第32話
大妖魔は獰猛な笑みを浮かべ、爪を振りかざして襲いかかってきた。そのスピードは予想以上に速く、俺たちは散開して攻撃をかわした。
「小夜、右から回り込んで! 霞、支援を頼む!」
俺が指示を出し、全員がそれに従って動く。小夜は軽やかに跳躍し、妖魔の側面から攻撃を仕掛けるが、妖魔はまるで予測していたかのようにその動きをかわし、反撃の爪を振り下ろした。
「くっ……!」
小夜は何とか身をかわしたが、わずかに遅れてしまい、爪の一撃が肩をかすめた。痛みに顔をしかめる彼女を見て、俺の胸に焦りが募る。
「大丈夫か、小夜?」
「平気よ! でも、こいつ、反応が速すぎる……」
小夜が息を整えながら応える。その間も、妖魔は隙を逃さず再び攻撃を仕掛けてくる。
「俺が前に出る! 霞、援護頼む!」
真が決然とした表情で妖魔に立ち向かい、剣を構えた。彼は突進し、大妖魔の懐に飛び込んで一撃を繰り出したが、妖魔の鋭い爪が彼の剣を受け止め、激しい火花が散る。
「こいつ……硬すぎる!」
真が驚愕の声を上げる。普通の妖魔とは違い、この大妖魔は肌そのものが防御壁のように堅固で、容易には傷つかない。
「なら、これでどうだ!」
俺は魔銃を構え、全力の魔力を込めて放つ。強力な魔弾が妖魔に向かって一直線に飛び、その体に炸裂する。しかし、妖魔は一瞬たじろいだだけで、ほとんどダメージを受けた様子はなかった。
「効かない……!?」
俺の声に、全員が愕然とする。まるでこちらの攻撃を無効化するかのように、妖魔は傷一つ負わずに立ち続けている。
「このままじゃ、やられる……!」
霞が緊張した声で言い、全員の顔に不安がよぎる。だが、それでもここで引くわけにはいかない。
「全員で連携して、一点に集中攻撃だ!」
俺は再び指示を出し、全員で妖魔の動きを封じるために連携を始める。真が前衛で攻撃を引き受け、小夜が隙をついて攻撃し、霞が遠距離から援護する。
それでも、大妖魔はまるでこちらの動きを嘲笑うかのように、冷静に対処してくる。
「どうする、拓真!? このままじゃ!」
真が叫びながら俺を見つめる。その目には、かつてないほどの焦りが宿っていた。
「諦めるな、真! 俺たちならやれる!」
俺は決して諦めないと心に誓い、再び魔銃に魔力を込める。妖魔の力は圧倒的だが、ここで逃げ出したら俺たちの修行は無駄になる。何としても、この試練を乗り越えなければならない。
やがて、全員が一丸となって妖魔に集中攻撃を仕掛けた。少しずつではあるが、妖魔にダメージが蓄積していくのが分かる。奴の動きが鈍くなり、呼吸も荒くなってきていた。
「いける! あと少しだ!」
俺の言葉に全員が奮い立ち、最後の力を振り絞って攻撃を続けた。そして、ついに妖魔が力尽きて膝をつき、崩れ落ちる瞬間が訪れた。
「やった……!」
全員が達成感に満ちた表情を浮かべる。その戦いは、今まで経験した中で最も激しいものだったが、俺たちはついに試練を乗り越えることができたのだ。
森の出口が見え、やっと光が差し込む場所にたどり着いたとき、俺たちは改めて互いに見つめ合い、微笑んだ。この修行を通じて、俺たちは確実に強くなった。そして、この仲間と共に戦えることの喜びを、改めて実感した。
しかし、氷結先輩との戦いは、これで終わりではない。俺たちはさらに強くなり、いずれ彼女を討つ覚悟を持っている。この試練を通じて得た力を胸に、俺たちは再び歩き始めた。
♢
修行の日々が続く中、俺たちは少しずつだが確実に強くなっているのを感じていた。だが、心の中に燻る不安は消えない。氷結先輩――玲奈先輩が妖魔に堕ちてしまったことが、いまだに信じられなかった。
彼女はあれほどの冷徹さと強さを持ちながらも、学園にとって頼れる存在だった。それが今では、大妖魔として封魔学園に対する最大の脅威となってしまっている。学園内には彼女の討伐命令が出され、上級生や教師たちが次々と討伐隊に加わっているが、未だに決着はついていない。
俺たち一年生は、まだ直接戦うには力が足りないと判断され、日々の修行に打ち込む日々だった。それでも、心のどこかで、彼女と再び対峙する日が来るのではないかという予感がしてならなかった。
ある日、訓練を終えた俺たちは、再び集まって情報交換をしていた。真や霞、小夜と共に、これまでの戦い方や新たな戦術について話し合い、どんな状況にも対応できるように備えている。
「拓真、最近調子が上がってきてるな」
真が微笑みながら俺を見て言った。彼のその笑顔に、俺は少しばかりの安堵を覚えた。
「お前だって、どんどん腕が上がってるじゃないか。真がいれば、どんな敵だって怖くないよ」
そう返すと、真は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。それを見て、霞がくすくすと笑いを漏らす。
「仲が良いのは結構だけど、油断してると足元をすくわれるわよ」
霞の鋭い言葉には、常に緊張感が漂っている。彼女はどんな時でも冷静で、俺たちを引き締めてくれる存在だ。
「霞の言う通りだな。油断せずにやっていかないとな」
俺が頷くと、皆も真剣な表情で応じた。俺たちは互いに励まし合いながら、闇に立ち向かう覚悟を固めていた。
その夜、俺はふと夜空を見上げていた。冷たい風が肌を刺すように吹きつけ、あの時の氷結先輩の冷たい眼差しが脳裏に蘇った。彼女は本当に、闇に堕ちてしまったのか――そんな疑問が、頭から離れない。
「拓真、こんな夜更けに何をしてるんだ?」
不意に声をかけられ、振り向くとそこには真が立っていた。彼は少し心配そうな表情を浮かべている。
「真……ただ、考え事をしてただけだよ」
そう言っても、彼には伝わらないだろう。この胸の中の葛藤を、どう伝えればいいのか分からない。
「玲奈先輩のこと、まだ気にしてるのか?」
真のその問いに、俺は小さく頷いた。
「当たり前だろ……彼女は俺たちの先輩で、強さの象徴だった。それが今じゃ、大妖魔として学園にとって脅威になってるなんて……信じられないよ」
真は黙って俺の話を聞いていたが、やがて静かに口を開いた。
「俺たちが、あの先輩を救える方法はないのか?妖魔になってしまったとしても、まだ彼女の心がどこかに残ってるかもしれない」
その言葉に、俺は一瞬驚いて顔を上げた。真は真剣な目で俺を見つめている。
「真、お前……彼女を救うことができると思ってるのか?」
「俺には分からない。でも、玲奈先輩があそこまでの力を持っていたのは、きっと彼女なりの理由があったはずだ。それをただ討伐して終わりにするのは、何か違う気がしてならないんだ」
真の言葉には、不思議な力があった。彼の信じる心が、俺の中で小さな希望を呼び起こす。
「……そうか。俺たちはまだ弱いかもしれないけど、諦めるわけにはいかないよな」
俺は強く頷き、再び決意を固めた。彼女がどんな状況であろうと、俺たちは戦い抜くしかない。
翌日、修行の場に戻った俺たちは、これまでにない集中力で訓練に打ち込んだ。霞も小夜も、全員が真剣な顔つきで、自分たちの力を高めようとしている。
「さあ、次の試練に挑むぞ!」
俺の掛け声とともに、全員が一丸となって新たな技術や戦術を磨いていく。敵がどんなに強大であろうと、俺たちは決して屈しない。自分たちの手で玲奈先輩を救うか、それとも討つか――その時が来るまで、俺たちは戦い続ける覚悟だ。
全員がそれぞれの思いを胸に秘め、仲間と共に成長し続ける。その強さこそが、俺たちの武器であり、希望だった。
そして、その日が来るのを待ちながら、俺たちは試練を乗り越え、力を蓄えていった。
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