社からも、住んでいる場所からも離れている場所を選んだ。私自身も来たことがない、ちょっとキレイめなホテルの1階にあるカフェで待ち合わせをした。周りにはお上品なカップルが楽しそうに談笑していたり、ビジネス商社マンらしき人が海外の取引先の人と英語で商談をしたり、日常の私からしたら非日常な空間だった。何となく別人の自分になれる気がした。
美鈴さんから紹介してもらった女性向けの風俗は、WEB上で写真やプロフィールを確認して男性を指名し、業務用メールで場所と時間のやり取りを本人として待ち合わせをする。そしてホテルに移動していわゆる「セラピスト」のセラピーを受けるらしい…。
でもこういう仕事をしている人だからそんなイケメンなんていないか…。写真はモザイクがかかってるし、年齢はなんとなく年上が良くて30代の人を選んだ。趣味が時短調理って。料理人なのかな…せっかちそうな人。だけど、「指名して下さる方の心に寄り添えるセラピストを目指してます」って文言が初めての私には優しくて安心できた。なんとなく心が惹かれてAOIさんと言う人を指名した。何となく写真の雰囲気髪型とかスーツ姿がスタイルよくてかっこよかったし。顔は分からないけど…。
私が今さっき出されたロイヤルミルクティーをゆっくりと口の中に注いだ瞬間、すぐ後ろ、しかも耳元で囁くように
「栞さんですか?」
と声をかけられた…。
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