第27話
氷結先輩が妖魔となり、冷酷な姿で学園を去っていったあの日から、封魔学園は彼女の討伐を決意し、対策を講じ始めた。学園の警報は一時的に解除されたものの、戦闘態勢は今なお緊張を強いられ、生徒たちの間にも不安が漂っていた。
俺や真たち一年生は討伐のメイン部隊には選ばれなかった。実力が足りないことは自覚している。氷結先輩の力と比べれば、今の俺たちが挑むには無謀すぎる相手だ。だからこそ、学園側は俺たち一年生に、地道な修行を通じて実力を底上げすることを求めた。
それからの日々、俺たちはひたすらに訓練を重ね、少しでも戦力になれるよう下っ端妖魔との戦いに挑んでいった。
「行くぞ、拓真!」
「おう!」
目の前に現れる妖魔は、先輩たちが戦うような強力なものではない。だが、俺たちにとっては決して気を抜ける相手ではない。妖魔との戦いは、いつも死と隣り合わせなのだ。
真は冷静に構え、俺は少し後ろに位置して援護に回る。俺たちの連携も少しずつ磨かれていき、互いの動きを察知しながら戦うことができるようになってきた。
目の前の妖魔が牙を剥き出しにし、こちらに向かって突進してくる。俺は素早く魔銃「焔」を構え、魔力を込めた弾丸を放った。真がその隙に前に出て、剣を振り下ろし、妖魔を一撃で倒す。
「まだまだだな、拓真」
「くそ、もっと早く援護に入らなきゃな」
俺は息を整えながらも、次第に自分の中に闘志が湧き上がるのを感じた。氷結先輩の冷たい背中が脳裏に浮かぶ。彼女のようにはなりたくない。だが、彼女のように強くなることで、仲間を守りたいと思う気持ちは消えない。
その後も、俺たちは次々と妖魔を討伐し、経験を積み重ねていった。時には真や他の仲間と共に戦い、時には自分自身の力だけで立ち向かう。
下っ端妖魔とはいえ、手を抜けば一瞬で命を奪われかねない相手だ。俺たちはそれぞれの弱点や戦術を見つけ出し、少しずつだが確実に成長していくのを感じた。
戦闘の合間、学園の教師や先輩たちからも指導を受ける。特に戦闘経験が豊富な上級生からのアドバイスは、実戦にすぐ役立つものばかりだった。
彼らの教えを実践するたびに、自分が強くなっている実感が湧いてくる。
しかし、そんな日々が続く中で、ふとした瞬間に、氷結先輩の言葉が頭をよぎる。
「いずれ、この世界は妖魔に飲まれる。あなたたちも妖魔になってしまうのです」
彼女の冷たい声が、まるで呪いのように耳元に囁いてくるような錯覚に陥ることがある。その度に俺は心の中で「違う、俺は妖魔になんかならない」と言い聞かせ、鍛錬に打ち込んだ。
「拓真、大丈夫か? お前、最近ずっと無理してるみたいだぞ」
ある日、真が俺の肩に手を置いて問いかけてきた。確かに、俺はどこか焦りを感じているのかもしれない。氷結先輩に憧れ、そして彼女が堕ちていく姿を目の当たりにしたことで、強くなることへの執着が強まっていた。
「……大丈夫だ。だけど、俺はもっと強くなりたいんだ」
真は少しだけ悲しそうな顔をして、俺の言葉を受け止めた。
「わかってるよ。だけど、焦るなよ。強くなるのはいいが、お前が変わってしまったら意味がない」
真の言葉が胸に響いた。俺は強さを求めるあまり、大切なものを見失いかけているのかもしれない。妖魔に堕ちた氷結先輩のようにはなりたくない、そう思いながらも、その強さに憧れる自分がいる。
それでも、真や仲間たちが俺を見守ってくれている。彼らと共に成長しながら、決して闇に染まらないように自分を保っていきたいと改めて思った。
その日も、俺たちは再び訓練場に戻り、妖魔との戦いに備える。
そしていつか、氷結先輩と向き合うその時までに、自分を強く、そして仲間を守れる存在になれるよう、俺たちは鍛錬を続けていくのだった。
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