第8話

12月18日土曜日の朝。昨晩は眠れぬ夜を過ごした。これから迎える私の初めての体験に緊張もあるけど、なんだか期待もしていた。何か変わるかもしれない…。





私は、ベッドから起き上がると洗面所に行き、顔を洗った。鏡の中の情けない自分の顔に向かって、洗面所のスポンジを投げつけた。大丈夫。悪いことじゃない!お金を払って女磨きをしに行くと思えばいいんだ!とはいえ、初対面だし綺麗な状態で行こうかな…。いつもは適当な眉毛を整え、パックをした。とその瞬間!!





「栞今日は何時に帰ってくるのー?」




『なっ!びっくりした―!!』





突然洗面所の扉からひょこっと、章吾の顔が出てきたから私は驚きすぎてダンダンッとその場で大きな足踏みをしてしまった。朝から心臓に悪いよ章吾…。





「なんでそんな驚くの?ってか!鏡なんでこんなべちゃべちゃなの!?てかびっくりした!パックしてたんだ!」





『掃除しようと思って!パックは肌の曲がり角だから。』





「いいよそんなの俺がやるから~。栞は今日昼からお出かけでしょ?たまにはゆっくり準備して可愛くしてお出かけしなよ」





いやいや。棘がある章吾の発言。いつも可愛くしていないみたいじゃないか…。どうせ私みたいな女相当な時間をかけないと可愛さを創り出すことはできませんけど!だからってそんな言い方しなくてもいいじゃん!!もう。今日絶対楽しんでやる!






『じゃぁお願いしようかな。』





「今日俺も飲み会あるから23時くらいかな…。正木達とお疲れ様会なんだよね。2次会あるかもだから。」





『そうなんだ!私は22時くらいかな…』





良かった…私の方が先に帰って来て、少し心を落ち着かせてから章吾に会いたかったし…。





「栞は今日誰と遊ぶの?」




『奈々とサシで。』



チクっと心臓が痛くなった。誰と…。まさか自分の彼女が女性風俗店に行ってくるなんて夢にも思っていないでしょうね。女友達とダイニングバー的な場所で乾杯して、どうでもいい話に花を咲かせながらべらべらしゃべって、笑って酔っぱらって…。そんな想像をしているだろう章吾が私の言葉を疑うはずもない。



章吾は鼻歌を歌いながら鏡を磨いている。その後姿を見ると罪悪感が生まれた。まるで浮気をしているかのような気持ち…。私今上手に嘘つけただろうか。顔に出てなかったかな?声のトーンは大丈夫だったかな?私はすぐに章吾に背を向けてリビングの方へ逃げて行った。

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