第31話
洞窟の奥から脱出し、山岳地帯の斜面を下りる頃には、俺たち全員が疲れ果てていた。だが、これで修行が終わるわけではない。学園の指導教官からも次の指示があり、次の目的地である「闇の森」に向かわなければならなかった。
「闇の森か……そこは、妖魔の巣窟として有名な場所だな」
真が険しい表情でつぶやく。学園でも噂に聞く森だ。妖魔が跋扈する森で、昼でもほとんど光が差し込まず、闇が支配しているという。そんな場所での戦いに緊張が走る。
「この試練が終われば、一つ上の階級へ進めるって話だ。ここで怯んでいるわけにはいかない」
俺の言葉に、真も小夜も霞も、それぞれ決意を込めた目で頷く。俺たちは、この道を進む覚悟を決めている。氷結先輩を止めるためにも、そして自分たちの強さを証明するためにも。
闇の森の入り口に足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした湿気が肌にまとわりついてきた。木々が鬱蒼と茂り、頭上を覆う葉がわずかな光すら遮っている。視界が悪く、何かが潜んでいる気配がする。
「気を抜くな。ここは、どこから何が出てきてもおかしくない」
霞が鋭い声で注意を促す。彼女の目は既に森の奥深くを見据え、いつでも戦闘に入れるようにしている。
俺たちは武器を構え、慎重に森の中を進み始めた。ときおり遠くから動物の鳴き声が聞こえるが、それもどこか不気味に感じられる。何かの視線が背中を刺しているような感覚が拭えない。
「……いる!」
小夜が突然叫んだ。次の瞬間、木々の陰から数体の妖魔が現れ、鋭い牙と爪をむき出しにしながらこちらに向かって突進してくる。
「避けろ!」
真が叫び、全員が一斉に散開する。俺は素早く魔銃を構え、接近してくる妖魔に狙いを定めて撃つ。しかし、狭い空間での戦闘は難しく、動きが制限される。
妖魔の一体が、狙いを外した隙を突いて俺に飛びかかってきた。鋭い爪が目の前に迫り、反射的に身を伏せる。冷や汗が背中を伝う。
「拓真、右だ!」
真の声が響き、彼が横から飛び込んで妖魔の攻撃を受け流してくれた。その隙に俺は体勢を立て直し、真に感謝の意を込めて頷く。
「ありがとう、真!」
俺たちは再び妖魔に立ち向かい、連携を取りながら次々と撃破していく。真が前衛で攻撃を引き受け、小夜が背後から奇襲し、霞が遠距離から援護を行う。そして俺が、狙いを定めた一撃を放つ。
それぞれが役割を理解し、互いに補完し合う。戦いが激しさを増すにつれ、俺たちの動きは一つの歯車のように噛み合っていった。
やがて、森の中に散らばっていた妖魔たちが一掃され、再び静寂が戻った。
「ふぅ……なんとか乗り切ったな」
息を整えながら、真がほっとしたように微笑む。俺たちも疲れはしたものの、互いに目を見合わせて、達成感に満ちた笑みを浮かべていた。
「ここまで強くなれたのは、修行のおかげね」
霞が満足そうに頷き、小夜も肩の力を抜いて微笑む。修行は厳しかったが、それでも確実に自分たちが成長しているのを感じられる瞬間だ。
だが、次の瞬間、再び周囲の空気が一変した。今までとは異なる、異質な妖気が森の奥から迫ってくるのを感じる。
「これは……一体、なんだ?」
真が警戒を強め、俺たちも再び構えを整えた。闇の森の奥から、明らかに強力な妖魔がこちらに向かっているのがわかる。これまでの妖魔とは比べ物にならない圧力が、遠くからでも伝わってきた。
「どうやら、ここからが本当の試練のようね」
霞が冷静に呟き、俺たちは気を引き締めた。ここまで来た以上、引き下がるわけにはいかない。全員が目標に向かって突き進む覚悟を決めている。
「行こう!この試練を越えて、さらに強くなるんだ!」
俺たちは再び森の奥へと足を踏み入れた。
森の奥に進むごとに、空気はますます重く、妖気が濃密になっていくのを感じる。肌が粘りつくような感覚に襲われ、視界もかすむ。これまで戦ってきた妖魔とはまるで別格の存在が、すぐそこにいることを本能で理解していた。
「気を抜くな。何が出てくるか分からない」
霞が低い声で警告を発し、全員が武器を構えて緊張を高めた。森の奥からは、異様に重い気配が漂ってくる。風はぴたりと止み、周囲は異様な静寂に包まれていた。
すると、突然、木々の間から巨大な影が現れた。圧倒的な存在感を持つその姿は、普通の妖魔とは一線を画すものだった。全身が黒い霧のように覆われ、鋭い爪と赤い瞳がこちらをじっと見据えている。見た目だけでなく、その圧力に全員が一瞬ひるんだ。
「これが……大妖魔……」
真がつぶやく。その声には、わずかな恐怖が混じっていた。しかし、それでも俺たちは戦わなければならない。ここで逃げるわけにはいかない。
「行くぞ! 全員、気を引き締めて!」
俺が叫ぶと、真も霞も小夜も、決意を込めた表情で頷いた。全員が戦闘態勢を取り、妖魔に立ち向かう準備を整えた。
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