※ 第7話 どうしてこうなった?
「な……っ!?」
反射的に腕を上げようとして、だけどそれはチェーンが擦れる音を鳴らしただけで私の腕はヘソより上の辺りで止まってしまう。
この動作で塁の身体がビクッと跳ねたけど、私がこれ以上の抵抗が出来ないと分かるとホッと吐いた安堵の溜息が背中に掛かった。
そして、塁のちっこい手……指先だけが動き出して、私の胸の形をなぞり始める。
「お、おい……!」
「……静かに」
背後から聞こえる塁の震えた声がゾワゾワとした感覚を与えてくる。
逃げたいけど足も腕も動かせない。
私が今出来る事は必死に身体を動かそうとする事だけだ。
「は……っ、ん……」
だけどその抵抗は徒労に終わり……塁の手は無遠慮に胸を揉み始めた。
服の上からとは言え、惚れてる女からの愛撫に気分が高揚するような、状況が状況だけに今一モヤモヤするような……
「ふ……ん、塁……辞めろっ! こんな事をする為に手枷を買った訳じゃ……っ」
「ん〜〜〜!」
塁はイヤイヤする様に顔を私の背中にグリグリと押し当てた。
これは……甘えてるのか? この胸揉みも塁なりの甘え方なのか……?
数日だけとは言え触れ合う事を怖がらせた分を取り戻そうとしている……?
……だったら、必死に振り解くのも気が引ける。
今私がするべき事は身体の力を抜いて、出来る限り感じないように平静を保つ事だ。
「……ギン」
「なんだよ」
「怒ってる……?」
「怒ってない。ちょっとはビックリしたけど……」
「……ホント? アタシの事嫌いにならない?」
「ならないならない」
塁はホッとまた溜息。
それから手を離して、背中からも離れた。
「怒ってはねーけど、何でこんな事したんだよ?
抵抗出来ない女の乳揉んで楽しいか?」
「い、いや、その……馬鹿力のギンがホントに動けなくなってるんだなって……
だからちょっとイタズラしてやろうって……」
「言う程馬鹿力じゃねーよ!
……まぁ、塁が満足したなら良いや。ほら、ゲームやるんだろ?」
「……お、おー!」
半ば無理矢理に空気を戻して、騒がしいゲーム対戦が始まって。
だけど私が拘束されてる事への安心感か、それともさっきのイタズラで吹っ切れたのか……不意に私の肩が触れても怯える様子は無かった。
「じゃ、良い時間だしそろそろ帰るわ。コレ外してくれ」
「お、おー」
チャラチャラとチェーンを鳴らしながら手を限界まで上げる。
塁は小さく非力な手でベルトを外すと、次に私の足を縛る枷を外した。
「外れた」
「サンキュ。んで、だ……コレ、どうする?」
「え……?」
私はさっきまで自分が付けてた枷、そして予備として買っておいた手付かずの新品2つ。
計4つの枷を差し出した。
「塁が今後も必要だと感じてるなら、これ全部やる。
ちょっとでも怖いとか不安だとか思ったらコレで私を拘束すれば良い。
コレに関しては絶対にゴネたりしない。素直に指示に従う」
「そんな、の……なんかギンが子分になったみたいじゃん。対等じゃねーっつーか……」
「対等だよ。自分よりデカい奴と渡り合う為には武器が要るだろ?」
「別に殺し合いとかしねーじゃん。あの時のは……事故、だし……」
「事故でも何でも、私が塁を力で無理矢理抑え付けて擽って……心に傷を負わせたのは事実なんだ。
擽りって拷問にも使えるんだ。拷問だぞ?
絶交されても文句言えねー事したんだ私は」
「あんな事で一々絶交なんかするかよ!」
「塁は否定するだろうけど、あの日から私に触られると怖がってたし……もう私に怯える塁は見たくねーんだ。
頼むよ。私の罪悪感を拭って対等な立場になる為にも……この枷で私を縛ってくれ。
もう私が間違っても塁を傷付ける事は無いって安心させてくれ」
「分かっ、た……じゃ、じゃあ……これ、貰う……」
塁はおずおずと4つの枷を手に取り、いそいそとベッドの下に押し込んだ。
やっぱり隠し場所は万国共通なんだな……
「お前掃除しないから良くおばさんが掃除しに来るよな? バレないように箱か何かに入れとけよ」
「お、おう!」
「……じゃ、そろそろ本当に帰るわ」
「ん、また明日な」
「あぁ、また明日」
部屋を出て、階段を降りて、玄関から外に出て……そこで両手を空に向けて伸びをした。
自由になった手足にグッと力を入れて、気温のせいでかいた汗を拭って塁の事を考えた。
あの枷は……まぁ使い方としては正しくないだろうけど、自分なりに考え抜いた末の行動だ。
それが正しいか間違ってるかは別にして……私の中の罪悪感が少しでも軽くなるなら、そしてそれで塁とまた屈託無く接する事が出来るなら何だって良い。
……ただ、一つ思う所があるとすれば……あの乳弄りは本当にただ甘えたりイタズラしたかっただけなのか。
塁が幾らガキっぽいとはいえ私と同じ高校2年生。
性教育なんて人並みに受けてるし、クラスの女子からそう言う話が聞こえて来る事だってある。
もし、もし……だ。
私に性欲なり恋愛感情なりを感じての行動だったとするなら……
「……お花畑かよ馬鹿野郎」
全く進歩しない自分の脳みそが嫌になって、電柱にゴツンと頭突きした。
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