第8話 何時もの朝
「あらー銀ちゃん。おはよう」
「おはようございます。塁は……」
「寝てるわ。何時も悪いわねぇ」
「いえ、もうルーティンなので」
翌日。
塁は何時も通り寝坊。
家に上がらせて貰い2階へ。
一応ノックして部屋に入るけど、やっぱり未だ夢の中だ。
「ほら起きろ朝だぞー」
「ん……んんー……」
布団を剥ぎ取って身体を揺すると、寝惚けた声が返って来た。
「もうちょい……」
「駄目に決まってんだろ。おら!」
「おぅ〜〜〜っ!?」
塁の背中と膝裏に腕を差し込んで、そのまま持ち上げる。
所謂お姫様抱っこだ。このままガクガクと揺らさなければロマンティックな一幕に見えるんだろうか?
「起きろー!」
「あわあわあわあわ……!?」
「朝飯出来てるぞー」
「分かったから! 起きるから!」
腕の中で暴れる塁をベッドに下ろす。
ふぁ……と特大の欠伸をしてから、やっとその眠気で蕩けていた瞳が私を捉えた。
「おはよ」
「……おは、よ……」
「朝飯出来てるからな」
「んー……」
「馬鹿そのまま行こうとすんな。なんか着てけって」
「んぇ〜……?」
私の言葉に露骨な不満顔で答えると、塁はもそもそとデカTシャツに袖を通す。
「下も履けって」
「パンツ見えないからいーじゃん」
「良いから。ほら、足上げろ」
「ん〜……」
このままじゃ埒が明かない、と思ったので私が履かせる事にした。
短パンを引っ掴んで拡げて、塁に私の肩を掴ませて……まるで本当に子供の世話をしてるみたいだ。
普段なら『子供扱いすんなー!』と怒るんだろうけど、寝惚けてるからか素直に動いてくれている。
「よっし終わり! 朝飯食ってこい。階段気を付けろよ」
「おー……」
塁はとん、とん、と軽い音を立てて階段を降りる。
流石に長年暮らしてきた家の階段で転んだりはしないだろ。
にしても……
「怖がってなかった、よな?」
最初にお姫様抱っこで起こそうとした時は……正直怖かった。
また怯えられたりしたらどうしようかと思ったけど、驚きはすれど怖がったりはしてなかった、筈だ。
終始寝惚けてたのも、私への恐怖心が無くなってリラックスしていたから……だと思う。
昨日の一件だけで恐怖心が消え去ったと言われたら俄には信じ難いけど、単純な塁の事だから有り得ない話じゃない。
仮に怖いのを隠そうとしているのだとしても、私なら見抜けるから違う筈だ。うん。
「どうも」
「お疲れ様ね銀ちゃん。コーヒー飲む?」
「頂きます」
その後は普段通り、塁が食べている間にコーヒーを頂く。
塁は食事を目の前にして漸く覚醒したのかガツガツと(それでも一口が小さいから遅いけど)白米と焼き魚、漬物を頬張っていった。
「ぷはー! ごちそーさま! 着替えてくるっ!」
「手伝ってやろうか?」
「子供扱いすんなー!」
塁はぷりぷり怒りながら2階の自室に向かう。
でもアイツ時々靴下左右で違ったり、ブラウスのボタン掛け違ってたりするんだよなぁ……
※※※※※
結局、髪を留める為のゴムが無いと騒いで、それを見つけてやってから登校した。
途中で貴子とも合流してお馴染みの面子で昇降口に来たけど……
「なんだコレ?」
「んー?」
私の声に反応した塁が見上げるけど、私のシューズロッカーは塁の視点より高いから目視する事は出来ない。
特に隠す事でもないので、私のロッカーに入っていた物……以前相川から受け取ったのと似たような封筒を取り出した。
「これは……」
「うわ、またラブレター貰ったん?」
貴子はちょっと呆れ気味だけど、私の方も戸惑っている。
今までラブレターなんて貰った事無いのに、先日に続いて2回目だ。
「やっぱりコレそうか……?」
「じゃない? まさかこんな可愛らしい色合いで果し状って事も無いだろーし」
「なーなー、誰から? この前の?」
「いや、差出人は違う名前だ。えーっと……星原 美奈穂……?」
「ん? 誰?」
「さぁ……私も知らん」
ご丁寧に私の名前が書いてあるから人違いって事は無い筈だ。
しかし星原美奈穂って誰だ? 同じ学年にそんな奴居たっけ?
塁も貴子も知らないって言ってるし、少なくとも私達に深い関わりは無い筈だ。
2人に断ってから封を切ると、中には1枚の便箋が入っていた。
要約すると……一目惚れしましたって事だった。
「塁ちゅわ〜ん!!」
「ぎゃー⁉︎」
教室に着くと早速芳川が塁に絡んできた。
今日はうなじの匂いの気分らしい。
「スンスン! スンスン! スンスーン!」
「嗅ぐなぁー!」
塁も暴れはするけど案の定抱え上げられてまともに抵抗出来ていない。
吉川って現代武術部とかいう謎の部活に入ってるから結構鍛えてるんだよな……
ちび塁じゃあ手も足も出ない。
「にゅあぁあぁぁぁぁぁ!」
「あぁ! 女児特有の謎の気合い入れた声! ……はふんっ」
何かを感じ、何かに感動した芳川は突如ビクンッ!と身体を震わせたかと思うとその場に崩れ落ちた。
……と思ったらビクンビクン痙攣しだしたぞ。
え、イってる?
「この、この……!」
「あぁ! 私を足蹴にする塁ちゃんも素敵……♡」
「コイツ無敵か?」
「でも塁が踏んだらマッサージになりそうじゃね?」
「あー、じゃあ良いか」
「納得すんな! そんなにちっこくねーよ!」
塁がぷんぷん怒るついでに芳川を踏み付ける。
そんな折、教室にドアが開いたかと思うと一つの足音が私達の側で止まった。
「あ、あの……櫻井先輩! 私と、付き合ってくださいっ」
……んん?
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