※ 第6話 普段通りを取り戻す為に
「とりゃー! はりゃー!!」
相川を振って、それから何時も通りに塁の家でゲーム。
塁は相変わらず身体全体で激闘を表現している。
「よっしゃ!」
「くそ、読み外れたな……」
「んー? 読み合いも実力の内ですぞーギン君?」
「うぜぇ……」
塁がここぞとばかりに煽ってくる。
コイツ格ゲーでもレースゲーでもFPSでも妙に強いんだよな……
キャラコンもそうだけど、やたら感が良いというか嗅覚が鋭いというか。
「よーしもっかい!」
「次は勝つ」
「ふふふ、掛かってきなさい。返り討ちじゃあ」
「吠え面かかせてやる」
そうしてまた勝負が始まる。
私達がゲームをしている時は大体こんな感じだ。……そう、何時もと同じな筈だ。
「くぁー!」
「ふははー! ギン、貴様の負けじゃー!!」
にしても今日は黒星を積む速度が早いように感じる。
勝率は普段と変わらないのに、対戦回数が多いから余計に勝敗数に差が付いてるのか。
「……あー」
「ん? どした?」
「いや……」
何でやたらに対戦回数が多いのか……その理由を察してしまった。
負けたら罰ゲーム……ってのが無いんだ。
普段なら私が負けて、それでちょっとゴネつつ罰ゲームをやって……それで時間が過ぎる。
でも今日に限っては罰ゲームの提案すら無い。
……ちょっと突ついてみるか?
「なぁ、塁」
「んー?」
「今日は罰ゲームとかやんねーの?」
「え……!? い、いや……今日はなんかそーゆー気分じゃないなーって!
ほら、毎回罰ゲームって言っても芸が無いし、ネタ切れで何も思い付かないし……!」
「……ふーん」
まぁ、そういう事だよな。
昨日負けて、私に押さえ付けられて漏らすまで擽られたんだ。
万が一また負けたら……って、恐怖心が残ってるんだろう。
「あちー……」
思えばさっきから暑い暑いと言いつつも、シャツをパタパタと煽いで涼を取るだけだ。
昨日みたいにシャツを脱ぎ捨てて下着姿になる素振りも見せない。
やっぱり私の事を本能的に怖がってるんだろうか。
いや、もしかしたら……恐怖を感じている事を自覚していて、それでも私に気を使って普段通りに接しようとしているのかもしれない。
どっちにしろ……昨日の件を境に、昔っから変わらなかった関係性が変わってしまった。
……このままじゃ決定的に壊れてしまうかもしれない。
「……なんとかしなきゃな」
「なにか言った?」
「いや……用事思い出したからもう帰るわ」
「え、え……? 別にいいけど……どうしたん?」
「そんな大した事じゃねーから。またな」
「お、おー。また……」
そう言って塁の部屋を後にする。
そして家に戻ってから準備をして……自転車を引っ張り出して家を出た。
塁は自転車に乗れないから滅多に使わないけど今は緊急事態だ。
気温、日光、そしてペダルを漕ぐ運動量。
汗が夥しく吹き出るけど、止まるつもりはこれっぽっちも起きなかった。
※※※※※
翌日。
普段通り学校行って、普段通り塁の家に呼ばれてゲーム対戦……の前に。
「塁、これ見ろ」
「んぁ?」
惚けた面した塁の前にビニール袋から昨日買った物を取り出す。
「ひ……っ!?」
喉をひきつらせた塁が思わず飛び上がる。
視線の先にあるのは短いチェーンで繋がれた幅広のベルト。
つまりは、そう……拘束する為の手枷だ。
「な、ななな……なに、それ……?
い、いや! やだやだやだ! そ、それで何する気だよ……っ」
「落ち着け! お前に使う訳じゃない。これは私に使うんだ。見てろ?」
私は尻もちを着いて自分の足首にベルトを巻き付け、締めて、バックルで留める。
もう片方の足も同じ様に。これで私の両足はこの短いチェーンに繋がれた状態だ。
「ここからは塁も手伝ってくれ」
私はもう一つの枷を持ち、そのチェーンを胡座を組んだ足枷のチェーンに引っ掛ける。
そして右手にベルトを巻いて塁の方に顔を向ける。
「これ、留めてくれ」
「い、良いのか……? 痛く……ない?」
「安心しろ、全然痛くねーから。こーゆーのはあくまで拘束するのが目的だからな」
「わ、わかった……」
塁はおずおずと私の手枷に手を伸ばしてくる。
そしてカチャリとベルトの留め金が嵌まる音が鳴った。そして左手も同様。
これで私は足は胡座を組んだ状態で、両手は足首付近で繋がれた。
「ほら、これでもう動けない」
「な、何がしたいんだよ……!」
「これでもう私は何をされても抵抗出来ないし、塁を襲う事も不可能になった。これなら少しは安心出来るだろ?」
これが、私が導き出した答えだ。
塁の恐怖が自分よりデカい奴に組み敷かれる事に起因してるなら……そのデカい奴の動きを封じてしまえば良い。
こうして私が拘束されてれば、また以前のように緊張を解いてくれるかもしれない。
「別にギンの事怖くねーし……」
まぁ、気遣いにせよ強がりにせよ、塁なら馬鹿正直に怖かったなんて言わないよな。
でも私が触れる度にビクついていたのは事実で……だから、この拘束で少しでも安心させてやりたかった。
「塁がどう思ってるかはこの際どうでも良い。
さ、ゲームしようぜ。指さえ動けばゲーム出来るからな」
「お、おー……」
お、コントローラーに届かない……!
足を伸ばして、腕も伸ばして……
「ん!?」
コントローラーの持ち手に指が掛かった瞬間……塁が背中に寄りかかってきた。
正確には……寄りかかって、腕を伸ばして、私の胸に手を添わせていた。
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