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「オレ、もう少ししたら此処を出るよ」
何の気なしに彼が言った。
「え?」
いつもの様に薬を持って来た看護師が聞き返すと、彼は白い壁を見つめて告げた。
「そろそろ限界なんだって」
「何が?」
「✕✕✕さんがさ、怒ってるんだ……」
彼は少し寂し気に呟き、それから笑って礼を述べた。
「だから今までありがとう。看護師さん」
看護師はまた病状のせいだろうと、話を流した。
しかし。
それから数日たった頃、彼は忽然と姿を消した。
病室にいた筈の彼が、数秒目を離した隙にスリッパだけ残して居なくなったという。
看護師達は院内を駆け回り、彼をくまなく探したが、誰一人として彼を見つける事は出来なかった。
もしかしたら外に出たのかと、監視カメラや近所を探してみたが、外に出た形跡は無く、出入り口の扉は全て施錠されたままだったという。
とりあえず警察に通報し、行方不明になった彼の報道が連日続いたが、以降、彼が姿を表す事は無かった。
彼が行方不明になってからというもの、彼を慕っていた彼らの症状は日に日に悪化した。
朝日 登は、連日院内を徘徊して彼を探し回り、明星 輝夜は、不安症に陥り、落ち着いていた自傷行為が再発。
雲渡 海斗は、彼が居なくなったショックからまたも引き籠もる様になり山並 昴は、癇癪の再発で暴力沙汰を起こしてベッドに拘束された。
大空 渉は、認知症が進行し、今では会話もままならない状態となり、曉 霞は、心を閉ざしてして部屋から出て来なくなった。
病状の悪化による薬の増幅により、意識の酩酊状態が続くと、彼らは徐々におかしな事を口走る様になった。
『アイツの……十六夜が言っていた事は本当だったんだ……出会ったって言う、あの蜷咲┌縺励?蛹悶¢迚ゥはアイツに取り憑いていた……』
朝日 登は、外側に跳ねる濡羽色の頭髪をグシャグシャと掻き毟りながら半狂乱になっていた。
『きっとアイツだ……あのまがい物に光助は……、あの死神め……チクショウ、、畜生ッッ!!』
自身の傷だらけの腕を引っ掻きながら、明星 輝夜は悔しそうに嘆き悲しみ。
『コウスケ……ずっと一緒にいるって約束したのに、、アイツが、黒い人影がコウスケを攫った……嗚呼……コウスケ……コウスケ……ゥ゛ゥ゛ッ』
雲渡 海斗は、日中泣きながら布団に閉じ籠もる。
『クソッ、クソッ!!あの化け物のせいだッッ!!全部全部!!オレ達の楽しかった時間を返せよバカヤローッッ!!』
廊下まで響き渡る大声を上げて怒鳴り散らす山並 昴に。
『あの少年が……黒い、ナニかと……ナニか……???か、嗚呼、、駄目だ、思い出せないッ』
大空 渉 は、白髪混じりになったスポーツ刈りの頭髪を手で掻き上げながら苦しみ。
『コ、コ、コウ、ス、スケ、おニィちゃ、ちゃんが、が、つ、つれ、、てか、かれちゃ、っった……ナ、✕✕って、い、いう、こ、こわ、い、お、お、ばけ……に』
スケッチブックに描かれた、笑う十六夜 光助とその隣に彼と手を繋ぐ黒く塗りつぶされた背の高い赤い目の“何か”を曉 霞は泣きながら見つめていた。
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