第29話
森の奥深く、次の目的地に向かって歩を進める俺たちの前には、濃い霧が立ち込めていた。先ほどの戦闘の疲れがまだ残っているが、試練の旅は始まったばかり。これからさらに厳しい戦いが待っていることを考えると、体を休める暇すらない。
「はぁ…やっぱり一戦ごとにこんなに疲れるなんて、思ってたよりもきついわね」
霞が小さくため息をつきながら、頭を振って疲れを飛ばすようにしつつ言った。彼女のいつもの強気な表情が少しだけ緩んでいるのを見ると、俺もやはり少しずつ疲労が蓄積してきているのを感じる。
「霞、大丈夫か? 無理しないで、休憩を挟んでもいいんだぞ」
真が優しい口調で霞に声をかける。彼の言葉には冷静な配慮が感じられ、俺も少し気が楽になった。だが、霞はそれを気にする素振りを見せず、鋭い視線で前方を見据えたまま言葉を返す。
「ふん、これくらいで音を上げる私じゃないわ。下っ端妖魔の討伐なんだから、もっと気合い入れないと」
彼女の強がりに、俺は苦笑しながらもその意気込みに励まされた。みんな、それぞれが限界を超える覚悟を持っているんだ。そう考えると、俺もこの試練を通じてさらに強くなりたいという気持ちが湧いてくる。
しばらく歩いたところで、霧の中から低い唸り声が聞こえてきた。全員が立ち止まり、気を引き締めて周囲を警戒する。
「また妖魔か…どうやら数が増えてきたみたいだな」
小夜が鋭い目で周囲を見回し、声を低めて呟く。その言葉に、俺たちは再び戦闘態勢に入った。
霧の向こうから現れたのは、三体の妖魔だった。前回の妖魔よりも明らかに体格が大きく、鋭い爪が輝きを放っている。こちらをじっと見据えるその目には、獰猛な殺意が宿っていた。
「数が多いわね…これ、ちょっと厄介かも」
霞が少し不安そうに呟くが、その声にはどこか闘志も感じられる。彼女はすぐに薙刀を構え、前に出て身を守る態勢を取った。
「拓真、小夜、真! 連携をしっかり考えながら動くぞ!」
真が冷静に指示を出し、俺たちはそれぞれの位置を定めた。霞が前衛で妖魔たちの注意を引きつけ、俺と真が援護に回る。小夜は素早い動きで敵の背後を取る役割だ。
妖魔たちは唸り声を上げながら、ゆっくりと俺たちに迫ってくる。体の大きさと威圧感に気圧されそうになるが、ここで怯んではいけない。
「行くぞ!」
俺が魔力を込めた弾丸を放ち、真も同時に剣を構えて前に出た。弾丸は妖魔の肩に命中し、火花が散る。だが、妖魔は傷を負ったにもかかわらず後退せず、さらに勢いを増して襲いかかってきた。
「くっ、しぶとい奴らだ!」
霞が鋭く踏み出し、妖魔の攻撃を受け止めながらも、その隙を突いて薙刀を振り下ろした。その一撃が妖魔の腕をかすめ、黒い血が霧に舞い上がる。しかし、それでも妖魔は怯まず、さらに激しく暴れ始めた。
「私が引きつけるから、後ろから攻撃を続けて!」
霞の指示に従い、俺たちはさらに攻撃を仕掛けた。小夜が妖魔の背後に回り込み、鋭い蹴りを放つと、妖魔のバランスが崩れる。その隙を見逃さず、俺は魔力を最大限に込めて「焔」を発射した。
「焔!」
弾丸は妖魔の胴体に直撃し、爆発のような火が立ち上がる。周囲の霧が一瞬にして吹き飛び、妖魔たちが怯んだ隙を突いて、真が剣を振り下ろす。
「このまま仕留めるぞ!」
真の一撃が妖魔の頭部に命中し、妖魔は唸り声を上げながら地面に倒れ込んだ。残る二体もまた、霞と小夜の攻撃で大きな傷を負い、次第にその動きが鈍くなっていく。
「もう一息…頑張れ!」
俺たちは一瞬の隙を見逃さず、全力で妖魔たちに追撃を加えた。霞が最後の力を振り絞り、薙刀で妖魔の首を斬り落とすと、妖魔たちはようやくその動きを止め、地面に崩れ落ちた。
静寂が訪れ、俺たちはようやく息をついた。全身から汗が滲み出し、疲労が一気に押し寄せてくる。だが、達成感と共に成長を感じられる瞬間でもあった。
「ふぅ…これでひとまずは安心か」
真が剣を鞘に戻し、安堵の表情を浮かべた。霞も薙刀を納め、少し得意げな笑みを浮かべている。
「まだまだ戦いは続くけど、これで少しは自信がついたわね」
霞が小さく微笑んで言った。その言葉には少しだけ余裕が感じられる。俺も頷き、次の戦いへの決意を新たにした。
「この調子で、もっと強くなっていこう」
俺たちは互いにうなずき合い、試練の先に待ち受けるさらなる困難に備えるため、再び森の奥へと進んでいった。
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