第4話 一夜明けて
「いつもありがとうね銀ちゃん。コーヒー飲む?」
「頂きます」
塁が朝食を食べてる間はコーヒーを頂くのがいつものパターン。
塁は男っぽい言動はするけど体も胃袋も、何なら口も小さいからちょびちょびと食べていく。
そこがまた可愛いと思いつつ、そんなちっこい奴を力で押さえ付けて……とまた自己嫌悪に陥った。
「ごちそーさま! 着替えてくるっ!」
「こらこら口拭け」
「むぎゅ」
テーブルの上に置かれたティッシュで口元をゴシゴシと拭いてやる。
その間塁は無抵抗だ。まぶたが緊張する様に震えて見えるのは……私の考え過ぎか?
「行ってきまーす!」
「はいはい行ってらっしゃい。銀ちゃんも行ってらっしゃい」
「行ってきます」
塁のお母さんに見送られて家を出る。
もう既に汗をかいてきた。
「あちー……」
「夏だからなぁ」
「ギンは余裕そーじゃん」
「そんな塁みたいなオーバーリアクションしてたら余計に疲れるだろ」
「なにおう!?」
「おーおー、相変わらず仲良いねー」
「あ、たかっち! おはよっ」
「はよー」
林 貴子……早い話がクラスメイトだ。
古風な名前だけど、大好きなお婆ちゃん(タカさんと呼ばれてるらしい)に肖った名前なので当人は気に入っている。
通学路で良くカチ合うので、一緒に学校に行く事も多い。
「たかっち今日部活は?」
「あるよー」
「気合い入ってんなー」
「そりゃレギュラー入れるかどうかの瀬戸際だしね」
ウチの女子バスケ部は所謂強豪で練習が厳しい事で有名だ。
けど、その厳しさに付いて行けてる辺り貴子の才能は本物なのだろうと思う。
「で、だ。ギンはどう? バスケ興味ある?」
「何回目だよソレ。今更入ってもついてけねーって」
「いやいや、ギンくらいデカければワンチャンあるって!」
「何度も言うけどそういうのはパス。私は帰宅部で気楽に生きていきたいの」
「ちぇー」
「アタシが助っ人に入ってやろーか?」
「おー、ヨシヨシ! また今度ボールの投げ方教えてあげるからねー?」
「子供扱いすんなー!」
ほっぺをモチモチされた塁がフンガー! と怒り出した。
と言ってもマジギレしてる訳じゃない。
周りもソレは分かってるし、塁の方もそうすれば可愛がられると理解している節がある。
まぁ、実際可愛いしな……
私を怖がったり塁の少年っぽい言動に振り回されたりで関り合う人間が少ない分、貴子みたいに構ってくれる奴には徹底的に甘えようとするんだコイツは。……ん?
「おっと」
「っ!?」
自転車が見えたので肩を掴んで抱き寄せる。
急に引っ張られた塁が一瞬よろめいたけど、そのまま私の方へ寄りかかる様にして止まった。
別にぶつかりそうな距離でも無かったけど万が一って事もある。
そしてその万が一が起こった場合、ちっこい塁だと大惨事になりかねない。
「彼氏かよ」
「保護者だよ」
「だから子供扱いすんなー!」
フンフンッ! と大股で歩く塁。
いつも通りのやり取り。
いつも通りの通学路。
だけど……肩を抱いた瞬間、確かに塁の身体が跳ねた。
いきなり掴まれて驚いたのか、それとも私を怖がったのか……
前者であると思いたいけど、自分はそんな楽観的な性格じゃない。
「……はぁ」
朝っぱらから陰鬱な気分だ。
なのに塁と貴子が目の前で盛り上がるもんだから、余計にモヤモヤする。
※※※※※
「塁ちゃーん! 会いたかったよー!」
「ぐぇっ」
教室に着いて早々塁を抱き抱えたのは芳川 智美。
私達と絡む数少ない人物の内の1人だが、その目的は誰が見ても明白だ。
「塁ちゃん今日も可愛いー! 髪サラサラで良い匂いするし何よりこの未成熟ボディ!!」
「あぅあぅ……」
芳川が力任せに抱き付いてくるもんだから当然塁はあわあわしてる。
ただ、芳川も芳川でデカいので塁の足は完全に宙に浮いているので抵抗出来ていない。
ケッコー美人と評判の芳川がだらしない笑みを浮かべながら見た目子供な塁に頬擦りしてるんだから凄い絵面だ。
「は・な・せぇ〜〜〜!」
「あふんっ、いけず……」
顔を押し込まれて拒絶される芳川。
とは言っても放り投げる事はせずに、ゆっくりと塁の両足を地面に着けさせる。
「なんだーどいつもこいつも!」
「あぁ、怒らないで塁ちゃん……! これあげるから、ね?」
「……! クッキー!」
「智美ちゃんの手作りですよ〜? これで許してくれる?」
「うん! 許す!」
「塁ちゃん優しい♡ はい、あ〜ん」
「子供扱いすんなー!」
「あふんっ」
塁がクッキー袋を奪い取ってムシャムシャ頬張る。
……まぁ芳川の方もこのやり取りを想定しての行動だろうから別に良いか。
現にニコニコしながら眺めてるし。
にしても少食の癖に良くたべる。
昔っから甘い物は別腹と甘味類だけはバクバク食べれるから不思議だ。
「そういやギンさー、この前の告白どうしたん?」
「あ?」
「こくはく……?」
いきなり何言い出すんだ貴子。
塁もクッキー食べる手止まってるし。
「ほら、この前3年の高崎先輩に呼び出されたじゃん?」
「あー、アレか。告白とは認識してなかったな……」
「いやいや、校舎裏に呼び出されるとか告白以外に何があるってのよ」
「果たし状」
「……え?」
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